空を制するもの 3
思わず一瞬目を閉じていた。そして、想像していた衝撃がこなかったことに、エレノアは驚いていた。
ゆっくりと目を見開くと、目の前に黒い天馬に乗った黒き甲冑の騎士が、己の剣でディアブロの長刀を受け止めているのが見えた。
「オドネル!」
二度も危機を救った相手に向かって声をあげると、彼はすぐさま言った。
「逃げろ! エレノア!」
しかしそんな言葉を聞けるわけがない。エレノアは代わりにディアブロに己の槍を突きつけにいった。
さすがに危険を察したのか、それまで攻撃するいっぽうだったディアブロがエレノアたちから遠ざかり、間合いをとった。
だが、やはりディアブロの存在は大きかった。それまでだいぶ弱まっていた魔物たちの勢力が増し、追撃の手が先程よりも大きなものになっていた。
「いけない。この勢いのまま来られては、かなりの痛手を負ってしまう。どうすれば……」
エレノアがそう言っている間にも、魔物たちの攻撃は、殿軍部隊を苦しめていた。オドネルやユイハ、ニナたちが懸命にそれを押しとどめているものの、今にもその防衛戦は崩されそうなところまできていた。
ディアブロはすでに体勢を整えている。次なる攻撃がいつきてもおかしくなかった。なんとかその攻撃から仲間を護りたい。そして、できることならそれをはねのけ、魔物たちを追い払いたい。
(どうすればいい。どうすれば……)
エレノアが上空で悩み苦しんでいると、ふいに遠くの空になにか蠢くものが見えた気がした。それはみるみるうちに大きくなっていき、その正体に彼女が気がついたそのとき、空から魔物たちの群れに向けてなにかが降ってきた。
『ギャアアアアアッ!』
魔物たちの悲鳴が次々とあがる。雨のように矢が魔物たちに襲いかかっていた。
『何事だ!』
さすがにその事態に、ディアブロが焦りの声を発した。
「援軍だ! 間に合ったんだ!」
ユイハの叫びが聞こえた。そしてその先の空に、たくさんの飛竜たちが飛んでいるのが見えた。その背には、竜の民である獣人たちが乗っていた。そして、そのなかにとある人物が混ざっていることに気づいたニナがこんな声をあげた。
「パパ!」
援軍部隊を率いていたのは、他でもないあのナギリだった。あれほど頑なに人間たちとの協力を拒んでいたナギリが来てくれたことに、エレノアは驚喜で胸が躍った。
「ナギリ!」
ユイハもナギリのもとに近づき、声をかける。
「よく来てくれた! お前が来てくれたなら、百人力だ!」
喜びの声をあげるユイハに、ナギリはあくまでも冷静に答えた。
「そんなことよりも、この勢いで魔物たちを一気に追い払うんだ! ユイハ! お前も加勢しろ!」
そうして、新たなる飛竜部隊の登場が効を奏し、ついに魔物たちの群れは逃走を始めた。
『くそ! これ以上の追撃はしもべたちの数を減らすばかりか。仕方ない。ここは一旦退くぞ!』
ディアブロは手下たちにそう言うと、後方に現れた黒い闇の穴にその身を沈めていった。辺りにいた魔物たちもその穴に吸い込まれていき、とうとう周囲から魔物たちの姿は一匹もいなくなっていた。
明日、終章で第二部完結となります。




