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そして世界に竜はめぐる  作者: 美汐
第十章 空を制するもの
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空を制するもの 2

 その一瞬後のことだった。

 遠く魔物たちの後方から、地の底から響くようなうなり声が聞こえてきた。そして、そこから黒い悪鬼が轟音とともにこちらへと向かってきていた。


「ディアブロだ!」


「黒い悪鬼が近づいてくるぞ!」


 周囲にいたものたちが口々に悲鳴のような声をあげた。そしてそんななか、その悪鬼は逃げようとする飛竜の一匹をなぎ払いながら、エレノアに接近してきた。


 ギィン!


「くっ!」


 エレノアは固く歯を食いしばった。槍でどうにか防いだものの、重すぎるディアブロの攻撃に体中が痺れていた。

 ディアブロの赤い目がぎょろりとエレノアを見る。口からは障気のようなものが吹き出していた。


『生きては帰さぬ。我が刃の露となれ』


 ディアブロが次の攻撃をしようと振りかぶったとき、横からすさまじい熱気が噴出した。


「魔物! こっちに来るな! 向こうの世界に帰れ!」


 ニナがアカの背中の上で叫んでいた。アカが懸命に口から炎を出してディアブロを攻撃している。

 ところが、ディアブロはその炎をものともせず、逆にニナたちに向かって長刀を振り下ろした。


「ニナ!」


 ユイハが叫び、ニナのもとへ急いで向かう。アカは間一髪ディアブロの攻撃を逃れたが、あとほんの少し遅かったら、その攻撃はニナとアカを亡き者としていただろう。

 そうしている間にも、他の飛竜騎兵がディアブロに攻撃をしかけていた。しかし、ディアブロは返す刀でその一騎を斬り払った。飛竜ともども地上へと落ちていく。


「おのれ! この悪鬼!」


 エレノアはそれを見て怒髪天を衝くように怒りの形相を浮かべ、ディアブロに攻撃をしかけた。旋風の如く槍を振るうが、しかし攻撃はことごとく弾かれ、傷一つとしてつけさせることはできなかった。


「くそっ」


 エレノアは強敵の前に、焦りを感じていた。己の力が通用しないことに、悔しくて悔しくてどうしようもなかった。

 両親を殺した魔物がすぐ目の前にいるというのに、自分ではどうすることもできない。仇を取りたい、両親の無念を晴らしたいと思うのに、それができない。


(私はこのときのために今まで生きてきたというのに! そのために天馬騎士となり、腕を磨いてきたというのに……!)


 エレノアはそれでもあきらめず、果敢にディアブロに攻撃をしかけていった。しかしそのことごとくが弾き返されてしまう。


(通用しない。結局、人間は魔の力には敵わないのか。世界が次第に蝕まれていくのを、黙って見ているしかないのか)


 絶望感で胸がいっぱいになり、悔しさで噛み締めた唇が破れた。血の味が口中に広がる。


『死ね! 人間ども!』


 ディアブロが長刀を振り上げた。またあの強烈な攻撃が襲ってくる。今度は防ぎきれないかもしれない。

 ゴウッとうなりをあげて、黒光りする長刀の切っ先がエレノアの目の前に迫っていた。


 と、そのときだった。視界の端にもうひとつの黒い影が近づいてきていた。この状態でさらに違う魔物が襲ってきたとしたら、それはもう無理だ。防ぎきれない。


(死ぬ!)



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