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そして世界に竜はめぐる  作者: 美汐
第十章 空を制するもの
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空を制するもの 1

『ディアブロ様。人間たちはどうやら全軍退却を始めたようです』


 しもべのグールが、ディアブロにそう報告をしにきた。それを聞いたディアブロは、静かにほくそ笑む。


『尻尾を巻いて逃げるか。やはり矮小なる人間たちがどんなに抵抗したところで、我ら魔族の力にかなうわけがないのだ』


『どうなされますか。追いかけますか?』


 しもべの言葉に、一瞬考えるような仕草を見せたディアブロだったが、すぐにこう言った。


『追え! どの人間も一人残らず狩るのだ。人間どもに、我らの恐ろしさを存分に味わわせてやれ!』


 ディアブロの顔に残酷な笑みが浮かんでいた。






 ユイハは飛竜を駆りながら、退却する部隊の殿しんがりを務めていた。飛竜たちは追ってくる魔物たちに向けて炎をまき散らし、行軍を妨げていたのだ。


「やつらをこれ以上近づけるな! 死力を尽くすんだ!」


 飛竜部隊の長を務めるユイハは懸命に仲間に声をかけ、落ちた士気をあげるよう努力していた。


「ユイハ。ニナ、頑張る!」


 みなが死闘の末の退却という事態に沈むなか、子供であるニナが他の仲間のうちで誰よりもいい働きぶりを見せていた。

 飛竜のアカをはばたかせ、向かってくる魔物たちをその口から吹く炎で焼き尽くしていた。それに負けじとユイハも自分の飛竜を飛ばす。

 飛竜の吐く炎は、魔物たちの行軍を妨げるのにかなり貢献していた。これにより、実際に他の部隊はかなり遠くまで退却ができていた。

 しかし、やはりユイハとしては悔しさの大きく残った戦いとなっていた。誰にも負けないと自負していた飛竜と竜の民の力。それがこうもあっさり跳ね返され、退却を強いられるとは。


(援軍さえ間に合っていれば……)


 ユイハはついそのことを思っていた。飛竜の谷に残っていた仲間は、今いる飛竜部隊三十騎よりも多い。飛竜一体で他の人間たちの三倍は戦力になることを考えれば、三十でもかなりの力ではある。しかし、今回の戦いでの敗因は、圧倒的な魔物たちの数にあった。たとえ飛竜部隊が大きな働きを見せたとしても、それは一極のことであり、全体ではかなり押されてしまっていたのだ。

 そしてこの退却という事態に陥ってしまっていた。


 だがもし、援軍が間に合ってさえいれば、この事態は避けられたかもしれない。飛竜の力は大きい。それが一つから二つとなれば、戦局は大きく変わるに違いない。

 今となってはもう遅いのかもしれないが、それが加わればまだ戦えるとユイハの中の闘志が言っていた。






 エレノアは全軍が退却するのを見ながら、自分も殿軍に加わろうと、退却する部隊とは反対方向に駆けていた。

 ディアブロ率いる魔物の群れは、なかなか追撃の手を緩めようとはしなかった。殿を任せたユイハたちもきっと苦戦を強いられていることだろう。エレノアは愛馬を懸命に走らせ、とうとう殿部隊に合流した。


「ユイハ!」


 エレノアが飛竜に乗った若草色の髪の彼女に声をかけると、魔物たちに飛竜の炎を浴びせていたユイハが振り向いてこちらを見た。


「大丈夫か! 殿軍という大役を任せてしまって申し訳ないが、飛竜部隊の力は魔物たちを追い払うのに適任だと思ったんだ。状況を見ると、どうやらその目論見は的を射ているようだな」


 近くに来たエレノアにユイハも笑顔でかえす。


「ああ。やつら、飛竜の炎攻撃にだいぶまいってきている様子だ。もう追っ手もほとんどいなくなってきた」


 ユイハの言葉通り、先程ユイハが追い払った魔物の後方には、もうほとんど魔物はいなかった。


「退却のほうは順調のようだね」


「ああ。なんとかこのまま近くの城砦に逃げられそうだ。しかし、あのディアブロがこのままおとなしく私たちの逃走を許すとは思えない。やつが再び現れれば、我が軍はぼろぼろに突き崩される。やつが追いついてくる前に、早く退却を終えてしまわないと!」


 そのとき、ぞっとするような黒い気配をエレノアは身近に感じ、はっと周囲を見回した。なにか恐ろしい予感がして、叫ぶように言った。


「急げ! なにかが近づいてくるぞ!」



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