第九十二話「七階層のドロップ品」
溶岩地帯なんて行きたくない。
名前を聞くだけでも日焼けどころか黒焼けしそうだ。いや、炭にならずに溶けるか。
しかし、溶岩というのは面白い。
六階層に落とし穴を作って魔物を溶岩の中にダイブさせれば結構な収入になるのではないだろうか?
素材も燃えてしまいそうな気がするが、魔石は燃えずにいてくれると信じたい。
とはいえ、六階層の魔物ともなると、知能も高くなってきているので、歩きキノコのように落とし穴に落ちてはくれないか。
それに、ミノタウロスくらいの大きさの魔物を落とす穴となると、相当大きくて隠すこともできない。
……ん? いや、これは発想の転換じゃないか?
六階層に落とし穴を作れば、七階層の熱気が上がって、魔物を弱らせることができる気がする。
いや、しかし六階層の魔物がその熱気から逃げるように別の階層に移動されたら困る。
ダンジョンの魔物は基本、別の階層に移動したりはしないが、例外として敵を追いかけたり、逆に逃げたりしているときは階層を跨いで移動する。
溶岩の熱気を攻撃と捉えたら、六階層の魔物が五階層に上がる可能性は十分あるだろう。
落とし穴は却下だ。
なら、七階層に水飲み場を設置して、溶岩を固めて、溶岩の中にいるであろうフレイムフィッシュを窒息死させるというのはどうだろうか? いや、ゲームじゃあるまいし、焼石に水ならぬ溶岩に水だ。そう簡単に固まるとは思えない。
ん? ……溶岩の熱で水を温めれば、天然温泉ができたりしないか? 温度調整は難しそうだが。
……温泉に入るのに命がけはやっぱり嫌だな。
これは俺が強くなって七階層まで毎日降りても余裕となったときに考慮しよう。
「ご主人様。どうなさったのですか?」
「あ、悪い。つい考え込んでしまってな。七階層なんだが――」
俺はフロンに七階層の構造と魔物について説明した。
「これは価値のある魔物ですね」
「価値があるのか?」
「マグマスライムの皮やフレイムリザードマン、フレイムフィッシュの鱗は火に耐性のある防具の材料に使われます。できることなら、フレイムラットにもいてもらいたかったのですが」
「フレイムラットは凄い物を落とすのか?」
「フレイムラットのドロップアイテム自体はそれほど価値はありませんが、フレイムラットのいる迷宮に時折現れる、レア種のファイヤーラットがとても貴重な素材を落とします」
フレイムより、ファイヤーの方がレアなのか。なんか、フレイムの方が強そうだから、そっちの方がレアっぽいんだが。
「なんて素材を落とすんだ?」
「火鼠の皮衣という、絶対に燃えない毛皮を落とすそうです」
あ、そういうネタね。
「かぐや姫が喜びそうなアイテムだな」
「カグヤヒメというのがどなたかは知りませんが、以前この世界にいた魔王がとても愛用していたアイテムだそうです」
フロンが教えてくれた。
また出たよ、魔王。
まぁ、こっちの世界では千年以上も君臨していた魔族の王らしいから、逸話も腐るほどあるんだろうな。
「しかし、溶岩地帯となると、テンツユが探索するには、少々荷が重いかもしれませんね」
「だよな。燃えちまいそうだし」
いくらクールタイムで復活できるといっても、使い魔達を使い捨てにするつもりはない。
とりあえず、サンダーに七階層が追加されたことと、魔物について教えておくか。
彼が広場に来たのをマップで確認し、声を掛けた。
「ということで、七階層が追加されたぞ。溶岩地帯で、出てくる魔物はマグマスライム、フレイムリザードマン、フレイムフィッシュだ」
「おぉ、良い魔物じゃねぇか!」
「なんだ、炎耐性の防具でも欲しいのか?」
「いや、俺が欲しいのは別のドロップアイテムだ。マグマスライムはマグマスライムの皮の他に、極稀にマグマスライムエキスって呼ばれる調味料の一種を落とすんだがよ」
そう言って、サンダーは口から溢れる涎をすすってみせた。
調味料?
この世界でも胡椒のようなスパイスは高値で取引されるのだろうか?
「それが普通の唐辛子より十倍辛いって言われてるんだ」
異世界版のデスソースかよ。
俺は絶対に食べたくない。
「フレイムリザードマンやフレイムフィッシュの肉も辛くて、それがまた酒に合うんだ」
「サンダーって辛い物好きなのか?」
「ああ、まぁな。辛ければ辛いほどいいな! よし、早速潜ってみるか」
サンダーはそう言って、早速ダンジョンの奥へと潜っていった。
まぁ、彼なら大丈夫だろう。
でも、異世界版デスソースか。
一体、どれくらいの値段で売れるか、シャルさんに聞きに行くか。
ナマコの値段を聞いたばかりだが、交易所に戻っていたシャルさんに話を聞いた。
「マグマスライムエキスでしたら、五百センスですね」
「五百もっ!?」
銀貨五枚、ナマコの六倍だ。
たかがデスソースに……いや、香辛料が貴重なこの世界だったら、薄めても十分に辛味がある調味料は貴重なのか。一滴スープに入れたら刺激になるだろうし。
「ですが、マグマスライムのドロップ確率は一パーセント未満と言われていますので、そうそう見つかりませんよ」
「そうですか」
残念だが、そうそう美味い話は転がっていないということだな。
マグマスライム、三匹しか湧いていないしサンダーも今日は無駄骨だろう。
「ジョージ! 情報ありがとうな! おかげでマグマスライムエキスが手に入ったぞ!」
しっかり一パーセントを引き当ててきやがった。
凄い強運の持ち主だと感心する。
情報の礼に、七階層で拾った魔石を貰ったからよしとするが。
ちなみに、サンダーがマグマスライムエキスを入れたスープを自分で作っていて、それを一口貰ったんだが――しばらく口が開きっぱなしになっていた。




