第九十一話「第七階層追加」
ライムが海底を調査している間、俺とフロンは迷宮の稼働状況について確認することにした。
一階層、ここは歩きキノコが発生するだけの迷宮で、発生した歩きキノコは例外なく落とし穴に落ちている。落とし穴の底には大きな針があるため刺されば一撃で死ぬ他、針に刺さらなくても落下の衝撃で死ぬので問題ない。
「一階層の罠の追加は必要なさそうだな」
「はい。一階層は生活領域ですから、このままがいいと思います。これから島民が増えたら、念のために、落とし穴の手前に落下防止用の柵を作ったほうがいいかもしれませんね」
「そうだな。それで二階層は……」
二階層に発生する魔物は、青スライム、スライムイーター、スロータートルの三種類。
スライムイーターという植物の魔物は青スライムを匂いでおびき寄せ食べることで狂暴化し、人間の服を脱がせにかかる。
青スライムとスライムイーターは同じ部屋に発生しない。
そして、スライムイーターの香りが青スライムを引き寄せるため、スライムイーターの部屋と青スライムの部屋の間の通路に消えない松明を設置することにより、青スライムがスライムイーターのいる部屋に行くのを防ぐことに成功している。
それどころか、青スライムの一部はスライムイーターの匂いに抗えず、炎の中に突っ込んで自滅する者も多いので、歩きキノコと同じく俺の不労所得の一部になっている。
だが、万が一スライムイーターがスライムを食べてしまったときのことを考えると放置もできないので、スライムイーターが発生したら真っ先に間引く対象となっている。
スロータートルはそう言う意味では危険ではない魔物で、時折、部屋の端に置いている飛び出す槍に引っかかって串刺しになってくれている。飛び出す槍は走る速度で通過した場合、罠の作動とのタイムラグで被害が出ないのだが、スロータートルはその名の通り動きが遅いので相性がいいようだ。
三階層に発生する魔物は、角の生えたウサギのアルミラージと、小さな牛のミニタウロス。
この二匹、俺たちにとっては大切な食糧源である。
亀肉やキノコもおいしいのだが、ウサギ肉と牛肉はそれより遥かに美味いのだ。
ただ、問題は罠の設置だ。
飛び出す槍を設置したいのだが、この三階層は草原地帯であり、飛び出す槍を設置すると罠のある場所が非常にわかりにくく、俺たちが自分で仕掛けた罠に自分で引っかかる恐れがある。それに、仮に罠を設置してもアルミラージは非常にすばしっこく、タイムラグのせいで罠にかからない。逆にミニタウロスは草を食べるためずっと下を向いているので槍が飛び出す穴に気付くのか、まったく引っかからないのだ。
そのため、三階層より下は現在、テンツユに退治を任せているというのが現状である。
四階層に現れる魔物は、ミニタウロス、ワイルドボア、ワイルドベア。
この辺りになると、魔物も少し厄介になってくる。
なにしろ、ワイルドボアとワイルドベアはまさに野生のイノシシと野生の熊、しかも狂暴補正付きなのだ。
野生の魔物だった場合、どちらも冒険者にとっては肉も毛皮も売り物になり、お手軽に稼げる魔物として有名らしいのだが、迷宮に現れた場合、落とす肉は多くて十キロ程。毛皮も一頭分には程遠い状態。
いちいち探し回る必要がないという意味では嬉しいのだが、怪我を覚悟して戦うとなると割に合わないそうなのだ。
そのため、テンツユにも無理して四階層で戦う必要はないと言っている。それでも最近は狩りに行ってくれているので、そこそこ猪肉と熊肉のストックも増えてきた。
そして、五階層には、マンドラゴラが現れる。
このマンドラゴラ、倒せば薬となる根っこを落とすのだが、これがなかなか現れない。
レアモンスターではないのだが、最初に見つけてから、まだ一匹もリポップしていない。
そして、六階層。
ここにはミノタウロスが現れる。
二メートルを超える斧を持った牛人。なんちゃって牛モンスターのミニタウロスとは全然違う化け物。
なんでも、初心者向け迷宮の最下層付近に出現することがあるそうなのだが、普通の冒険者はミノタウロスから逃げて最下層を目指すらしい。
つまり、初心者の冒険者では対処ができないということなのだろう。
俺は一度倒したことがあるのだが、いまは二度と関わりたくない、正真正銘、命を賭して戦う魔物だ。
ちなみに、サンダーは一日一度はここまでやってきて現れたミノタウロスを全部倒して戻ってくる。
前にレアドロップのミノタウロスの斧を俺に見せてくれたことがある。重くて持てなかった。
これが現在の迷宮。
全六階層だ。
だが、最近、サンダーが物足りないと言ってきた。
これからここを迷宮の村にするなら、もっと深い方がいいそうだ。
まぁ、魔物は階をまたいでくることなんて、滅多にないそうだし、DPも十分ある。
そして、俺が一番期待しているのは、七階層を追加することで設置できる物が増えるのではないかということだ。
特に宝箱は俺にとって理想の設置物だった。
定期的にアイテムが手に入る他、出現する魔物も増えるため、それを倒して手に入る経験値や魔石が増える。
「拡張したほうがいいか、それともしばらくはこのままでいくか……フロンはどう思う?」
「私の意見を述べさせてもらえるのなら、拡張すべきかと思います。お金になる魔物が現れれば、それを目当てにこの島にやってくる人が増えるかもしれません」
「だよな……まぁ、俺が自分で行かなくても、強い冒険者に勝手に潜ってもらえばいいだけなんだから……じゃあ七階層を追加するか」
この時間ならサンダーもテンツユも迷宮の中にいない。
夜中に迷宮を拡張したら、振動で皆に迷惑をかける。
俺は頷き、迷宮の拡張を選択した。
大きな地揺れが数十秒続き、迷宮の拡張が終わった。
そして、地図を確認する。
「ん? 七階層は結構広いな。六階層の三倍くらいあるが……なんだ、この赤いのは?」
迷宮のマップを見ると、ところどころ赤いシミのようなものがあった。
こんなの初めてだ。
もしかして――
俺の頭に警戒ランプが点る。
そして既に現れている魔物の名前を見て……絶句した。
マグマスライム。
フレイムリザードマン。
フレイムフィッシュ。
……あぁ、間違いない。
どうやら、七階層は【溶岩地帯】のようだ。




