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第八十五話「紫ナマコ」

 テルさんが調べたところ、あの紫ナマコ(勝手に命名)は海底を這って移動し、パウルワたちの棲む島に渡ったらしい。

 ただ、紫ナマコがあの島以外の陸上で見かけたことがないため、紫ナマコはどこかの海底で発生したのではないか? というのがテルさんの推測だ。

 コショマーレ様はこの島のどこかに瘴気の溜まり場があるといったが、瘴気が濃い場所は女神様の力でも完全に見通せないそうなので、この島付近の海底である可能性も捨てきれない。


「よし、コショマーレ様の依頼は一旦保留で」

「おいおい、そんなんで大丈夫か?」


 サンダーが呆れたように言った。

 女神からの直接の依頼をそんな雑に扱っていいのか? という顔だ。

 


「別に保留といっても放置するって意味じゃない。海の中を探査できる従魔を仲間にしようと思ってる」

「それは、スロータートルのうどんちゃんのことですか?」


 シャルさんが尋ねたが、俺は首を横に振った。

 うどんは高スペックな亀であるが、パウルワの島のダンジョンの狩りも任せている。

 二つも三つも仕事を任せては、どちらかが疎かになる。


「ラムフィッシュです。まぁ、直ぐに従魔ってわけにはいきませんが、時間をかければ仲間にできます」


 百匹倒したら使い魔になる法則がこれからも適応されるのなら、ラムフィッシュはちょうどいい。

 現在、毎日うどんが五匹倒しているが、宝箱を設置すれば、その数はもっと増えるはずだ。

 うどんに頑張ってラムフィッシュを倒してもらって、使い魔を獲得し、そのラムフィッシュに紫ナマコの分布を調べてもらう。そうすれば、だいたいの海底の瘴気の溜まり場がわかるはずだ。


「じゃあ、俺たちはなにもしなくていいのか?」

「頼めるなら、島の調査を頼みたい。海底が瘴気の噴き出し口の最有力候補であることには変わりないが、他にあるかもしれないからな」

「それはいいが、じゃあジョージはどうするんだ?」

「俺はラムフィッシュとは別に、従魔を作るつもりだ。探索するには人手、いや、従魔手があったほうがいいからな」


   ※※※


 話し合いは終わり、翌日から行動を開始した。

 午前中はうどんと一緒に海獣の島に行くことになった。

 サンダーから船を借りて、俺とうどん、ふたりだけ。

 人数が減ったため、うどんの進むスピードは増している。


「サンダーに毎回船を借りるのもあれだし、自分で船を作りたいな」

「メー(僕の背中に乗る?)」

「いや、それはやめておくよ」


 船を引っ張るうどんが尋ねた。

 浦島太郎みたいだなと思ったが、残念なことに俺が乗るにはうどんは小さすぎる。

 うどんのパワーなら、きっと俺を乗せても泳げるだろうが、しかし常にふくらはぎより下が海水に浸り続けているというのはかなり辛いし、小さなうどんの上でバランスをとるのも一苦労だ。


「メー(大きくなったら乗るの?)」

「ん-、いまの三倍くらい大きかったら乗るかな」

「メー(じゃあ、海藻いっぱい食べるね)」


 それで三倍になるのかな?

 ……てか、使い魔って成長するのか?

 今後、身体測定をして体重や身長に変化があるか調べていくのも必要かもしれない。


 そんなことを考えながら、俺とうどんは海獣のいる島に近付いた。

 すると、パウルワたちが俺の前に顔を出す。

 俺のことを覚えているのだろうか?


 とりあえず、挨拶代わりに持ってきていた魚の切り身を投げ入れ、島に上陸した。


 地面はところどころ白い斑模様ができていた。

 おそらくチキンバードの糞だろう。

 前はここまで酷くなかった気がするが、なんでだ?

 紫ナマコが食べてたのか? それとも以前来たときは嵐の後だから、全部洗い流されていたのか?


 まぁ、そんなことはどうでもいい。

 俺は迷宮に行き、宝箱を設置した。

 当然、中身は回収させてもらう。

 今回の中身は、大きな琥珀だった。

 これは当たりじゃないだろうか?

 シャルさんに売ってお金か魔石にしよう。


「メー(ご主人様、一階層は作らないの?)」


 そういえば、ラムフィッシュが現れることで忘れていたが、この迷宮は、いまだ一階層すら存在しない、いわば迷宮の赤ちゃんなのだ。


「んー、そうだな。パウルワたちに悪影響が出たら困るし」

「メー(一階層の魔物なら問題ないと思うよ))」

「なんでわかるんだ?」

「メー(なんとなく?)」


 かなり曖昧だ。


「メー(たぶん、絶対大丈夫)」


 やはり曖昧だ。

 たぶんと絶対が並列している場合、信用できないと思う。

 が、使い魔は生まれながらに、迷宮に関する情報をある程度持ち合わせる。

 このうどんのなんとなくというのも、理由があって説明できるものではなく、言葉では説明できないがわかっているものなのだろう。


 それに、ラムフィッシュにしても、体当たりされて噛みつかれたら痛いというだけで、命にかかわるような魔物ではない。

 そんな迷宮に新たに階層を追加したところで、パウルワやチキンバードの敵になるような魔物がいきなり現れる可能性は低いだろう。

 ラムフィッシュだけで海の探索をするとなると、やはり、広範囲の探索は無理だ。

 一階層も追加して、海の使い魔の種類を増やすのはありだろう。

 ゴブリンのような迷宮から出ていきそうな魔物が現れたら、ここにゴーヤあたりを常駐させればいい。

 レアメダルも余ってるし、そうなったらゴーヤのランクアップも視野にいれよう。


「よし、じゃあ追加するか」

「メー(やったー!)」


 うどんにとってはうれしいことらしい。

 とりあえず、一階層を追加する前に、迷宮から外に出た。


「そうだ、迷宮の階層を追加する前に、うどん、チキンバードたちにこれから地面が揺れるけど、心配ないことを伝えてもらっていいか?」

「メー(わかったー)」


 うどんはゆっくりとチキンバードたちのコロニーがある方に歩いていき、事情を説明。

 そして、戻ってきた。


「メー(伝えて来た)」


 今更ながら、使い魔経由の魔物の翻訳って凄いな。

 俺、領事がクビになったら、魔物翻訳士の仕事をしようかな?

 きっと需要はあるだろう。

 とにかく、これでチキンバードが驚いて飛んじゃうようなことはない。

 前はいきなり迷宮を作って驚かせてしまい、申し訳ないことをしたからな。


 俺は頷き、迷宮の一階層を追加した。

 とたんに地鳴りが始まり、チキンバードたちは空へと舞った。


「……あれ? うどん、ちゃんと説明したんだよな?」

「メー(うん、したよー)」

「じゃあ、なんでチキンバードは空に逃げたんだ?」

「メー、メー(地面が揺れたら驚くし、驚いたら飛んじゃうって)」


 なるほど、チキンバードの名は伊達じゃないってことか。


 とにかく、無事に一階層は追加された。

 地図を確認する。

 一部屋しかなかったのに、全部で四部屋になっていた。

 そして、全部の部屋に池のようなものがあり、ラムフィッシュがすべての部屋にいた。


 さらに一部屋に別の魔物がいた。


「は?」


 その魔物の名前を見て、俺は思わずそう声を出してしまった。

 何故なら、その魔物の名前は、


【紫ナマコ】


 だったのだから。

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