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第八十四話「瘴気の眠る場所」

 元の世界に戻ってきた俺は、さっそく皆に海鮮丼を配った。

 女神様からの差し入れと言われて、食べるのを断る者は誰もいなかった。


 テルさん、サンダー、ガモン爺は最初、少し渋った顔をしていたが、食べてみたら美味しいということがわかってくれて、すぐに完食。

 ただ、フロンとシャルさんは最後まで微妙な顔だった。

 食べられないことはないけれど、あまり美味しい食べ物ではないという感じだ。

 あとからフロンに聞いたところ、


「いなり寿司の中身と同じご飯が入っているのはいいのですが、やはり生魚は口に合わないようです」


 とのことだった。

 ただ、生魚もすべて危険ではないということだけはわかってくれたようで、俺の判断で食べてもいいと許可をもらった。

 ちなみに、祭壇に置いていた海鮮丼はいつの間にかなくなっていたらしい。

 きっと、コショマーレ様が持って行ってくださったのだろう。

 コショマーレ様が用意した海鮮丼のほうが、俺が作った不出来な海鮮丼より遥かに美味しかったから、持っていく必要はなかったはずなのに。

 もしかしたら、俺がせっかく作ったものだからと召し上がってくれたのだろうか?

 だとしたら、少しうれしい気分だ。


 そのあと、俺はコショマーレ様からの依頼について皆に話した。

 瘴気の濃い場所を探すという依頼についてだ。


「瘴気の濃い場所か。そもそも、この島全体が瘴気が濃いんじゃがな」

「瘴気が濃いとか薄いとかわかるのか?」


 瘴気が濃いと言ったガモン爺に尋ねた。

 俺はそもそも空気中に瘴気があるかどうかすらわからない。

 異世界人は瘴気を知る術があるのだろうか?


「ゴブリンじゃよ。この島にはゴブリンの巣が複数あるのは坊主も知っておるじゃろ?」

「ええ……」


 海賊の砦に巣があって、とりあえずそこは潰した。

 だが、それでも砦より北に行くと、いまだにゴブリンは現れるらしい。


「儂も一匹倒して解体してみたんじゃが、ゴブリンの年齢に対して魔石が大きい。それは瘴気が濃い証拠じゃよ。もっとも、まだ進化をしていないところを見ると、そこまで酷くはないがな」

「瘴気が濃いと魔物が進化するのか?」

「うむ。ゴブリンならホブゴブリンやゴブリンキングにな。坊主は魔物使いなのにそんなことも知らんのか?」


 うん、知らなかった。

 いや、俺は魔物使いじゃなくて、迷宮師なんだけど。

 あと、俺の使い魔たちは、多分瘴気を吸っても進化したりしないと思う。

 レアメダルを食べさせ続けたらどうなるかわからないけど。


「ということは、進化しているゴブリンが多い場所が瘴気の多い場所ってことですか?」

「いや、ゴブリンは多くない場所じゃな」


 え? 言っていることが違うんじゃないか?


「瘴気は確かに魔物に力を与えるが、同時に毒でもある。瘴気が濃すぎる場所だと、ゴブリンからホブゴブリンに進化できる魔物は全体の三割といったところで、他の七割は体のどこかに不調をきたす。坊主がゴブリンじゃったら、そんな場所に行きたいか?」

「それは行きたくないな」


 進化への犠牲が大きすぎる。


「というか、そんな瘴気が濃い場所、人が入って平気なのか?」

「瘴気に関する人への影響は様々です。魔力が強くなるという報告もありますが、病気になりやすい、精神的な変調をきたし易いという負の側面の方が強いそうです。さらに酷い状態になると、瘴気病という髪が黒く変色し、動けなくなってしまうこともあるそうですが、滅多なことではなりませんね」


 シャルさんがそう言うと、視線は自ずと俺の頭に集まった。


「俺の毛が黒いのは元からです」

「迷い人は黒髪が多いってのは有名だしな」


 サンダーはそう言って笑った。

 とにかく、瘴気についてはある程度理解できた。

 危険は少ないそうだが、あまり関わりたくない。


 別に期限とか決められているわけではないし、とりあえず島の探索をのんびりするか。


「ひとついいだろうか?」


 テルさんが手を挙げた。


「どうしました?」

「瘴気の濃い場所についてだが、ひとつだけ心当たりがある」

「え?」

「パウルワたちの島にいる、変異した魔物を覚えているだろう?」


 紫色のなまこみたいな魔物か。

 あ、そうだった!

 そう言えば、テルさんが言ってたじゃないか。

 あの魔物は本来、あの島にいる魔物でない。

 瘴気によって変異した魔物だと。


「つまり、魔物を変異させるだけの瘴気があの島にあるってことですか?」

「いや、そうとは限らない。あの魔物はあの島で生まれたわけではない。海の中を進んであそこにたどり着いたのだろう。とするのなら、瘴気が溢れている場所は、海底にあるのかもしれない」

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