第七十六話「海獣の子供」
海獣の子供を連れて広場に向かった。
幸い、広場に丁度シャルさんがいたので声をかけた。
「ジョージ様、おはようございます。それは……珍しいですね。海獣の子供ですか?」
「ええ。浜辺に流れ着いていたので、とりあえず連れてきました」
目立った外傷はないが、少し衰弱しているらしい。
とりあえず、ここに布を敷いて休ませることにした。
「お腹が空いているんじゃないですかね? なら魚を用意した方がいいかもしれません」
「魚か……フロン、戻ってきたばかりで悪いが、釣ってきてもらえるか? 小魚でいいから」
「かしこまりました」
フロンに魚の調達を頼む。
俺と違い、フロンの釣りの技術は日を追うごとに成長している。
この海獣の子供が目を覚ますまでには魚を調達できるだろう。
シャルさんに頼んで海獣の子供を見て貰い、俺はその間にうどんを呼びに行くことにした。
同じ水の生物だし、意思の疎通ができるかもしれないと思ったからだ。
フロンが魚を三匹釣って戻ってきて寝ている海獣の前に置いたところ、黒い鼻をぴくぴくさせて、目を開けずに口を動かしはじめた。
そして、目を開けると今の状況の確認も疎かに、口元の魚をパクリと噛んだ。
よかった、ちゃんと食べてくれた。
「メー(おいしい?)」
うどんが尋ねた。
すると、海獣の子供はうどんの方を見て、
「ミュー」
と可愛らしい声で鳴いた。
なんと言っているのかはわからない。
「メーメー(海岸に流れ着いてたからご主人様が連れて来てくれたの。魚もご主人様が用意してくれたんだよ)」
「ミュー?」
「メー(うん、そうだよ)」
海獣が俺を見上げて鳴き声をあげた。
どうやら俺にお礼を言っているらしい。
魚を用意したのは俺ではなくフロンなんだけど、いまはうどんを通じてこの子のことを知りたい。
うどんは、海獣の子供から事情を聞いた。
どうやら海で泳ぐ練習をしているところで親とはぐれてしまったらしい。
必死に戻ろうとして、嵐の波に飲まれて浜辺に流れ着いたそうだ。
うどんが聞いた話を俺が聞き、それを纏めてシャルさんとフロンに語った。
「話には聞いていましたけれど、本当にジョージ様は従魔の言葉がわかるのですね」
「はい、ご主人様は素晴らしいお方ですから、使い魔のみんなと心がつながっているのです」
そんな凄い物じゃないと思う。
「いまの話から推測すると、この子の家はこの島からさらに南にある岩礁地帯ですね」
シャルさんはそう言うと、ちょっと地図を持ってきますね、と言って一度自分のコテージに戻った。
そして、暫くした後に戻ってきて、この島の周辺の地図を俺に見せてくれた。
地図といってもサンダーが持っていた地図ではなく、海図であり、波の流れや底質などいろいろ書かれている。
「ここに岩礁地帯があるため、大きな船は近付かないようにしています」
「思っていたより近いな……これなら一人で帰る……のは無理か」
近いといっても、距離にして五キロほど離れている。
海獣の子供がどれほど泳げるのかはわからないが、泳ぎの練習をしているレベルだとすると期待はできない。
「メー(送ってあげる?)」
「……まぁ、海獣の巣になっているってことは、魚も豊富なわけだし、今後、この島が発展して漁師が来るようになったときのために視察をする必要はあるよな」
俺は必死に、領事としての仕事だと言い聞かせるようにした。
その言葉を聞いて、フロンが意味ありげな笑みを浮かべた。
俺ならきっと助けると信じていた――とでも言いたげな微笑みだ。
だって仕方ないじゃないか。
野生のゴブリンのような凶暴な魔物なら退治しないといけないと思うが、こんなかわいい生物なら話は別、放っておけないじゃないか。
のんびりマイペースに更新中のこの小説。
ほとんど趣味のような感じで書いてますが、お陰様で本日12/14、第一巻が発売となりました。
ありがとうございます。




