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第七十五話「嵐明けの拾い物」

 二日後、島を嵐が襲った。

 日本に住んでいると台風に慣れているが、しかし森や海岸での作業は危ないということで、今日は全員で迷宮に引きこもることになった。

 一階層は安全だからのんびり過ごせる。

 二階層では、テンツユ、マシュマロ、うどんの三匹対サンダーの模擬戦が行われていた。

 テンツユとサンダーが木刀で打ち合い、マシュマロとうどんが溶解液とバブルボムで援護する形になっていた。もっとも、サンダーの方が一枚も二枚も上手のようだ。


 俺はというと、迷宮に罠を設置しようと試みていた。

 木材と、海に流れ着いていた縄を使って、三階層に簡易のトラップの確認だ。

 傭兵たちとの戦いでいくつかの場所にトラップを設置した後も、一角ウサギを仕留める役割を果たしてきた飛び出す槍だが、一角ウサギの動きには一定の規則性みたいなものがあるらしく、まったく作動しない罠もある。

 そういう罠の確認をして撤去を行っていた。


「ご主人様、ここの草、少し伸びていませんか?」

「ん? そう言えば……」


 前に来たときは芝生のような感じだったが、いまは(くるぶし)が隠れるあたりまで草が伸びていた。

 迷宮の中だから草があまり伸びないんじゃないかと思っていたが、順調に伸びているようだ。

 最近、サンダーやテンツユたちがここの魔物を狩っているから、草を食べる魔物が減っているのかもしれない。

 青スライムを召喚して草を食べさせるか?

 いや、青スライムが好きな食べ物は枯草や腐葉土で、生えている草はあまり食べないんだよな。

 スロータートルも草原の草より海草の方が好きだし。


「風刃で草を刈りましょうか?」

「そこまでする必要はないよ。本当に草が長くなったら頼むかもしれないが、その前に一角ウサギが召喚できるようになるだろうからな。五十匹くらい召喚して草を食べさせてから狩ればいいんじゃないか?」

「そうですね……しかし、こんなに立派な草原なら、作物は育てられないでしょうか?」

「あぁ、それは俺も考えた。だが、ブルーツの種を植えたところはようやく芽が出始めた感じだし、他の作物の種はない――」


 そう言って俺は気付いた。

 魔石の交換リストを確認する。

 食べ物ばかり見ていたが、作物の種もあったはずだ。


「あった――小麦の種……あれ?」

「どうしたのですか?」

「交換に必要な魔石の数が書かれていないんだ」


 試しに小さな魔石を十個取り出し、1MP分の小麦の種を交換してみた。

 すると、麻の小袋に入った種もみが現れた。


「どうやら、魔石の数に応じて種が出てくるようですね」

「うーん、結構な量だな。撒いたら一部屋分くらいか」

「では、奥の部屋で草を抜いて種を撒いてみては如何ですか?」

「え?」


 突然のフロンの提案に、俺は考えた。

 一部屋といっても、三十畳分くらいはある。

 その部屋全部の草を抜いて種を撒くのか?

 かなりの重労働だぞ。

 そう思ったが、しかしこれこそ俺が求めていたスローライフじゃないだろうか?

 そう、THE、農作業だ!


「よし、やるか」


 一番奥の部屋は魔物が出てくることはない。

 通路に罠を仕掛けておけば、魔物が畑を荒らすこともないだろう。

 俺は軍手を二組取り出し、一組をフロンに渡すと、一緒に草を抜く作業に取り掛かった。

 抜いた草は乾燥させ、テンツユやマシュマロの食事にするので小麦が生えなくても失敗することはない。

 あぁ、働いているって感じがするな。

 直ぐに腰が痛くなってきたけれど。


 こうして俺とフロンは嵐の日、ひたすら草を抜く作業に汗を流したのだった。


    ※※※


 そして翌日。

 嵐は島を去り、俺たちは海岸を歩いていた。

 漂流物の確認だ。

 日本の無人島サバイバルだと、ペットボトルやブルーシートのようなサバイバルに便利な物が流れ着いているのだが、異世界にそんな便利なものが流れ着いているはずもなく、流木が流れ着いているだけだった。

 そろそろ漂流物に頼るレベルのサバイバルからは脱出しているので、漂流物チェックはちょっとした趣味みたいなものになりつつある。

 とりあえず、集めるのは海藻だな。

 コンブのような海草が流れ着いていたので、うどんのために集めておく。


「ん? なんだあれは?」


 海岸の端に変な物を見つけた。

 ゴマフアザラシの子供?

 日本のアニメに出てきそうな可愛らしい生き物がいた。


「魔物なのか?」

「魔物ではなさそうですね。恐らく海獣の一種でしょう。怪我をしているようですが、どうしましょうか?」


 フロンが尋ねた。

 どうするって、このままにしておけば死ぬのは間違いないだろう。

 魔物じゃないのなら連れて帰って手当てをしてあげてもよさそうだ。


 俺はその海獣を持って広場に戻ることにした。

 誰か詳しい種族を知っている人がいるかもしれないし。

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