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第五十六話「防衛戦のインターバル」

 迷宮防衛戦の第一ラウンドはドラゴンの、第二ラウンドはスライムイーターのお陰で勝利を収めた。

 スライムイーターによって衣服を剥ぎ取られた傭兵たちは、這う這うの体でスライムイーターから逃げ出した。逃げたというよりかは、衣服を剥ぎ取られた結果、スライムイーターが興味を失ったという感じだ。

 スライムイーターは現在、二階層で新たに湧いたスライムに衣服と自分の蜜を与えて、養殖作業に勤しんでいる。迷宮産のスライムはいくら餌を食べても分裂したりしないそうだが。

 あと、面白いことがわかった。

 スライムイーターが食べたスライムの魔石等のドロップアイテムも俺の財宝一覧に入っていたのだ。魔物同士の殺し合いでもドロップアイテムが手に入るのは驚いた。もしかしたら経験値も入っているのかもしれない。

 とりあえず、この戦いが終わったらスライムイーターが部屋から出て行かないように、スライムが出る部屋の手前に飛び出す槍の罠を複数設置しよう。


「ご主人様、何も見えません」


 俺に目を塞がれているフロンが言った。


「いまは見なくていい。フロンには目の毒だからな」


 裸、もしくは半裸状態の男たちが迷宮から出て行く光景なんてフロンに見せられるわけがない。無事なのは最初から裸の狼二匹くらいだった。


「しかし、あいつらなんで傭兵なんてやってるんだ? あんなに弱いのに」

「弱い……ですか?」

「ああ。動きが全然ダメだろ。テンツユと比べるまでもないし、一対一ならいまのうどんにも負けるんじゃないか?」

「メーメ」


 うどんは「うん、まけなーい」とのんびりとした鳴き声で鳴いた。

 勿論、フロンにも負けるだろう。もしかしたら、俺でも勝てるかもしれないって思えるほどだ。ゴブリン三体くらいなら相手にできるだろうが、傭兵って人間同士の殺し合いのほうが主だろ?

 クラリスさんやブナン、サンダー、トニトロス、フロン、誰を相手にしても勝てそうになさそうなのに傭兵をするってどうかと思う。サンダーとトニトロス以外、戦闘職じゃないはずなのに。


「これが日本だったら正当防衛ってことで逆に制圧することもできるんだろうが」


 ブナンは相手に攻撃をしてはいけないって言っていたので、ここはぐっと我慢する。


「ご主人様は気付いていないのですね……」


 フロンがポツリと呟いた。

 え? 気付いていないってなにが?

 尋ねようとしたが、モニターの向こうで動きがあった。


 シットーが傭兵たちを怒鳴りつけていた。


『なんたるざまだ! スライムイーターごときにやられるとは!』

『シットーさん、スライムイーターは蔓が八本になったら討伐難易度Cの相手だ。俺たちの手に負える相手じゃない』

『なら、無視をすればいいだろう。相手にするからそうなるんだ』

『スライムイーターの嗅覚は犬の十倍とも言われてる。俺たちが近付かなくても二階層に入った時点で服を剥がれる』


 え? スライムイーターってそこまで凄いの?

 それって、俺たちも二階層に戻れないってことじゃないのか?

 いや、飛び出す槍を設置したら……大丈夫だろうか?


『シットーさんの服を我々にいただけませんか?』

『私の服をだと? 何故そうなるのだ』

『シットーさんの服は絹の服だよな? スライムイーターが、いや、スライムが好む服は麻や綿などの植物の服だ。獣の革の鎧や羊毛の腹巻は奪われなかった』

『それがダメなら、夜明け前まで時間をくれ。スライムイーターが一番大人しくなる時間だ』


 お、いい流れだ。

 夜明け前まで時間を潰してくれたら目標までぐっと近くなる。


『ダメだダメだ! 私の服を野蛮な貴様らに渡せるかっ! 服を剥がれるのが嫌なら裸で倒しにいけっ! そういう対応をする冒険者がいることくらい私でも知っているぞ!』


 あぁ、うん。サンダーがそう言っていたな。

 男しかいないし、そういう攻略法をしてくるかもしれない。


『待ってくれ! 確かにそういう方法はあるが、こちらから攻撃をしかけたら奴は蔓を鞭のように扱い攻撃してくる! 服を着ていない状態でそんな攻撃を受けたくない』

『泣き言をいうなっ! 行けっ! そういう契約だ! 契約違反の罰則は知っているだろう!』


 シットーが怒鳴りつけたが、しかし三人の、ほぼ裸の男たちが『俺は降りる! もうこんな仕事ごめんだ! 契約違反なんて知ったことか!』という感じでリタイアを宣言した。

 残ったのは七人か。できれば狼の主人の小太りの男にも降りてほしかったのだが、そいつは下唇を噛んでこらえている。幸い、その男は毛皮らしき服を着ているので被害は少なかったようだ。


『とにかく、俺たちが行くのは夜明け前だ。仕事に行かないとは言っていない。それなら契約違反にはならないからな』


 傭兵のひとり――ここまでの話で恐らくリーダー的な立ち位置をしているみたいだ――がそう宣言し、残りの六人もそれについた。


『ふん、ただし失敗したら承知しないぞ』


 とシットーは言って、広場から去っていった。

 ここで全員降りてくれたら楽だったのだが、まぁいい。

 明日の夜明け前――第三ラウンドが最終(ファイナル)ラウンドだ。

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