第四十九話「ゴブリン退治の後処理」
一時間休憩をする。
というのも、ゴブリンの奴ら、いろいろと島全体から集めていたらしく、奥の倉庫には便利そうなものが落ちていたので、マシュマロが復活できるまでの間、調べようとなったのだ。急いで帰ってもガメイツが広場で待ち受けている間は迷宮の中に戻ることもできないからな。
中でも驚いたのは、魔石の存在だ。
小さい魔石が大量にあったのだ。
数が多いためだろうか、なんか黒いオーラのようなものを放っている気がする。
「これはゴブリンのもんだろうな」
「まぁ、ゴブリンが集めたものだから、そうでしょうね。今は俺たちのもんですが」
「そうじゃなくて、ゴブリンの体内にあったものだろうってことだ」
「え? 魔物の体内に魔石があるんですか?」
魔石は迷宮の魔物が落とすだけだと思っていた。
だって、サンダーが狩ってきた鳥の中にも、海で採った貝の中にも魔石はなかったから。
「ああ、魔物の心臓の上のあたりには瘴気を貯める瘴臓という臓器があってな。長く生きた魔物はそこに魔石が生まれるんだ」
「瘴気ってなんなんですか?」
「さぁな。教会の話じゃ、魔族が生み出す悪感情だって言われているが、よくわからん」
魔族……さすがは異世界だ。
ということは、魔王とかいるのだろうか?
まぁ、俺には関係ない話だが。
つまり、この魔石は長く生きたゴブリンの遺品みたいなものなのだろう。
「うーん、とりあえず貰っておきますね」
「おい、触るなっ! 野生の魔物から出た魔石は瘴気が溢れて――」
「え?」
俺は魔石に触れたそのときだった。
魔石を包んでいた黒いオーラのようなものが霧散した。
「瘴気が浄化された?」
「なんか失敗しました、俺?」
「……あぁ、なんか疲れた。とりあえず、魔石はどうするんだ?」
「とりあえず持って帰ります」
なんといってもこれだけの魔石があれば、いろいろなものと魔石交換できるからな。
そろそろ、日本食も恋しくなってきたんだ。
お米とか味噌とか醤油が欲しい。今回の事件が終わったら絶対に交換してやる。
テンツユは一個一個丁寧に魔石をサンタ袋に入れていった。
そして、一時間が経過した。
「よし、出てこい、マシュマロ!」
マシュマロが再召喚される。
「ピー!」
元気よく飛び出したマシュマロは、俺とテンツユを見ると、何度も頭を下げた。
いや、頭しかないから頭をくねらせたという方が正しいが。
「ピー、ピー」
威勢のいいことを申しておきながら、簡単にやられてしまって申し訳ないっす――みたいなことを言っているのだろう。
「気にするなって。マシュマロはまだ生まれて間もないんだ。失敗することもあるさ」
俺は、かつて職場で先輩に言われたことを思い出した。
『気にするな、桜木。会社に入ってまもないお前が失敗するのは当然のことだ。というかお前が失敗しなかったら、教育係の俺の仕事が無くなっちまうだろ――あ、それはそれで楽でいいな』
うん、いい先輩だったな。
「じゃあ、残ったゴブリンの死体は燃やしちまうか」
俺が思い出に浸っていると、ブナンが言った。
「え? 燃やすんですか?」
「ああ。ゴブリンの死体をそのままにすると、ゴブリンゾンビになる可能性があるからな」
不死生物か。
なるほど、そういう可能性があるのなら燃やすしかないか。
さすがに迷宮まで何往復もするわけにはいくまい。
「あ、いい方法を思いついた!」
「いい方法?」
「とりあえず、ゴブリンを全部外に出しましょう」
俺はそう言うと、ゴブリンの死体を全て迷宮から外にもっていく。
マシュマロが頑張ってくれた。
張り切りすぎて、見ている俺やテンツユが心配になるくらいだ。
そして、ゴブリンはものの十分程度で外に出された。
「じゃあ、始めますか」
準備は整った。
ブナンに対して言う。
「これは一番の秘密なので、誰にも言わないでくださいね」
「秘密――まだ秘密があるのか? 腹いっぱいだぞ」
「ええ、これ以上の秘密はありませんから安心してください」
俺はそう言うと、ここに迷宮を作った。
地鳴りがする。
砦の外観が変わっていく。
壁に絡まっていた蔦や苔は取り除かれ、二階建てだった砦は一階建ての小屋のような大きさになっている。
そして、中は光っていた。
「お前、これ――まさか迷宮かっ!?」
「迷宮の基礎ですよ」
うーん、迷宮ができたのはいいが、ポイントは0ポイントになっている。
どうやら、ポイントは迷宮毎に分かれているらしい。
「さぁ、運べないゴブリンはここに食べさせてください」
「あ……あぁ、わかった」
外に出したゴブリンを食べさせたところで、ポイントが180ポイントまで増えた。
一階層を追加しておく。
「な、今度は地鳴りがっ!?」
「あぁ、迷宮の階層を増やしただけなので、安心してください」
小屋のサイズだった迷宮が横に広がっていく。
「お前がやっているのか?」
「ええ、まぁ。あ、でも中に生まれる魔物は俺のことも平気で襲うので気を付けてくださいね――と終わったようです」
地図を見ると、ゴブリンが三匹いた。
あとは、適当に飛び出す槍とか落とし穴とか設置しておくかな?
これで、運が良ければ経験値が定期的に入ってくるだろう。
あぁ、でも、ゴブリンって歩きキノコより知能は高そうだから、一度引っかかったらもうひっかからないか。
「あ、そうだ! マシュマロ、お前はこの迷宮でゴブリン狩りを頼んでいいか? この迷宮の管理をお前に任せたいんだ」
「ピーっ!? ピピピー!?」
うん、「そんな大役、自分でいいんっすか?」と言っている気がする。
まぁ、マシュマロのことはガメイツには知られたくない。ゴブリン王には後れを取ったが、こいつならゴブリンに負けることはないだろう。
使い魔が倒した魔物が俺の経験値になるのは、さっきのゴブリン退治でよくわかった。
それに、使い魔が迷宮で魔物を倒してアイテムを拾ったとき、俺の財宝一覧に転送されるのも確認済みだ。
スライムは枯れた草や腐葉土を好むらしく、このあたりにはそういうものも豊富にある。わざわざ食事を運ぶ必要もない。
「そうだ、余ったポイントで入口に宝箱も設置しておくか」
俺がそう言うと、入り口の部屋に宝箱が現れた。
これでゴブリンが現れる量も増える。
それでも、ゴブリンの十匹程度ならマシュマロでも十分に対処できるだろう。
宝箱を開けてみると、中には包丁が入っていた。
「ラッキー、欲しいって思ってたんだ」
と宝箱から包丁を取り出すと、一瞬で消えてしまった。
あ、財宝一覧に入ったようだ。
うん、それなら帰ってから出すことにしよう。
「――あれ? ブナンさん、どうしたんですか?」
「お、ま、え、は! なにを考えてるんだ!」
ブナンがキレた。
「こんなもん俺に見せやがって! 迷宮を作ったり成長させたり、常識外にもほどがあるぞ! 誰かに知られたら――」
「あぁ……黙っててくれるんですよね?」
「黙ってるよ! 黙ってるに決まってるだろ! こんなもん誰にも言えるかっ! それで、このゴブリンの使い道もわかった。さては、お前、あの迷宮も成長させるのに使うのか」
「はい、それもあります」
「それも?」
「他にもいろいろあるので――」
俺はそう言って笑みを浮かべた。
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