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第四十八話「ストーンスパイク」

「本当につえーな。歩きキノコっていやぁ、雑魚中の雑魚モンスターなのに」

「テンツユは特別ですよ」

「まぁ、そうだよな。普通の歩きキノコには目も口も手もないから。よし、片付けるか」


 ゴブリンの死体は何匹か、クラリスさんから借りてきたサンタ袋に入れる。

 ただ、重さが十分の一になるといっても、ゴブリン一匹の重さは約30キロから40キロある。テンツユが運ぶといっても限度がありそうだ。


「そういえば、ブナンさん。石魔法って知ってますか?」

「石魔法? 土魔法じゃなくて?」


 どうやら土魔法という魔法は存在しても、石魔法という魔法は初耳らしい。

 レアな魔法なのだろうか?


「ええ、覚えたみたいなんですけど、使い方がわからなくて」

「なら、『マジックリストオープン』って言ってみな。使える魔法の一覧が表示されるからよ」

「わかりました――マジックリストオープン」

――――――――――――――――――

ストーンスパイク LV1 消費MP5

――――――――――――――――――

 出た。

 魔法にもレベルがあるのか。

 それと、消費MPは5。

 俺もレベル19まで上がり、いまはMPが三桁に届こうかというくらいにまで成長しているので10回くらいなら余裕で使える。

 MPだけならテンツユに負けない。

「ストーンスパイクって魔法みたいです」

「聞いたことがないがスパイク……地面から石の針を出すような魔法か? それとも石の針を飛ばす魔法か? んー、使ってみたらどうだ?」

「ですね――」


 攻撃魔法初体験!

 狙うは、横たわっているゴブリンの近くに落ちている木の枝。

 緊張するな……詠唱とかは必要ないよな?

 深き大地に眠りし金剛の――とか……いや、中二病じゃないんだし、そういうのは無しだ、うん。


「ストーンスパイクっ!」


 そういって俺は手をまっすぐ前に伸ばした。

 僅かに脱力する感じ、そして――


   ボコ


 そう表現するのが正しいのだろう。槍と呼ぶには丸みを帯びた、野球ボールくらいの大きさの石が地面から現れた。

「なんだ、これ……地面に固定されているが……おい、坊主」

「……魔法攻撃力の値が弱いのか、魔法のレベルが低いのかですかね」

「だよな。流石にこれはストーンスパイクじゃなくて、ストーンボールだ。地面を貫いて出てきたわけじゃなく、直接地面から生えてきたって感じか――固定されていて外れそうにないが」


 ブナンは石を外そうとするが、外せないようだ。


「ああ、待ってください――なんか魔力の繋がりっていうんですかね。そういうのを感じます。今解除しました」

「お、外れた……んー、野営をするときに石を探すのには便利そうだ。あとは攻城戦で落石の罠を作るのにも便利そうだ」

「逆に言えば、それ以外の使い道はありませんね。もっと大きければいろいろと使えそうですが」


 いまは使えない。うーん、落石の罠とか作るのには便利だろうか?


「じゃあ一度戻るか?」

「いえ、どうもこの奥にまだゴブリンがいるようでして」


 他のゴブリンは逃げ出したかもしれないと思い、迷宮を作ろうと試みたがうまくいかない。

 どうもまだ魔物が残っているようだ。


「そうか――じゃあお礼参りに来ないように潰しておくか」


 そう言ってブナンは拳を鳴らす。

 魔文官なのに格闘家みたいなことをする。


「テンツユ、ゴブリンの残党のいる方向がわかるか?」

「キューキュー」


 テンツユは首を横に振った。わからないようだ。


「ピーピー」

「あっちか?」

「ピー!」


 どうやらマシュマロが言うには、右側の部屋の先にいるらしい。

 鼻はないけど、肌で感じるんだとか。

 細かい数まではわからないみたいだ。


「よくわかるな、お前」

「まぁ、一応主人ですから」

「しかし、ここまで騒ぎがあって逃げないとなると、上位種がいるかもしれんな」

「上位種?」

「ゴブリンにも種類がある。大抵の場合、このソードゴブリンのように、武器の名前で呼び分けられて、本質は変わらないんだが――」


 ブナンは落ちていた剣を持って言った。

 剣を持つゴブリンがソードゴブリンなら、モーニングスターを持っているゴブリンはコンペイトウゴブリンだろうか?

 とりあえず、ゴブリンが持っていた剣は錆びていて使い物にならないので放置でいいだろう。


「中には大きさや身体機能が大きく異なるものもいる。ゴブリン王とかな」

「ゴブリン王……」

「ゴブリン王は西大陸の初心者向け迷宮のボスでもあるらしいんだが、ゴブリンのコロニーの中でたまに現れる。野生のゴブリン王は迷宮のゴブリン王よりも強い――気を引き締めて行けよ」

「……わかりました」


 俺は気を引き締めて――


「テンツユ、マシュマロ、先に行ってくれ!」


 二匹に先行を頼んだ。


 砦の奥に行くと広い部屋があった。

 恐らく、ここが海賊のボスの部屋だったのだろう。財宝類は全て持ち出された後のようだが、欠けた壺や、割れた窓ガラスの破片などが散乱している。

 そして、その奥にいたのは、五匹の武装したゴブリンと一匹の一際大きなゴブリン。

 あれがゴブリン王だろう。


 最初に五匹のゴブリンがテンツユに襲い掛かったが、一瞬のうちに返り討ちにあった。

 やはりテンツユは強い。


「坊主、気付いたか?」

「テンツユの強さですか?」

「違う、あのゴブリン王の態度だよ。テンツユの動きを見ても笑みを崩さん。まるで余裕そうだ――恐らくかなり強いぞ」


 まさか、テンツユより強いってことか?

 これは逃げる準備が必要かもしれん。

 ゴブリン王は笑ってテンツユに何かを言う。


「ガガガ、ガ!」

「キューキュキュ」

「ガーゴゴ」


 ゴブリン王はそう言うと、金属の剣と大盾を構えた。

 剣はゴブリン王の身の丈ほどもある。

 大盾も錆びているが金属製だ。

 大丈夫か、テンツユ――石の斧では歯が立たないぞ。


「あのふたり、なんて言ってるんだ?」

「テンツユは、『お前の仲間にはならない』みたいなことを言っているので、きっと、『俺の部下になれ! なら今回のことは不問にする』『後悔しても知らんぞ』みたいな台詞じゃないですか?」


 俺は通訳に徹した。

 その時だ――最初に飛び掛かったのは、テンツユでもゴブリン王でもなく、マシュマロだった。先輩と主人にいいところを見せようとやる気を出して飛び出した。


「ガーゴゴっ!」


 マシュマロが放った溶解液を、ゴブリン王は盾で防ぎ、突撃してきたマシュマロを叩き潰した。

 マシュマロが光の粒になって消える。


「なっ! 死んじまった!」

「マシュマロは大丈夫です。一時間で復活できます――それより」


 物理攻撃に強く、さらに物理攻撃10%カットのアビリティまで持つマシュマロを一撃とは。

 だが、テンツユの目は死んでいない――むしろ後輩を殺したことでその目は怒りに燃えている。

 やる気のようだ。

 ゴブリン王もその目に応えんと、剣と盾を構えてテンツユに突撃する。


「ストーンスパイク」

「ガっ!」


 俺の石魔法によって現れた石を蹴飛ばし、ゴブリン王は間抜けな声をあげて盛大に躓いた。持っていた武器も盛大に投げ出された。

 いやぁ、思ったよりゴブリン王が鈍足で助かった。重い武器を持っていたからだな。お陰で狙いを定めやすかったよ。


「よし、やれ!」

「キュー!」


 無防備なゴブリン王をテンツユが襲う。

 うん、見事な連係プレイであり、頭脳プレイだ。

 力では勝てなくても、勇気と知恵、そして仲間との友情の勝利だな!


「ひでぇ……」


 ただ、ブナンだけは納得いっていないようだった。

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