第四十七話「マヨネーズ」
明日の夜明け前。フロンにはブナンと散歩をしてくるから、今日はクラリスさんと一緒に迷宮の調査を調べるように伝えた。クラリスさんも俺たちの事情を理解してくれて協力してくれている。ガメイツは、明日の朝一番に広場にやってくるだろうが、彼が一人で迷宮の中に入ることはまずないと判断してのことだ。
クラリスさんたちとフロンがずっと迷宮の中にいて、俺とブナンがずっと森の奥にいたら、ガメイツはフロンについて調べることができなくなる。
それなら、ずっと迷宮の中にいたらいいんじゃないかと思ったが、ブナンが言うには、
『ガメイツの旦那はプライドが高くてな。まず自分の間違いを認めることはしない。フロンの嬢ちゃんに会えなくても、フロンの嬢ちゃんが行方不明の奴隷で間違いないと報告するはずだ。これはあくまで、トドロス王国からの増援が来るのを遅らせるための手段に過ぎない』
とのことだ。
結局は、迷宮に籠もることしか手段がない。
俺とブナンとテンツユとでゴブリンの巣を目指した。
森を奥まで進む。途中、木の枝にハンカチのようなものが括りつけられていたのをみて、ブナンが地図を確認する。
似たような景色が続く森の中、ブナンが用意した目印のようだ。
テンツユが手斧を使って茂みをかき分けて進んでいく。
暫くして、急に止まった。
「見えるか? あれだ」
「あれは――砦ですか?」
島に来てはじめての人工物の発見に俺は驚いた。
この島は無人島じゃなかったのか?
「昔の海賊のアジトだよ。十年前の調査によると、この砦の西には大型船をつけられる場所があって、そこから物資をここに運んでいたらしい。海流の関係で普通の船では近付けない場所――海賊の隠れ港にはぴったりだって話だ」
「昔は海賊のアジトで、いまはゴブリンの巣ですか。碌なもんじゃないですね」
「ああ。だが、中には五十匹以上のゴブリンがいるぞ。悪いが、俺でも相手できるのは四匹くらいだぞ」
「まぁ、ゴブリンの強さはある程度聞いたので。テンツユ――」
「キュー?」
「これを食べろ」
俺はそう言って、あるアイテムを取り出した。
「キューっ!」
テンツユは大興奮だ。
そして、ブナンも驚き声を上げる。
「お前、これはレアメダルじゃないか! 一万センスは下らないぞ。それを歩きキノコに使うなんて、正気か?」
「いまのところ、俺よりテンツユの方が強いんで」
覚悟を決めた俺は強い。
俺はレアメダルを二枚、テンツユに分け与えた。
【使い魔:「歩きキノコ」のランクが3になりました。アビリティの追加設定が可能です】
お、追加でアビリティ設定ができるようになったようだ。
これは思わぬ誤算だった。
さらにステータスを確認する。
「ステータスオープン、テンツユ!」
……………………………………………………
名前:テンツユ
種族:歩きキノコ
ランク:3(ランク4になるまであと3枚)
HP:402/402
MP:20/20
物攻:391
物防:359
魔攻:175
魔防:163
速度:188
幸運:15
装備:手斧
スキル:眠り胞子
アビリティ1:魔石ハント
【10%の確率でPTメンバーが倒した魔物が魔石を二個落とす】
アビリティ2:未設定
取得済み称号:ジョージの使い魔
……………………………………………………
おぉっ! 思っていたより強くなっている。
さらに――
「使い魔召喚、青スライム!」
「ピーっ!」
マシュマロが召喚された。
本当は黙っているつもりだったが、ブナンを信じると決めたんだ。
「なっ!? 召喚魔法だと?」
「いまのところ、こいつらしか呼べませんが」
マシュマロのアビリティも確認する。
【粘体ボディ(R)】
という名前のアビリティだ……R?
その効果は、
【本人を含む仲間への物理攻撃を10%軽減する】
という便利なものだった。
仲間全員に効果があるのは助かるが、Rってなんだろう?
レアってことか?
エピックとレジェンドもあるのだろうか?
この仲間にはテンツユと俺は含まれると思うが、ブナンはどっちかわからないな。
まぁ、痛いのは嫌だから1割軽減されたところでダメージを負いたくはないが。
「よし、テンツユ! 突撃だ! マシュマロも援護を頼む!」
「キュー!」
「ピー!」
マヨネーズ! と叫びたくなる鳴き声とともに、テンツユとマシュマロは砦の中に突撃した。
俺とブナンは逃げられる準備をしながらも二匹の後に続く。
だが、あっという間に距離を離された。
「なんだ、テンツユの奴、あんなに速かったのか」
「そりゃ、レアメダルを二枚も与えましたから」
「レアメダル二枚って、それで成長するのはせいぜい二、三割程度だろ。あれは倍くらいになってないか?」
え? レアメダルの効果って本当はそんなものなのか?
確かにテンツユの速度は倍になっているが。
「召喚された魔物と、従魔との違いかもしれません」
「魔物を召喚って、坊主の天恵なのか?」
「ええ、天恵由来の能力です」
「そうか……それなら納得だ。迷い人の天恵ってのはどれもこれも規格外だらけだからな」
確かに、女神トレールール様が提示した能力は凄いものが多かったな。
好きな調味料を一定量生み出す能力とか、味の薄い料理ばかり食べていると羨ましいと思った。醤油と味噌が恋しい。マヨネーズが欲しい。
まぁ、魔石と交換しようと思えばできるのだけれど。
「いけねぇ、置いて行かれるぞ」
「あ、はい!」
俺とブナンは急いでテンツユたちを追いかけた。
【ジョージのレベルが上がった】
【ジョージのレベルが上がった】
【迷宮師(神)スキル:石魔法を取得した】
ん? レベルが一気に二つも上がった?
石魔法ってものを覚えたらしいが、なんで急にレベルが上がったんだ?
もしかして――と思って砦の中に入ったら、中ではゴブリンの死体の山が築かれていた。
その山の脇で、テンツユとマシュマロがはしゃいでいる。
「キュー!(勝利のポーズ!)」
「ピーピー!(流石っす、兄貴!)」
なんてやり取りが行われていた。
マシュマロは舎弟気質だな。
それにしても、テンツユ……本当に強くなって。
でも、これで終わりってわけじゃなさそうだな。
【迷宮候補地を発見しました。この場所に迷宮の基礎を作りますか?】
砦に入ったとき、そんな質問が出た。
塔型の迷宮があるって言っていたくらいだし、もしかしたらと思ったが、この砦も迷宮になるらしい。
しかし、いざ迷宮を作ろうと思ったら、
【脅威となる生物がいるため、迷宮の基礎作りに失敗しました】
と言われたのだ。
つまり、この奥に脅威となる生物――恐らくゴブリンの仲間がいるってことだろう。
マヨネーズは作ってないけど、サブタイトル詐欺って言わないで!




