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第四十五話「不穏なガメイツ」

 さて、問題のミニタウロスだが――全く問題がなかった。

 いや、簡単にいえば、小学一年生サイズの牛。角に刺されたら危険という意味では俺は戦いたくないが、しかしフロンの狐火で十分対処できるレベルだった。

 ドロップアイテムは魔石と鞣した牛革と牛肉――肉屋ではないので部位はわからないが、ステーキにすれば四人分くらいはありそうだ。

 ブナンが「今日は肉と酒だな!」と言っていた。

 まぁ、調査は午前中には終わったので、俺とフロンは海で釣りをすることになった。

 もともと釣り竿は一本しかなかったが、フロンが子供服に使われている縫製用の丈夫な糸と、鳥の骨を削って作った針を使い、お手製の釣り竿を完成させたので、ふたりで岩に座って釣りをしている。

 まぁ、そう簡単に釣れないのはいつも同じだ。


「んー、アルミラージはペットに欲しいな。使い魔にしたい。初期状態で五匹現れるなら、百匹現れるのは直ぐだと思うが、角が厄介だ」

「マシュマロなら倒せるのではないでしょうか? 青スライムは物理攻撃には強いので」

「マシュマロが倒した場合でも、俺が倒したことになるんだろうか?」

「どうなのでしょう? あ、それならマシュマロとテンツユにアルミラージを気絶させてもらって、落とし穴に落とすというのはどうですか?」

「それがいいかもな。あとは飛び出す槍でも設置して、自然に殺せる環境を整えるか」

「罠もどの程度の威力があるのか確かめる必要がありますね」

「だな……フロン、狭くないか?」

「私は大丈夫です。ご主人様こそ大丈夫ですか?」

「ああ、俺の方は問題ない」


 思っていたより岩場は狭く、俺とフロンはかなり密着した状態だ。

 一緒に風呂に入り、同じ部屋で寝ているが、それでもキスはまだというピュアなのかそうでないのかわからない関係だ。

 横を向けば顔が当たってしまうのではないかという距離感に、俺は少しだけドギマキしていた。


「…………(くそっ)」


 落ち着かない。

 フロンみたいな美人がいるからというだけでなく、この、昼間からなにもしない時間が俺には性に合わないようだ。

 フロンといちゃつくことに専念していればそんなことは思わないんだろうけど。

 最近は少しずつマシになってきたと思っていたが、社畜として培われた精神はそう簡単に消えないらしい。


「……ん?」


 ふと浜辺を見ると、ガメイツが見えた。

 あいつ、調査もせずになにをしているんだ?

 そう思ったら、ガメイツはこちらに近付いてきた。

 俺たちには気付いていないようだが。


「ご主人様――少し隠れましょう」

「ああ……そうだな」


 厄介事が嫌なのはフロンも同じようだ。

 俺とフロンは岩陰に身を潜めた。


「――はい、はい、間違いありません」


 誰かと話している?

 もしかして、精霊でもいるのだろうか?

 どうやら話し相手はガメイツよりも身分が上の者のようだが。


(ご主人様、あれは魔札です)

(魔札? ブナンが使っていたあれか?)

(はい。魔札の中には遠くに離れた人と話すことができる通信札という札があります。きっとそれでしょう)


 そんな携帯電話みたいな札があるのか。


(ガメイツも魔記者か魔文官なのかな)

(魔札は魔記者や魔文官にしか作ることができませんが、誰にでも使うことができる道具です。そうとは限りません)

(なるほど――)


 俺とフロンが小声で話している間もガメイツは誰かと話していた。


「ええ、ええ、そうです。島の位置と首輪を見る限りではその可能性が高いでしょう。確かめてみようとおもいます」


 とても楽しそうに話しているが……なんだろう? 悪代官と越後屋の悪だくみを聞いているような気分だ。

 嫌な予感しかしない。


(……フロン?)


 隣を見ると、フロンは震えていた。

 なにを恐れているんだ?

 気付くと、ガメイツが持っていた通信札が灰となって風に流されて飛んでいった。

 通信札は使い捨てのようだ。

 ガメイツは飛んでいく灰を満足そうに横目で見て、どこかに向かった。


「フロン、大丈夫か?」

「え……えぇ、大丈夫だと思います」


 全然平気そうに見えない。

 不安になった俺は、釣りをやめてフロンと一緒に迷宮に戻った。

 夕食は食欲がないということで、部屋で食事をすると言い出したので、パンを出して渡した。

 本当にかなり疲れているようだ。


 心配になった俺は、夕食後、ブナンのいるコテージに向かった。

 薬草酒を少し分けてもらうためだ。

 ブナンから聞いたのだが、薬草酒は滋養強壮に効くお酒のようで、元気のない人が飲むにはちょうどいいだろう。

 この世界で未成年の飲酒は許されるかはわからないが、卵酒のようなものだからこの際目を瞑ってもらうことにした。


「ん? 坊主か。どうした?」


 コテージの外から呼びかけると、ブナンは直ぐに出て来てくれた。


「ちょっと、フロンの元気がなくて、薬草酒を少し分けてもらえないかと」

「ああ、あの嬢ちゃんか。まぁ、中に入りな」


 ブナンに言われて中に入る。

 コテージの中は結構整理されていた。

 さまざまな草が置かれていて、壺や瓶がある。お酒の匂いが凄い。

 テーブルには、書きかけと思われる魔札があった。


「さて、薬草酒を渡すのはいいが、その前に聞いておきたい。あの嬢ちゃんが調子が悪くなる前、なにかあったか?」

「――ええ、海で釣りをしていたときに、ガメイツ……さんが通信札で誰かと話しているのを聞いてから調子が悪くなったようで」

「あのガメイツの旦那が通信札でねぇ……なんて言っていたかわかるか?」

「島の位置とか首輪とか言っていました」

「なるほどな――」


 ブナンはなにか心当たりがあるのか、一人で納得しているようだった。

 俺にはなんのことかまったくわからないんだが。


「坊主、次の質問だ。あのフロンの嬢ちゃんと坊主の関係性についてなんだが」


 関係性と言われてドキっとした。

 俺とフロン、そういえばふたりはどう見えているんだろうか?

 恋人同士なんだけど、そう見えているだろうか?

 それとも、主人と従者にしか見えていないのだろうか?


「あの嬢ちゃんは坊主の奴隷か?」


 思わぬ質問に、俺は怒気を含んだ目を浮かべてしまった。

 いくら俺に文句を言われても、会社の製品の悪口を言われても、怒らないでいられる自信はあったが、フロンのことを奴隷だなんて表現をしたことは、いくらブナンでも許せなかった。


「違います」

「悪かった、そんな目で見るな。質問を変えるが、坊主――お前さん、迷い人だろ?」

「迷い人? そういえば、クラリスさんが言っていたが、なんなんですか?」

「だから怒るなって」


 どうやら俺はまだ声に怒気を含んでいたようだ。

 少し深呼吸する。


「よし、落ち着いたな。迷い人っていうのは、異世界人ええと、ニホンジンって奴だろ?」

――バレたっ!?

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― 新着の感想 ―
[一言] 腹に一物抱えた連中が勝手に動き回るだけの話が続くのもなぁ。 そろそろちょっとスッキリさせて欲しいと思ってしまう。
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