第三十五話「プロポーズ」
普通の青スライムの場合、直接素手で触ったら粘液がつき、それが服につけたら溶けてしまうが、マシュマロの場合は粘液というよりかはゴムに近い。
弾力があり、触れたときの気持ち悪さは皆無。むしろぷにぷにしていて気持ちいい。
「これは癖になりそうですね」
服を溶かされる心配がないと知ったフロンは、椅子に座ってマシュマロを膝に乗せ、ぷにぷにを満喫している。
ちょっとマシュマロがうらやましく思える。
「そうだ、マシュマロのステータスを見ておくか」
俺はそう言って、マシュマロのステータスを確認した。
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名前:マシュマロ
種族:青スライム
ランク:1(ランク2になるまであと1枚)
HP:52/52
MP:15/15
物攻:31
物防:89
魔攻:57
魔防:32
速度:24
幸運:10
装備:なし
スキル:なし
アビリティ1:なし
取得済み称号:ジョージの使い魔
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物理防御が高めで、物理攻撃、魔法防御、速度は低い……か。
正直、このままだと微妙だ。
俺はレアメダルを一枚取り出した。
三枚残っているうちの一枚だ。
「キュキュキュー!」
「ご主人様、テンツユが欲しいって言っています」
うん、それはわかっている。
どうやら使い魔にとって、レアメダルというのは最高級のおやつみたいなものらしい。
テンツユに遠慮して何も言わないが、マシュマロも物凄く物欲しげな目を浮かべている。
「いや、テンツユ。お前、氷の精霊が来たとき真っ先に逃げただろ?」
「キュー」
それを言われると辛いという感じで、テンツユは声を出した。
「レアメダルに余裕ができたら、真っ先にお前をランク3にしてやるから、今日は後輩の成長を見守ってやれ」
俺はそう言って、テンツユの頭を撫で、マシュマロにレアメダルを食べさせた。
「ピピピー!」
【従魔「青スライム」のランクが2になりました。アビリティの設定が可能です】
よし、ランクが上がった。
ステータスの確認だ。
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名前:マシュマロ
種族:青スライム
ランク:2(ランク3になるまであと2枚)
HP:201/201
MP:42/42
物攻:80
物防:292
魔攻:182
魔防:57
速度:51
幸運:10
装備:なし
スキル:溶解液
アビリティ1:未設定
取得済み称号:ジョージの使い魔
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ステータスが軒並み上がったな。
特に物理防御の高さは目が見張るものがある。
魔法防御の低さという弱点もあるが。
「溶解液ってスキルもあるのか」
「その名の通り、なにかを溶かす液でしょうか?」
「うーん、試してみるか」
俺たちはマシュマロを連れて外に出た。
適当な大きさの木の枝を拾ってきて立てる。
「よし、マシュマロ。あの木の枝に溶解液だ!」
「ピっ! ピーっ!」
マシュマロの口から、水鉄砲くらいの速度で緑の液体が放たれた。
メロンソーダーみたいな色だな。
だが、ちょっと距離が遠かったのか、木の枝を逸れて地面に落ちた。
地面から白い煙が出ている。
「マシュマロ、もう一度だ」
「……ピー」
あれ? 放たない?
申し訳なさそうにしているから、言葉が通じていないということではなさそうだ。
あぁ、そうか、クールタイムがあるのか。
MPを見ると、8消費されていたので5回――いや、MPが少なくなれば体調が悪くなるので、通常は4回が限度か。
俺はもっと木の枝を近い距離に持っていく。
「今度は外さないように近くでな。クールタイムが終わったら放ってくれ」
「ピっ!」
マシュマロは再度溶解液を放つ。
結果、溶解液は命中。太い木の枝の表面が溶けていた。
「これは、実戦では牽制程度にしか使えませんね」
「相手の目とかに当たれば失明させられそうだが――」
「どの攻撃でも目に当たればそうなりますね。遠距離からの援護をするにも、命中率が低いと難しいです」
「……ピー」
どうもマシュマロは落ち込みやすいらしい。
ダメな自分ですみません、と言っているようである。
「落ち込むなって。逆に言えば、命中率が高ければ援護できるってことだろ?」
「ピっ!? ピピピっ!」
今度は喜んだ。
性格診断、マシュマロは感情の起伏が激しいようだ。
それに、気になることがもうひとつある。
「マシュマロ、一度戻ってくれ。三十分後に再召喚する」
「ピーっ!」
マシュマロは元気に送還された。
テンツユは半分溶けた木の枝にパンチをし、見事に木の枝をへし折っていた。
先輩アピールをしているのか。
そのくらいなら俺でもできる――石斧があればだけど。
とはいえ、さっきまでマシュマロに構っていたからな。
「おぉ、テンツユは剛力だな。これからも期待しているぞ」
「キュキュキュー!」
ジャブジャブアッパーと、テンツユがシャドーボクシングをした。
「うん、かわいいかわいい」
「キュー」
テンツユは不満そうだ。
そこは、かわいいじゃなくてかっこいいと言って欲しかったらしい。
普段は、かわいいというだけでも満足しているのだが、魔物心は難しいな。
「ご主人様――私も風刃を使えば、もっと太い木の枝を切り裂くことができます」
「ああ、そうだな――フロンもかわいいかわいい」
と俺はその流れでフロンの頭を撫でてしまい――ちょっと恥ずかしかった。
お互い照れあって、今度は碌に顔を見ることができない。
学生時代にまともな恋愛をしてこなかったツケがこんなところでまわってきたか。
でも、これっていい機会じゃないだろうか?
「あ……あぁ、フロン。俺たちの関係だけど……そろそろ変えない……か?」
これは俺なりの精一杯のプロポーズだった。
きっとフロンは喜んでくれる――そう思った。
だが、その曖昧な言葉が思わぬ誤解を生む。
「関係を変える――私はクビということですかっ!?」
クビって、そもそも雇ったわけじゃないのに。
「ち、ちが――」
「お願いします、ご主人様。私にできることならなんでもします。お傍に置いてください」
フロンが俺の手を握り、上目遣いで言う。
めっちゃ可愛い。こんな子になんでもするなんて言われてしまったら、逆になんでもしてあげたくなってしまう。
「あ……なんでもするって言ったよな」
「はい、ご主人様が望まれることであれば――この体を差し出す覚悟もできています」
体を差し出すって、それは言い過ぎだろ!
ちょっと考えて言ってほしい……が、しかし、しかしだ。
それを聞く限り、いや、それを聞かなくてもフロンが俺に好意を持っているのは確かだ。誤解を生んでしまったが、
さっきの失敗をしないためにも、今度は具体的に言った。
なんでもするって言ったんだ。
失敗を恐れずに言うことができる。
「俺と結婚を前提に――付き合ってくれないか?」
俺の申し出に、彼女のふわふわの尻尾がピンっと立った。
驚き、動揺し、鼓動が高鳴っているのが俺にまで伝わってくる。
あ、鼓動の高鳴りは俺の心臓の音だった。さっきからドキドキが止まらない
頼む、フロン!
お前の素直な気持ちを俺に伝えてくれ!
そう、きっぱりと――っ!
「それはできません」
きっぱり断られてしまった。
――当たって砕けた




