Bordeaux(Ⅲ)
佐々木の手でシャンパンの栓が抜かれ、足つきの細いグラスに注がれる。
きめ細かな小さな泡が今日の食事のスタートを華やかなものにしてくれる。
佐々木は3つ目のグラスにもシャンパンを注ぎ、そのグラスとシャンパンをボトルごとキッチンに居るシェフに手渡した。
自分のグラスを持った佐々木が「では、ボルドーの夜に!」と言うとシェフもグラスを上げる。
それを見てから佐々木は真理亜に向き合って座り、「今日はボルドーワインを楽しもうという趣向なんだ。このシャンパンもそう、次のワインもボルドーだ」と説明した。
「では、改めて・・・」と佐々木は真理亜にグラスを掲げ、真理亜も少しだけグラスを持ち上げて乾杯をした。
「シャンパンはこのグラス1杯だけにしておこう。残りのシャンパンを料理に使うことになってるんだ」
真理亜は唇を湿らすように少しずつシャンパンを飲み、佐々木はそんな真理亜にボルドー地方の地形を説明していく。
ほどなくシェフが小さなお皿に蛤と牡蠣を乗せて運んできた。
「冷めないうちにどうぞ」とシェフが言うので、二人とも早速小さなフォークを手に持った。
微妙な加熱加減で、外側は温かいのに内側は生の貝をそのまま食べている仕上がりになっている。
上には濃く煮詰めたシャンパンソースが少量掛かっていた。
口に入れると同時に、飲んでいるシャンパンの香りと同じものが香り、しかも噛むと貝のうま味が広がって口を開けるのが躊躇われるような素晴らしいものだった。
蛤も牡蠣も皿には1個ずつ乗っているだけだったので、丁寧にそのハーモニーを楽しんだ。
次のお皿が届くまで、佐々木はいかにフランス人が貝をたくさん食べるのか真理亜にフランスでの様子を話してくれた。
話しながら白ワインを栓を開ける。
同じように3つのグラスに注ぎ、シェフにもグラスを1つ渡した。
シェフは飲みながらそのワインに合わせて料理の味を調整しているようだった。
やがて白ワインが終わると、佐々木は1本の赤ワインを取り上げた。
ボトルはすでに開栓されていてグラスも丸い大きなグラスが用意される。
「今日は5大シャトーのワインじゃない。フランスから持ち帰ったサンテミリオンのを飲んでみようとおもう」
真理亜は5大シャトーが何なのかわからなかったがとりあえず頷いておいた。
「同じボルドーでもサンテミリオンは・・・」と佐々木の話が続く。
グラスに注がれたワインの色を確かめ、香りを楽しみ、口に含んで転がしていく。
佐々木と付き合ってから見様見真似でそういう飲み方に慣れてきた真理亜は、今まで飲んだワインとは違う味わいに気がついた。
二人ともしばらく口を開かなかった。
「これは美味いな」
「ん~~、ほんと美味しい。厚みと軽やかさが共存してるね」
そんな真理亜の発言に佐々木もシェフも微笑んで見返した。




