Bordeaux(Ⅱ)
翌日、真理亜は佐々木との夕食のためにいつもより時間をかけて支度をした。
たっぷりのお湯に使った後水に近い温度のシャワーで全身を引き締め、お風呂上りにはボディークリームをたっぷりと隅々まで摺り込んでタオルで軽く拭う。
バスタオルを身体に巻きつけただけの姿で、冷房を強めにした部屋で丁寧に化粧をした。
今日はちょっとオシャレをして白いサマースーツを着る予定だ。
スーツといっても柔らかな素材で女らしい線をいかせるデザインだ。
ブラウスとスカートを身に着けてからオレンジ色の箱を手に取った。
佐々木のフランス土産のスカーフを箱から取り出し、ブラウスの上から当ててみる。
どうやって結ぼうか鏡の前でいろいろ工夫してみたがなんだかしっくりこない。
考えた末に真理亜はブラウスを脱ぎブラも外してしまった。
素肌の上にピンク色のスカーフの端同士を結わえて、その上からジャケットを着た。
スカーフだけなら金太郎状態である。
ノーブラでも生地がしっかりと厚めのスカーフなので透けることはない。
ジャケットで背中が隠れているので移動に問題はないだろう。
脱ぎ捨てたブラウスを片付けて、素足にオープントゥのパンプスを履いて真理亜は部屋を出た。
アパートの外に出るとちょうど佐々木が車を停めて出てきたところだった。
「これはこれは、ゴージャスだな」とまぶしそうに真理亜を見つめ、助手席のドアを開けてエスコートする。
お礼の代わりに「今日は素敵なお食事になりそうね」と言って真理亜は微笑んだ。
他愛のない話をしながら Bar 桜羽 に到着すると、佐々木は真理亜を10階のVIPロームに連れて上った。
すでにテーブルセッティングは出来ており、使った形跡のあまりないキッチンにはシェフが待機していた。
顔は見知っている。確かメインシェフであるはず。
慌てて頭を下げたものの、どういうことかと真理亜が思案していると「上着をお預かりしましょうか」と佐々木が真理亜の後ろに回って上着を脱ぐのを待った。
「土曜日は下はあまり混まないからシェフにここに来てもらったんだ。サービスは俺が担当する」といつもの口調に戻った佐々木が言った。
真理亜が手を少し後ろにして僅かに肩を揺するとジャケットがするりと落ちてきた。
佐々木は慌ててそれを受け取り、大きく開いた真理亜の背中が見えると「う~~ん」と唸っている。
「どちらに座ればよろしいですか?」と真理亜が茶目っ気たっぷりに聞くと、「こちらにどうぞ」と佐々木が椅子を引きながら彼女が座るのに手を貸した。
「お嬢さん、それは反則じゃないですか・・・?」
「お土産のお礼です」
一瞬呼吸を止めた後、佐々木はニヤリと笑った。
真理亜がしてやったりという表情で笑ったのを見ると、「今夜は楽しく過ごそうな」と佐々木が言った。




