迷い(Ⅱ)
暑いハーブティを一口飲むと気持ちが落ち着いた真理亜は、結論の出ないことをあまり考えるのは良くないと思い至った。
春先から付き合いだした、しかも身体先行のお付き合いはまだ日も浅い。
まだまだこれからだと言うのに、仕事のことも絡めて考えなければならないのならタイミングが良くないとしか言いようが無い。
悩むのはもっと先にしよう、今夜はもう考えない、と決めてTVのスイッチを入れた。
翌朝の目覚めは爽快だった。
昨日はうっすらと残っていた頭痛もないし、顔のむくみもとれている。
1時間ほどヨガの基本を行ってから一日の行動を開始した。
といっても洗濯も掃除もほとんどを昨日のうちに終わらせているので、軽く掃除機をかけただけだ。
読みかけの本を読みきってしまうとすることが無い。
これから1週間分の食材を駅近くのスーパーまで買いに出ることにした。
スーパーまで往復を考えて1時間コースかなと家を出たのに、結局本屋にも立ち寄ったので真理亜がアパートまで帰ってきたのは2時間ほど後だった。
快晴とはいかず雲が多い空ではあったが、たった15分ほどの帰り道はじっとり汗ばむ陽気だ。
こんなことなら日傘を持ってでればよかったと思いながらアパートの階段を昇りかけたとき、階段の上から影が見えた。
真理亜がふと顔を上げると佐々木が階段の上に立っていた。
「あら・・・」
「あら、じゃないよ。どこ行ってたんだ?」
「駅前のスーパーまで」と言って真理亜はスーパーの袋を持ち上げて見せた。
「やけに時間かかってるじゃないか」
「ん、本屋も寄ってたから・・・。って、いつから待ってるの?」
「それほど待ってはないよ」
「ふ~~ん」と言いながら真理亜は階段を昇りきり、佐々木を追い越して部屋の鍵を開けた。
「暑いでしょ。冷たい麦茶でもどうかな?」
佐々木を追い越すとき、彼から少し汗の匂いがした。
それほどではなくてかなり待っていたに違いない。
佐々木を部屋に通してから窓を開け、佐々木の返事を待たないで冷蔵庫から出した麦茶を2つのグラスに注ぎ、1つを佐々木に差し出した。
そしてようやくエアコンを点けると、もう一度冷蔵庫を開け今度はビールを取り出した。
「こっちの麦はどう?」
「それのほうが良いな」
飲んでしまった麦茶のグラスと交換でビール缶を手渡すと、佐々木はすかさずプルトップを引っ張った。
真理亜が1つしかビールを出さなかったので、開けたビールを手に持ったまま飲まずにじっと真理亜を見ている。
「私は買ったものをとりあえず冷蔵庫に入れてから飲むから、お先にどうぞ」と言って佐々木にビールを勧めた。
「あ、運転は?車じゃないの?」
「あぁ、大丈夫だ」
「よかった。ビール出してから気がつくなんて・・・ごめんね」
「大丈夫だって。それよりも・・・」
「ん?」
「二日酔いは大丈夫なのか?」
「とっくだよ」
真理亜は冷蔵庫に野菜を押し込めながら、うしろめたさを隠すために勤めて明るく返事をした。
「で、金曜は何処に行ってたんだ?」
どう答えようと真理亜が考えていると、「何処に泊まったんだ?」と佐々木が聞いた。




