土曜の朝(Ⅴ)
リビングの窓辺で景色を見ながら真理亜はぽつぽつと自分の環境について話していた。
実家から離れて一人暮らしをしていること、安全のために住所は実家のままにしていること、弟が実家の米屋を継いでいること。
週末は一人で飲みに行くことが多いことなども話した。
夕べの経緯については、田所が知らない部分は真理亜が話し、真理亜が知らない部分は田所が補った。
また、田所が近所のタワーマンションに住んでいることに驚いて、そして部屋からの景色に驚いた勢いでついついいろんなことを質問していた。
田所は真理亜の質問に面倒がらずに答え、二人の会話は止まることがなかった。
ふと喉の渇きを覚えて言葉が止まった真理亜に、「あ、長い間立たせたままだったな」と田所が気がついた。
二人はずっとリビングの窓際で話していたのだ。
「何時ごろでしょうか?すっかりお邪魔してしまって・・・」
田所が腕時計を見て、「12時半だよ」と言った。
「そろそろお暇します」と真理亜は一歩踏み出そうとして足元がふらついた。
とっさに田所が腕を支えて、「大丈夫か?鎮痛剤で頭痛は止まってるかもしれないけど、まだ顔が青いぞ」と真理亜の顔を覗き込んだ。
みるみるうちに真理亜の顔が真っ赤に染まる。
「ゆっくりしていっても良いんだぞ?」と田所が気遣って言うと、「いえ、ちょっとお腹が空いてきて・・・」と真理亜が恥ずかしそうに答えた。
一瞬の後で、「あはははは・・・君って・・・」と田所が笑い始めた。
「腹が空いたら言えばいいだろう」
「いえ、時間を聞いたら急にお腹が空いたんです」
「あははは。そういえば俺もお腹が空いた。あいにく家には非常食しかないからな。何か食べに行くか?」
「いえいえ、田所さんのご予定もおありになるでしょうし、そろそろ家に帰りたいので」
「何を今更敬語になってるんだ?」
田所はすでに自分のことを俺と言ってるし、真理亜も敬語とタメ口がごっちゃになってしまってる。
「さっきもふらついたので心配だ。それに俺も何か食べに出るから、送っていくよ」
真理亜は少し考えてから、「実は近所に美味しいパン屋さんがあるんですよ。カフェも併設していてランチメニューも充実しているんです。そこにご案内したいんですけど」と提案した。
田所が頷いたので、「食事時間は混みますけど少し時間をはずせば待たずに座れるはずです。先にバッグだけ置きにうちに寄っていただいてもいいですか?お待たせしませんから」と言いながら寝室に向う。
寝室のドアを開けると大きなベッドが目に入った。
真っ白なシーツが乱れていて、二つ並んだ枕にそれぞれ窪みがついている。
覚えてはいないが昨夜はこのベッドで寄り添って眠ったのかと思うと急に恥ずかしさがこみ上げてきた。
すぐ後ろに田所が来ているのがわかったので振り返ることもできずに、うつむき加減で上着とバッグを探した。




