土曜の朝(Ⅲ)
シャワーを終えた真理亜がリビングを探して廊下を進むと、その先から「こっちだ」と田所の声がした。
声のする方に歩くと、明るくて広いリビングとそれに続く独立したダイニングがあり、更にその向こうから田所が顔を出した。
「Tシャツをお借りしました」
そう真理亜が言うと田所はそれに頷いただけで、「そこに座って」とダイニングテーブルを指差したので大人しく椅子に腰をおろす。
座ったまま顔を動かして部屋を見ると、シンプルながらシックな色づかいに心が落ち着くインテリアだ。
窓の外には視界を遮るものがなく、どうやら高層階であるらしい。
真理亜が座ると、田所が黒いお椀に味噌汁を運んできた。
「どうだ?まだ頭痛がするか?」
「はい」
「食欲もないだろうが、二日酔いにはこれが良いんだ」
そう言って真理亜に勧めて自分も箸を取った。
「美味しい・・・」
「そうだろ?」
「田所さんが作ったのですか?」
「そんなわけないだろ」
田所は笑いながら真理亜を見た。
「あれだよ、お湯を注ぐだけでいいのがあるだろ?」
「あぁ、ありますね。私も時々そういうのを食べます」
「料理はしないのか?」
「しますけど、一人だと出汁とか具材とか面倒になることがあるので・・・」
寡黙な田所と会話が続いているのが不思議だった。
しかもお味噌汁について話しているのが可笑しくて、真理亜は顔が綻びそうになるのを気をつけなくてはならなかった。
気がつくと田所がじっと真理亜の顔を見ている。
何かヘンなことを言ったかなと問いかけるように田所を見返すと、「ほぉ、一人暮らしなのか」という呟きが返ってきた。
「いったい何処に住んでるんだ?」
「あ・・・っと、それはですね」
しどろもどろになる真理亜に、「ほら、味噌汁飲んでしまえ。話はゆっくり聞こう」と言って田所は席を立った。
田所にどう説明しようかと真理亜は痛む頭で考えながら、残り少なくなった味噌汁を飲み干した。
隣の部屋から戻ってきた田所が、水の入ったグラスと薬の小瓶を真理亜の前に置く。
田所が用意してくれたアスピリンとビタミンCの錠剤を飲み下すと、真理亜は食器を洗いますからと言って田所に続いてキッチンに入って驚いた。
キッチンはアイランド型で、充分な広さと明るさがあり、窓からの景色も素晴らしい。
カウンターは一部広くなっていてお洒落なスツールが2脚置いてあり、簡単な食事ならここに座って食べると寛げそうだ。
田所は料理なんてしないに違いない。
まるでショールームみたいに綺麗なキッチンだった。
すでにコーヒーの準備は出来ていて、キッチンに香りがただよっている。
真理亜が手早く味噌汁椀とグラスを洗いあげると、田所がマグカップにコーヒーを注いでカウンターに置いた。




