土曜の朝(Ⅱ)
田所に言われたとおりに最初に目に付いたドアをあけると、先ほどの寝室よりは狭いが充分な広さのベッドルームだった。
ベッドとワークデスクとクローゼット、そしてすでに少し開いたドアが在り、どうやらそこがこの寝室のバスルームのようだ。
真理亜はそっとドアを押してみた。
白とアイボリーでシンプルに統一されているのは寝室と同じだ。
とりあえずトイレを済ませて洗面所の鏡を見ると、青白い顔をした自分の顔が映っていた。
30歳も目前だというのに化粧も落とさずに酔いつぶれてしまっては女子力ゼロだと思いながら洗面台の周りを見ると、クレンジングフォームやローション等必要なものが全部同じブランド品で揃っている。
きっと田所の彼女の持ち物なのだろう。
泊めていただいたのは有難いが、彼女が嫌な顔をしないかと思うと気が気ではない。
人事部の田所さんは結構人気があるから彼女も居て当然だと思う。
どうしようかと真理亜が考えあぐねているところに、ドアがノックされた。
「ちょっといいかな?」とドアの向こうから田所の声が聞こえた。
真理亜がバスルームのドアを開け寝室に顔だけ出すと、田所は寝室のドアを少しだけ開けて、「遠慮しなくていいから」と言った。
「妹のなんだ」
「え・・・?」
「時々妹が来て泊まって行くんだ。あいつがその時に使うものを勝手に置いている。
洋服や下着もクローゼットに入っているはずだから適当に着ていいぞ」
「・・・でも」
「自分が必要だと思うものは使って良いから」
それだけ言って田所はドアを閉めた。
真理亜が遠慮しているのを心配してわざわざ言いに来てくれたんだろう。
そう思うことにしてため息をひとつ吐くと、覚悟を決めてシャワーを浴びることにした。
浴室に備えられているボディーソープもシャンプーも上質なものだったので、遠慮しながまらも幸せな気分になった真理亜は、身体を拭いた後には自分のブラウスを着る気がしなくなっていた。
なんとなく臭うのだ。そういえばリバースしたようなことを田所が言っていた。
記憶をたどると、酷く苦しくて苦しくて便器を抱えている自分を思い出した。
そして真理亜の背中をさする誰かの温かい掌の感触も思い出した。
それから誰かに支えられて差し出されたお水で口を漱いだことも。
『あぁ、やってしまった・・・・』
恥ずかしくて自分を埋めてしまいたくなったが、ここから逃げることはできない。
開き直るほうが賢明だと真理亜は判断して、バスタオルを巻いただけの姿で寝室のクローゼットを開き、妹さんのだという衣装のなかからTシャツだけを借りることにした。
ブラは昨日のままでも仕方が無い。パンティは確かハンドバックに予備を一枚入れていたはずだ。
自分のスカートに無難なTシャツを着て鏡を見ると、それほど可笑しくもない。
ストッキングは穿かずに、田所が居るはずのリビングに出て行くことにした。




