19 土曜の朝(Ⅰ)
真理亜はいつもとは違う感触のシーツを不審に思いながらゆっくりと目を開けた。
見慣れない壁が見えて驚いて目を閉じた。
もう一度恐る恐る目を開けると、真っ白な枕とシーツ、そして真理亜の部屋ではない壁が見えた。
やけに背中が熱い。
シーツは腰の位置までかかっており、真理亜は自分が服を着ているのを確認してほっとした。
ブラウスのボタンがいつもより開いて胸の谷間が見えている。
熱いはずだ。スカートもストッキングも穿いたまま眠ったらしい。
足をもぞもぞ動かしてみると、ストッキング越しにシーツの滑らかさがわかった。
「起きたのか?」
不意に背中から声がしたので、真理亜はぎょっとして振り向りむいた瞬間に頭がズキっと痛んだ。
「ほら、ゆっくりこっちを向け」
そう言いながら真理亜の肩を押したのは田所だった。
ゆっくりと身体を反転させて向きあってみると、田所は片腕に頭を乗せる形で真理亜を見ていた。
先ほど背中が熱かったのは後ろに田所が居たせいなんだと真理亜は気がつくが、何故田所と同じベッドに横になっているのかよく理解できないでいた。
「おはよう」
「・・・・おはようございます」
「気分はどうだ?」
真理亜は頭痛を思い出した。
田所が人差し指で真理亜の眉間をゆっくりと押して、「頭が痛いんだろう?」と聞いた。
真理亜が頷くと、「夕べは吐くくらい飲んだからな。覚えてるか?」と言う。
首を横に振ると、「ゆっくり思い出すさ」と言って、田所は少し笑った。
「洗面所を使いたいんじゃないか?」
「はい」
「そこから出て左に行って、最初のドアだ。
その部屋にあるバスルームを使ってくれ。トイレもすぐにわかる。
シャワーで良いだろう?タオルでも歯ブラシでも何でも使ってくれ」
「あの・・・。ありがとうございます」
「うん。話は後だ。お前、酒臭いからな。とりあえずすっきりして来い」
「す、すみません」
真理亜は自分の顔が赤くなるのがわかった。
確かに自分でもイヤになるくらい臭いが気になった。
「うん。コーヒーでも淹れるよ。終わったらリビングに来てくれる?」
「はい」
真理亜がベッドから出易いように気を使ったのか、田所は真理亜の返事を聞くと先にベッドから起き上がり部屋を横切った。
ドアに手をかけて、「服でも化粧品でもその部屋にあるものは好きに使ってくれ」と言って真理亜を振り返る。
真理亜がコクリと頷くと、田所も頷いて部屋を出て行った。
真理亜は一人になって夕べのことを思い出そうとしたが、頭痛が邪魔をして記憶が出てこない。
考えるよりもバスルームを使ってさっぱりするのが先だと慌てて起き上がった。




