トワイスアップ(Ⅴ)
田所は迷わずタクシーに行き先を告げた。
ビジネスホテルに放りこむことも一瞬考えたが、それよりも自分のテリトリーに真理亜を置きたい気持ちのほうが強くて自分の部屋に連れて行くことにしたのだ。
タクシーの中で真理亜を軽く揺すって名前を呼んでみる。
完全に目が覚めないまでも、少しでも歩けば部屋まで運ぶのが楽だ。
ところが真理亜は眉をしかめただけで目を開けようとはしなかった。
よく見ると顔色が少し青く苦しそうだ。
思わず真理亜が田所の肩にもたれることができるうに引き寄せた。
肩に真理亜の顔を乗せるようにしておいて、スーツ越しに腕を掴んでみた。
掌で少し圧をかけて真理亜の弾力を確かめる。
先ほど背負った時にも感じたが、ほっそりとして見えるが、しなやかで弾力のある筋肉がついている。
先ほど背負った時に感じた太腿の硬さやヒップの弾力、それになにより背中に押し付けられた胸の感触に思わず頬が緩みそうになるのを譲二に隠すのが難しいくらいだった。
それにしても、と思う。
譲二が貸しだと言うくらいだから田所が真理亜に興味を持っていることがバレているのだろう。
最近田所が金曜日に Angel Eyes に顔を出していることを譲二は一度ならず口に出していた。
別れ際にニヤリとした譲二の顔を思い出したが、子供の頃からの付き合いなら田所の行動が何を意味するのかもわかっているはずだ。
過去にはどれも女性のほうからアプローチされてようやく興味を持ち付き合ったケースばかりだ。
田所のほうから彼のことをどう思っているのかわからない相手に見てもらいたいと思うのは初めてのことだ。
肩にもたれて苦しそうに目を閉じている真理亜の顔を見て、この子は気がついているのだろうかと思う。
真理亜を見かけていたときから、そして始めて言葉を交わしたときからはさらに強く魅かれていることを。
近くに座った真理亜をつぶさに観察していたこと、今は真理亜が周囲に隠そうとしていることも田所がすでに知ってることを彼女が気づいているとは思えなかった。
朝になって真理亜が目覚めた時にどんな反応をするのか、田所は想像してニヤリと口元を引き上げた。
田所の住むマンションに近くなったので、もう一度真理亜を軽く揺すってみる。
眉間にシワを寄せて何かを呟いたので、眠りは浅くなってはずだ。
タクシーが止まったので今度こそはと声を掛けて立たせると、真理亜はなんとか田所にもたれながら立ち上がったが目は閉じたままだ。
まるで子供だなと田所は微笑んでしまうのを止められなかった。
その真理亜の腰を支えながら田所はゆっくりとエレベーターに向う。
玄関にたどりついたところで、真理亜を抱き上げて寝室に向う。
真理亜は嫌がらずに田所の顎の下に頭をすりつけて大人しく運ばれた。




