トワイスアップ(Ⅲ)
田所がぐるりと Genesis の店内を見渡すと、何人かのお客から好奇の目で見られてることに気がついた。
女性っぽくしなを作ってもやはり骨の細さや筋肉の柔らかさが本物の女性とは違う輩たちの好奇の目線や、
逆に、逞しくこれぞ男という風体の人物からの威嚇が半端じゃない。
ゲイに囲まれたからといって動じる田所ではないが、それとなく合図を送ってくる男達にうんざりしながら譲二を見る。
田所のような強く冷たい男は Genesis のお客たちの目にはどんなに魅力的に映っていることか。
譲二は苦笑まじりに僅かに肩をすくめてみせた。
ようやく真理亜に目を向けてみると、真理亜の肩に手を置いたノアが軽く揺すって声を掛けている。
真理亜は何事か呟いたがそれでも目を覚まさなかった。
「仁科の鞄はどこだ?」
田所がそう言うとノアが真理亜の座っている椅子の背もたれと真理亜の背中にあったバッグを取り上げた。
そのバッグを田所が受け取って譲二と一緒に中を検める。
財布の中にあった運転免許証は実家の住所だった。
ここから送っていくのと田所の帰りを考えるとタクシー代を考えただけでうんざりするほどの距離だ。
ところが同じくパスケースにあった電車の定期券は、とうてい真理亜の実家の最寄り駅までのものとは思えないくらい近くまでのものだ。
田所は真理亜が別の場所で暮らしていることに確信を持った。
「メッセージと着信があるけどなぁ。パスがかかってるからどうにもならない」と光る携帯電話を真理亜のバッグから取り出した譲二が言う。
ノアはとっくにカウンターの中に戻り、手際よく注文をさばいている。
田所はため息をつきながら、「とりあえずここにから移動するか」と譲二に声を掛けた。
「どうだ?わかったのか?」と譲二が聞くので、とっさに「ああ」と答えた田所は自分で驚いていた。
兎に角ここから移動しなければならない。
タクシーに乗るまでに考えればいいかとバッグに荷物を戻して、真理亜の椅子の後ろに屈んだ。
「そいつを乗っけてくれ」
「負ぶっていくのか?」
「あぁ、スカートじゃないから大丈夫だろう」
「たぶんな」
酔っ払いは結構重い。腕で支えて歩かせるより、背中に背負ったほうが楽なのだ。
譲二は真理亜が座っている椅子ごとくるりと回し、田所の背中に落とすような形で移動させた。
真理亜の手を田所の肩越しに前に垂らすのを確認して、田所に「よし、いいぞ」と合図を送った。
「鞄は持ってくれよ」
「あぁ」
「支払いは?」
「気にしなくていい。真理亜ちゃんがあとで払いにくればいい」
「それもそうだな」
田所は真理亜の大腿を抱え込んでゆっくりと立ち上がった。




