グラッパ(Ⅳ)
とりあえず外に出ると真理亜は安堵のため息を1つ吐いた。
声をかけられることはあってもいつもなら適当にあしらえる。
今日はいつもより酔っているのでうまくかわせなかったと同時に、
あの隣の男性には生理的に受け付けないものを感じてしまったのだ。
確かに男性の立場からすると、単に隣に座った独り飲みの女を心配して声をかけただけなのに
剣もほろろにそっけない返事をされたので気に触ったのかもしれない。
真理亜は少しだけ申し訳ない気持ちになったが、自分自身に余裕の無いときもあると諦めた。
急いで隣のビルの Genesis を目指し、その扉に手を伸ばす。
取っ手を掴もうとしたが、真理亜より先に取っ手を掴んだ手があった。
ぎょっとして振り向こうとするとそのまま後ろから扉に押し付けられる。
知らない匂いが真理亜を包んだ。
「場所を変えるのか?」
右肩を強く押さえつけられている。
男は右手で扉の取っ手を掴んでいるので、左の掌全体で真理亜の肩甲骨の上部を押さえつけたようだ。
「俺が気に入らないので、場所を変えて違う男を探すのか?」
頭の上から決め付けるように投げつけられた言葉に真理亜はぞっとした。
男の酔いや怒りが汗の匂いと共に真理亜に押し寄せてくる。
彼はなにかに非常に怒っていてアドレナリンと共にそれが流れ出している。
しかし見知らぬ男に執拗に絡まれ、暴言を吐かれたあげくに力でねじ伏せられるとは納得がいかない。
「何があったか知りませんが、怒りを私にぶつけなくてもいいんじゃないですかっ?」
「なにをっ・・・・」
男の手に更に力が加わった。
その時、扉が内側から開かれた。
「真理亜ちゃん~」
ノアが陽気な声で真理亜の名を呼び、同時に体勢を崩して倒れそうになる真理亜を両手で抱きこんだ。
「待ってたのよ~。遅いじゃない?
心配して迎えに行こうと思ってのたの~」
そう言いながら後ろについていたスタッフに真理亜をそのまま預けると、
真理亜の肩を押さえていた男の宙に浮いた手をつかんだ。
一連の動作はあっという間だった。
ノアは男の手を掴んで素早く男の横に移動し、そのまま密着する。
「お連れの方?」と真理亜に聞く。
真理亜が首を横に振ると、「あら、ご新規さんね。お一人?いつまでも入り口でお待たせするわけには参りませんね」
と言いながら、男を店内に案内した。
案内したといえば聞こえはいいが、掴んだ手にはかなり力が入っているらしく男の腕とノアの腕がぷるぷると震えている。
ノアの手を振りほどきたくて男は抗っているのだ。
だが、女装をしているとはいえノアもかなり修羅場をくぐってきた元男性である。
すぐに決着はついたようだ。
男はノアにしな垂れかかられたまま奥のボックス席に連れていかれた。
ノアが男に密着したまま先にボックスシートに座らせ、自分が通路側に座る。
そこに Angel Eyes の譲二がやってきて、カウンターに座った真理亜を確認すると
まっすぐにボックス席に向った。




