Burgundy (Ⅶ)
佐々木が一口ワインを口に含んだので、真理亜も同じように一口飲んでみた。
渋さはあまり感じられない。
軽い酸味とほどよい甘さが飲んだ後に心地よさを感じさせる。
佐々木がボトルを取り上げ二人のグラスにたっぷりと注いだ。
「この味を覚えておいて?」と佐々木が言ったので、真理亜はコクンと頷いた。
「さ、ここにはなにも摘むものがないので、店に下りて何か探してこよう」
「あ、忘れてた・・・」
「ん?」
「私の荷物は・・っと」
真理亜は佐々木の返事を待たずに寝室に入っていく。
バッグの中から保存容器を取り出して「冷蔵庫借りていい?」と断って持ってきた容器を入れると
「すっかり忘れてたわ」と不思議そうな顔をしている佐々木に、
自宅で佐々木を待ちながらつくったおかずを持ってきたと恥ずかしそうに説明した。
「おお、それ食べようぜ」
「え?こんな夜中に?」
「腹減った・・・」
「煮込みハンバーグなのよ?今からだとお腹にもたれちゃうよ」
「いや、大丈夫。絶対にそれ食べたい」
「ん~~、わかった。一個だけだよ?」
話をしながらも佐々木の手はワイングラスを離さない。
彼は時々そのグラスをくるくる回して、中に入っているワインを揺らしていた。
とりあえず店に行って他におつまみになるようなものを探そうということになった。
その前にワインを一口勧められて飲んでみると、明らかに先ほどとは味が変わっていた。
次に佐々木がさらに勧めるので、佐々木のグラスから一口飲んでみる。
飲み下した真理亜はびっくりしたような顔を佐々木に向けた。
「どうだ?」
「全然違う~~~。なぜ?」
「なぜだと思う?」
真理亜は少し考えて、「亮輔がグラスを揺すっていたのと関係ある?」
「お前、勘が良いな。酸化を進めるとまろやかになる」
「もっと飲みたくなるわね」
「あははは、仕込み甲斐があるな」
そんなやりとりをしながら再びエレベーターに乗り、一階の店に移動した。
「まさに、忍び込むという感じね」
真理亜の声がシンとしたエントランスに響く。
佐々木はすばやくセキュリティーパッドに暗証番号を入れて、照明を点けた。
真理亜の手を引いてBar『桜羽』の厨房に案内する。
カクテルを作るバーカウンターだけではなく、独立した厨房が桜羽にはあった。
そういえば料理も結構充実してたと真理亜は思い出した。
「クラッカー要る?」と佐々木が聞く。
「うん、数枚でいいけどね」と真理亜が答える。
「チーズは?」
「欲しいな」
どうやら食材は佐々木が出してくれるけれど、盛り付けるのは真理亜の役目のようだ。
佐々木からお皿を受け取ると、数種類のチーズのなかから、食べやすいものとワインに合いそうなものを2種類選んで適当な大きさに切り分けて乗せた。
「バケットはある?」
「ん~~、あったはず」
「野菜、見せて?」
オリーブオイルとバルサミコ酢を見つけたので、カップに少量入れて塩と胡椒も振りかけた。
オリーブやピクルスはふんだんにあったので、それも別皿に乗せる。
二人は手分けしてお皿を持ち、店を出た。




