Burgundy (Ⅵ)
タクシーの中で真理亜は落ち着きを取り戻していた。
無言で隣に座っている佐々木がどう思っているかわからないが、
とりあえず今は何も聞かないでいることを有難いと思った。
ほどなく佐々木の店に到着し、店に入らずに直接10階までエレベーターに乗ると
「眠いかい?」と佐々木がようやく口を開いた。
「ううん」と真理亜が首を横に振ると、
「じゃ、買ってきたワインを試してみよう」と言って、10階に到着したエレベーターの開いた扉を手で押さえる。
真理亜は頷いてエレベーターを先に降りた。
深夜のVIPルームは物音ひとつしない。
佐々木が照明を点け、真理亜に壁の棚からワイングラスを取り出して置くように言うと
真理亜のバッグと自分のトランクを寝室に運びいれる。
そんな佐々木を目で追ってから、真理亜はグラスが並んでいる棚に近づいた。
いろいろなグラスがあった。
ワイングラスになりそうなものでも数種類ある。
真理亜が選びかねていると、寝室から佐々木が顔を出して「一番丸くて大きいグラスだ」と声を掛けた。
言われたように丸くて大きなグラスを2脚取り出して、注意しながらダイニングテーブルに置いた。
棚の下にある引き出しを開けてみると、真理亜の予想通り備品が入っている。
ワインオープナーと紙ナプキンを取り出し、ついでに冷蔵庫も開けてみた。
冷蔵庫には炭酸飲料水しか入っていなし。
食べものは冷凍庫にも入ってなかった。
ほどなくシャツにコットンパンツというラフな服装に着替えた佐々木が戻ってきて、
「なかなかよく出来ました」と言いながらワインオープナーを真理亜の手から取り上げた。
ニヤっと笑いながらワインボトルをテーブルに置き、ワインオープナーについている小さなナイフで
ボトルの先端近くにぐるりと切り込みを入れる。
ナイフの先をその切り込みに挿し入れたと思ったら、上手にカバーを取り除いていく。
次にコルク栓の上部にオープナーを突き刺したかと思うとくるくると回してから慎重にコルクをボトルから抜き出した。
真理亜にとってはあっと言う間の出来事だ。
気がついたときには先ほどまでボトルに入っていたコルク栓がオープナーに移動してくっついていた。
佐々木はコルクの匂いを嗅ぐと、真理亜の鼻先にコルクを近づける。
真理亜はそのコルクを指でつまんで、匂いを確認してみた。
「あ、甘い・・・・」
「目を瞑って嗅いでみろ?」
言われたとおりに目を閉じてコルクから匂いを嗅ぎ取ろうとする真理亜を見ながら
佐々木はグラスにワインを少量づつ注ぐ。
「フルーティ」
一言、真理亜が呟いた。
目を開けると佐々木がグラスを真理亜に差し出した。
佐々木が天井のライトにグラスをかざしたので、真理亜も同じようにグラスを持ち上げる。
佐々木がグラスを鼻に近づけ香りを吸い込んだようなので、真理亜も真似して同じように吸い込んでみる。
重い香りが漂ったあとに果物の甘さがかすかに感じられた。




