Burgundy (Ⅳ)
「あ、お土産。忘れてないぞ」
と言いながら、佐々木は玄関近くに置いたトランクからワインを1本出してきた。
「まずこれを」
「あら、重いのに?」
「軽い味のを選んだつもりだ」
「嬉しいな。ワインってどれを選んでいいのかわからないのよ。
しかもフランスから、ステキだわ」
「飲むか?」
「え?今?」
「ああ。もう1本あるから飲むなら出すよ」
「えっと・・・ごめんなさい。ワイングラスがないんです」
佐々木はキッチンのほうを見て、「そうだよな。期待できそうにない」
真理亜は苦笑するしかなかった。
聞けば小ぶりなトランクなのに、ワインを3本も詰めて帰ってきたらしい。
割れなくて佐々木はすごく喜んでいる。
佐々木がトランクの中を確認している間に、真理亜は食器を洗った。
「ありがとう。すごく美味しかったよ」
「簡単なものしかできなくてごめんね」
「もうひとつあるんだ」
真理亜が振り返ると、佐々木がトランクの中からオレンジ色の薄くて四角い箱を取り出し
半分身体を捩じって真理亜に差し出した。
オレンジ色の箱の中央には有名なブランドのロゴマークが金色に光っていた。
真理亜は慌てて濡れている手をタオルで拭いてから、その箱を受け取った。
「開けてもいい?」
「もちろん」
「ドキドキするわね、この箱は」
真理亜は箱をテーブルに置いて、茶色のリボンを丁寧に外して箱の横に置いた。
佐々木もトランクを元の位置に戻して、真理亜の隣に立つ。
そっと真理亜が箱を開け薄紙をずらせると、中には鮮やかなシルクのスカーフが入っていた。
「まぁ・・・・。ステキ」
「気に入りそうかい?」
佐々木は真理亜を手伝ってスカーフを広げる。
薄い紫と濃いピンクの色のなかに、大胆にカラフルな花模様のお馬が描かれている。
「こういう色使いは珍しいわね」
「新作なんだ」
「こんな高価なもの」
「気に入らなかった?」
「ううん、逆よ。すごく嬉しい。ありがとう」
その言葉を聞いてニッコリ笑った佐々木は、顔映りを確認するようにスカーフ真理亜の首に当てた。
「ピンクが似合うには歳を取りすぎていない?」
真理亜は滑らかなスカーフの肌触りを心地よく感じながら聞いた。
「いや、思ったとおりよく似合う。使ってくれるかい?」
「もちろんよ。でももったいないから額に入れて飾ろうかな」
「それもいいけど・・・、使ってこそ活かされるんだよ?」
「それはそうね」
佐々木にはなんてことはない買い物だったのだろうか。
「じゃ、使ってよかったと思ってもらおう」
佐々木は喉の奥で笑いながら、スカーフを少し持ち上げる。
真理亜は視界を遮られ、スカーフが目を覆ったのがわかった。
真理亜は思わず息をのんだ。
「大丈夫。僕に任せて」
佐々木は真理亜の頭の後ろでスカーフを軽く結ぶと、真理亜の手を引いてベッドまでゆっくりと誘導した。




