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眠れない夜に  作者: ミィ
第二章
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   ハイランドモルト (Ⅱ)

真理亜が席に戻ってみると、賢吾と田所はまた別のモルトウイスキーを試しているようだ。


真理亜は次のショットを頼めなかった。


度数の強いウイスキーはそう何杯も飲めるものではない。


サブバーテンダーにミネラルウォーターとお会計を頼む。



「あれ?もう帰るの?」賢吾がそう声をかけてきた。


「酔っ払ったし、もう結構遅い時間だよ」


終電の時間はとっくに過ぎて、日付も変わっている。



「今日は美味しいお酒だった。ありがとう」と真理亜は賢吾と譲二にお礼を言った。


「では、お先に失礼します」と田所にも挨拶をして店を出る。


真理亜のすぐあとから店を出た人がいたので

先に歩道に出てもらおうと通路の端に寄り、ふと顔を上げると田所が立っていた。


「まっすぐ帰るんだろう?」


田所はそれだけしか言わなかったが、前回と同じようにタクシーを止めてくれるらしいことはわかった。


真理亜がコクリと頷くと、先に立って歩き出す。


交差点で信号が変わるのを二人並んで待った。


空車は少ないがタクシーはたくさん走っていた。


それほど待たなくてもすぐに掴まるだろう。


信号が青になると田所は真理亜を見て頷いたので、田所の後に続いて横断歩道を歩く。


渡り終えたところでタクシーを止めるために田所はくるりと身体の向きを変えた。


真理亜も慌てて振り向こうとして、足がついてこなくてよろめいてしまった。


バランスをとろうと足に力をいれたところで、田所が真理亜の腕を掴んで支えた。


真理亜の右肩から腕にかけてを田所が後ろから腕を差し出した体勢になっている。


触れたスーツ越しの腕が熱くなり、真理亜はぷっるっと身震いをした。


田所はもう少し身体を近づけて、今度は両手で真理亜をまっすぐ立たせてくれた。


お礼を言わなくてはと口を開きかけたが、真理亜を見下ろす田所を間近に見て声が出ない。


濃い灰色の目で田所は真理亜を見つめていた。


その田所の腕がすっと上がって、人差し指の背で真理亜の頬を下からゆっくりと撫でる。


Angel Eyesのカウンターで田所がグラスにした仕草と同じだった。


それを思い出して真理亜は顔が赤くなるのを止められなかった。


夜の暗さがなければその場を逃げ出していたかもしれない。



「大丈夫か?」


真理亜はコクリと首を立てに振った。


「顔が赤い・・・」


それだけ言うと田所は指をはずして、真理亜から離れた。


すぐにタクシーを止めて、いつものようにドアを押さえる田所に

真理亜は「ありがとうございました」とようやくお礼だけを言って座席に身体を滑り込ませた。


今夜は首の後ろのチリチリした感触が痛みに変わった。


真理亜は過去に経験した快楽を身体が思い出すのを止められなかった。






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