カルヴァドス (Ⅱ)
「それにしてもゴールデンウイーク突入の金曜日の夜なんて、混んでるんじゃないの?」
打ち上げ気分で街は賑わうのではないかと真理亜は心配した。
「しかも、どうせ若い世代ばかりでしょ?」
「そうなんだよな。俺も浮くと思う。だから仁科も来い!」
「ご冗談でしょ」
「決定だからな。幹事には言っておくよ」
「ちょ・・・やめてよ・・・」
「仁科が参加となったら、うちの連中、張り切って仕事終わらせるぞ」
笑いながら賢吾は営業部に戻っていった。
お昼休みが終わるので次々と同僚が戻ってきた。
「仁科さん、金曜日参加してくださるんですって?ありがとうございます」
そんな声がかけられたので、真理亜は「誘われてもないんだけど・・・」と言うと、
「先ほどエレベーターの前で営業部の斉藤さんに、仁科さんも参加だからと言われたんですけど・・・」
と嬉しそうな顔をした答えが返ってきた。
なるほど、賢吾狙いかと妙に納得した。
「それに、仁科さんが来て下さると嬉しいですし」
「え?私みたいなオバサンが行ったら場がしらけない?」
「いえいえ、一度お誘いしたかったんですけどなかなかチャンスがなくて」
「そう言ってくれるのは嬉しいんだけど・・・」
「それに仁科さんが参加しないなら斉藤さんも不参加とおっしゃってました」
「まったく・・・」
真理亜が呆れていると、詳しくはまた連絡しますと言って離れていく。
仕事の時間なのでまた後で話せばいいかと真理亜はとりあえず仕事をすることにした。
飲み会よりもまず賢吾の問題を解決しなくてはならない。
提出書類が遅れれば経理部も係ることである。
真理亜一人では解決できない問題なのでよくよく考えて文章を作り、課長にメールを送った。
しばらくすると課長から返信が届いて、その日のうちにオフレコのミーティングをしてもらえることになったので真理亜はほっとした。
気にかかることは早く処理したほうが良い。
そうかといって、経理部がまず動くことはできなかった。
仕事のできない派遣社員がすべき仕事をせずに後回しにしているため、
営業スタッフや経理部に迷惑がかかっているのだ。
後回しにする理由は、不得意な分野であることと、
経理部ではいつも記入ミスを指摘されるので提出したくないというのが理由らしい。
出来ないものは努力して出来るようにするというのではなく、
出来ないものは隠してしまえという考えが真理亜にはわからないのだが、
世の中にはそういう人も居るのだろうと思うしかない。
営業部の問題であるので経理部は係りたくはないのだが、
その出来ないアシスタントが経理部の担当者に執拗にいじめられていると
発言しているとなると放ってはおけなかった。
通常の業務と平行して営業部とやりとりしながらその週は過ぎていった。




