土曜日(Ⅴ)
アウトレットに近いところにステーキハウスがあった。
「ここでいいか?」
駐車場に入ってから佐々木が聞いた。
買い物で消費したエネルギーはかなりのものだったので、真理亜は「もちろん!」と即答した。
店内は家族連れも多くざわついていたが、今はかえってそのほうが寛げる。
「この店、出てくるのが早いんだよ」
「それは良いわね。早く持ってこなければお皿食べちゃうかもしれない」
「いつもお腹空かせてるんだな、お前は」
真理亜は佐々木を軽く睨んで、
「なんかさ、佐々木さんと一緒に居るとエネルギーの消費が早いんだよね」と言うと、佐々木は一瞬眉をしかめた。
「亮輔だ」
「う~~・・・・」
「ほら言ってみろ」
「・・・・・」
ちょうど運ばれてきたステーキのお皿を真理亜は目で追った。
店員が真理亜の前に置こうとしたお皿を、佐々木は「こっちに」と言って受け取り、
「言うまでステーキはおあずけだ」と、真理亜を睨んだ。
「う~~~、信じられない」
佐々木は何も言わずに真理亜を見る。
店員が充分に遠ざかったのを確認してから、真理亜は「亮輔っ」と小さく叫んだ。
佐々木はとたんに破顔して、「ほら、こぼさずに食べろよ?」と言いながら真理亜の前にステーキを置いた。
ナイフとフォークを手に取り、「それにしても、いきなり呼び捨てかよ」と可笑しそうに笑っている。
「真理亜に苗字で呼ばれるなんてなぁ」
「だって、久しぶりに会ったんだし。もういい大人なんだから、昔みたいに名前を呼ぶのも・・・」
「彼女にそう呼ばれたんだぞ?」
「え?・・・やっぱり私達って・・・。そうなの?」
「当たり前だろう」
真理亜の顔が赤くなっていく。
「あとで思い知らせてやるからな」
佐々木が呟いた声で真理亜はますます赤くなった。
その後、恥ずかしさからなんとか立ち直った真理亜は、買い物したアウトレットのお店の話をしながら食事を終えた。
「お前、結構食べたな」
「うん、自分でもびっくりしてる。頑張って食べたよ」
「食べる女の子って良いよ」
「女の子って歳でないけどね」と笑いながらふと外を見る。
佐々木の運転する車が東京に向っていない気がしたので、「あれ?帰らないのね」と言うと、
「あぁ、今日と明日は久しぶりの連休になったので一泊して行こうかと思って。
泊まる準備はしてきたんだろ?」
「え、うん。簡単にね」
「どこへ行くか聞かないんだな」
真理亜は笑いながら、「この道だと、箱根方面だとおもうけど?」
佐々木は何も言わずにニヤニヤしながら「まぁ、着いてのお楽しみだよ」とだけ言った。
「もうしばらくかかるから寝てもいいぞ~」
「今寝たら牛になるよ」
「食べたのがビーフステーキだからなぁ。牛の恨みでそうなるかも。
あ、でもホルスタイン並みのおっぱいになれるんだぞ?いいなぁ、それ」
「がるぅぅぅ!悪かったわね、小さくて」
「ホルスタインのおっぱいになった真理亜・・・」
佐々木は運転しながら爆笑していた。
運転があるのでワインを飲まなかった佐々木に、助手席で眠ってしまうことは出来なくて、
佐々木にからかわれてても真理亜はちっとも嫌な気分にはならなかった。
佐々木はこの辺りを知っているようだ。
暗い中を迷わずに運転していく。
やがて立派な和風建築の門が見え、佐々木はその門の中に車を進めた。




