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066.心に喜びが満ちる言葉

「くくっ。そんな必死な顔をして慌てて捕まえるとは。女性を氷のような目で見るばかりで、どんなに縋られても容赦なく振り払ってきた男とは思えない姿だな。会話に割り込めば邪魔をするなと露骨に怒る。変われば変わるものだ。あははははは……純愛、楽しすぎる!」


ジャンが手まで叩きそうな勢いで、大きく口をあけて笑い転げていた。


「人聞きの悪いことをアナベルに聞かせるな!」


セインが焦った様子でジャンを怒鳴り、アナベルの手を握ったまま立ち上がった。


「み、見合いを断っていただけで、私は女性を適当に扱って捨てたりなどしていない。どうか、誤解しないでおくれ」


物凄く真剣な目と口調で迫りくるように願われて、アナベルはその勢いに圧倒された。自動的に、こくこくと数度頭を縦に振っていた。


「……せ、セインが女性を適当に手折って遊んでいたなど思いませんから、ご安心を。もし、そのような真似をしているなら、太る呪いは邪魔なはずです。わざとかかったりなどしないと思います」


氷のような目で女性を見るセイン。

今、眉根を寄せて自分を不安げに見ているまん丸の姿から想像するのは難しいのだが、呪いにかかっていない時は、そうした表情を見合い相手に見せていたのだ。

物凄い美丈夫に氷の眼差しを向けられるのか……。

さぞ、凄味があって怖いものだろう。

見たくない、見たくない、自分は優しくてあったかい目をしたセインがいい。

そのためには呆れられないように、今後は慎重に魔法を使って役に立とう。

アナベルは心の内で念じるように呟いた。


「それを聞いて安心したよ。君が帰るなら、私も今日はもう帰ることにする」


ほうっと、深く息を吐いたセインの姿に、安心しているのがよく伝わってくる。

しかし、その言葉には首を傾げた。


「セインには政務がまだあるのでは……」


アナベルにも机にはたくさんの書類が乗っているのが見える。ここでセインが帰るとなれば、あの書記官たちは非常に困るのではないだろうか。


「明日にしたので大丈夫なものだから構わない」

「これは明日は駄目だぞ。今日中にすべて確認しておいてくれ」


アナベルが返事をする前に、ジャンがセインに向けて軽く鍵を放った。受け取ったセインが渋面となる。


「今日の分はたくさんあるのか?」


どこの鍵と言わなくとも見ただけでわかるようで、ため息交じりにセインはジャンに問うた。


「そこそこ、だ」

「おまえのそこそこは、大量だな」


朗らかに返ってきた答えに、げんなりした様子でぼやくように口にしつつも、セインは鍵を上着の内ポケットに納めた。

そうしてアナベルの手を軽く引いた。本当に、セインは屋敷に帰るつもりでいるようだ。


「政務が構わないのでしたら、お訊ねしてもよろしいですか?」


政務以外に時間が取れるというならば、やはりここで聞いておきたい。


「なんなりと」


微笑んでくれたセインに、アナベルはありがたくその言葉に甘えた。


「先日、隊長の命が危うくなりかけた時、セインは最高の癒し手である長官に魔法を依頼したと言いました。先ほどジャンからも長官は水の魔法が得意と聞いたのですが、では長官は、水の魔法が得意な上級白魔法使い、ということでよろしいのですよね?」


「そうだよ。本人はそう言っているし、他の魔法使いたちもベリル一の水魔法の使い手だと認めている。だからこそ王太后様の信頼も厚いのだ。陛下の体調の変化を最もよく見抜くのも長官だよ」


再びソファに腰かけると丁寧に答えてくれたセインに、アナベルも同じく隣に座った。


「長官は、陛下の熱を下げるのは魔法のかかりが悪いと言うばかり、とも聞いたのですが……水魔法が得意な白の上級魔法使いであるなら、間違いなく魂は水属性です。そのような人物が、熱を下げる魔法のかかりが悪いと言うのはおかしな話です」


言い切ったアナベルに、セインが怪訝な目を向けた。


「そういうこともあるのではないか? 長官は手抜きをしているわけではなく、陛下におかけする魔法は懸命に行っているよ。それでも、魔法はすべてを可能とする便利な道具ではなないのだろう?」


確かに魔法は万能の道具ではないのだが、アナベルは長官のことだけは納得できなかった。


「おっしゃる通りなのですが、水魔法が得意とご自身でおっしゃっているのが気になるのです。魔法使いはたとえ下級であろうと取りあえずすべての属性の魔法が使えるのですが、自身の魂の属性と同じ魔法が最も得意なのです」


地、水、火、風。そして、光と闇の六属性。

魔法力が顕現した者は魔法効果の大小は別として、それらを満遍なく使うことができる。

白の魔法力が顕現すれば、六属性は治癒や補助的な魔法として使える。逆に、黒の魔法力が顕現すれば、攻撃的な魔法となるのだ。


だから白であろうと黒であろうと、水は使えるが火は使えないといったことはない。


ただし、魂の属性と反する属性を使用する魔法は、上級魔法使いであろうともどうしても効果が小さなものとなってしまう。

下級ともなると魂の属性と反する魔法はほぼ使えない。

アナベルは、そう祖父母より学んでいる。


「では君は、長官は魂が水属性で水魔法が得意なのだから、そのような魔法使いが陛下の熱を下げるのが難しいと言うのは納得できないと、そう言うのかい?」


「はい。陛下の魂が完全に死の気配に覆われてしまっているのであれば、解熱不可能というのは納得できます。ですが、そうでないなら水魔法が得意な上級魔法使いの解熱の魔法がかかりにくいというのは、納得しかねます。水魔法が得意な魔法使いにとって解熱の魔法は、それほど難しい魔法ではないのです」


病の根源を取り除いての、完全治癒の魔法ではなく、応急処置的に熱を下げて多少身体を楽な状態にする解熱の魔法は、中級の祖母でさえ、かかりが悪いなどと言ったことのないものだ。


「難しい魔法ではない? では長官は嘘を言っているのか……だが、長官の魔法力は確かに王宮魔法使いの中で最も強いのだ。一年に一度必ず全員で力比べをする、という決まりが彼らにはあるから、誤魔化しは不可能なはずだ」


力比べをして、常に最強であることを証明しているとの言葉に、アナベルは少し考え込む。

ベリル最強の魔法使い集団を名乗るのだ。それくらいの事はしても当然だろう。では、それで認められている長官は、本気で強い水魔法を使っているのに、王の熱を下げるのは難しいのだ。


「そうですか……長官様に問題がないのでしたら、陛下のほうに何か不思議があるのかもしれませんね」


長官が己の力の弱さを誤魔化していないなら、そうということになる。


「私が呪いにかかりにくいように、陛下は治癒の魔法がかかりにくい、ということかい?」


心配そうな目をして問われるのに、アナベルは首を横に振った。


「それは、実際にお会いしてみないことには断言できません。ただ、攻撃の呪いとは違い癒しという守りの魔法に耐性を持っていてかかりにくい人の話というのは聞いたこともなく、会ったこともありません」


こうして話していても、癒しの魔法が効かない体質の人間など想像もつかない。


「もし、陛下の体質に問題があるのだとすれば、君が魔法をかけるときにも弊害になるかもしれないな」


低く呟くように語るセインの声には、不安な感情が滲んでいた。

アナベルはいまだに触れあっている手を、自分のほうから少し強く握った。


「大丈夫です。私は力を尽くすとお約束しました。たとえ陛下が魔法を受け付けにくい体質であろうとも、きちんと癒します。光も水も両方重ねて上級魔法をかけます。それでも駄目なら、全属性を使う最上級魔法で体質の壁など乗り越えて見せますとも!」


王が健康体となり、元気な後継者を儲けてくれないことにはセインの気苦労が減らないのだ。

とにかく王に寿命さえ残っていれば、多少おかしな体質であろうと、アナベルは何をしてでも必ず魔法を成功させてみせる。

しっかりとセインの目をまっすぐに見て、それを約束した。


「苦労をかけてしまうね……」

「その言葉は間違いです。ここは、ありがとう頑張っておくれ、が良いです。笑顔付きならなお嬉しいです」


申し訳なさそうな顔したセインに、最後まで言わせず笑顔で遮った。

すると、セインのほうからも少し強く手を握り返してきた。


「ありがとう。頑張っておくれ……本当に、私と出会ってくれたこと、感謝するよ」


握ったアナベルの手を、少しうつむいて瞼を伏せたセインが、自身の額にあてるようにした。

そうして真剣に紡がれる言葉を聞いて、アナベルの全身に喜びとやる気が大いに満ち溢れた。


「セインは、私に頑張ろうと思う気持ちをたくさんくださる人です。あなたのありがとうの言葉が一番好きです」


幸せな気持ちで心情を吐露すると、セインが少し頬を赤らめ照れたように笑った。


「私も君が一番……」


「おい、お二人さん。三人いる場で、二人の世界を作るのはいい加減やめてくれ。……聞きたいことがあるのだが、アナベルは全属性の最上級魔法を使うと言ったな。いくら魔法使いがすべての属性の魔法を使えると言っても、得意魔法は自身の魂の属性と同じものなのだろう?」

「はい、そうです」


二人の世界、などと言われると妙に気恥ずかしいが、ジャンのこちらを見ているいつになく真剣な眼差しに、アナベルは背筋を伸ばした。


「では、最上級など使えるのは一つの属性のみではないのか? 魂の属性外の魔法であっても、そこまで高度なものが使用できるものなのかい?」


王の快癒は、ジャンにとってもとても大切なことなのだ。眉間に皺を寄せ難しい顔をしている姿に、改めてそれを思いアナベルは首を縦に振った。


「私の魂に属性はありませんから」

「え?」


これまた二人に揃って驚かれる。


「祖父母、二人ともに確認してもらっているので、確かなことです。ですから、私に不得意と感じる属性の魔法はないのです」


どの属性にも属していないからなのか、すべて満遍なく得意なのだ。


「適当なことを言っているのではなく、私は本当に問題なく全属性の最上級魔法まで使えるのです」


セインのために全力を尽くす気持ちに嘘はない。だから安心してほしい……そう心を込めて伝えたアナベルに、ジャンが呆然とした様子で少し口まで開けて固まっていた。

そしてセインも……息を飲んでアナベルを凝視している。


「おい、セイン。このことが陛下に知られたら、おまえ王家と戦争することになるんじゃないのか。上級白黒魔法使いというだけでも貴重な存在なのに、それ以上とは……。絶対知られないようにしろよ」

「な、なにを言って……」


微かに声を震わせたジャンの不穏すぎる言葉に、アナベルがぎょっとして目を丸くするも、セインは真剣な顔をして頷いていた。




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