攻略組
「リュウさん!」
俺と同様、あの棺桶から落っこちてきたとおぼしきバルが俺に向かって駆け出してきた。
その後ろからシーナもついてくる。
つかさっきの音ってバルが穴から落っこちてきた音か。
バルならあの穴から落ちてもダメージは無いし、そんなバルにシーナは背負われる事でなんとかダメージを回避したのか。
「お……ととっ」
俺の目の前で止まるかと思っていたバルの走りはその速度を維持したまま俺の懐に飛び込むような形になった。
そんなバルに合わせて俺も足腰に力を入れて踏ん張り、ちょうど良い位置にあるバルの頭を優しく撫でていたりする。
どうもバルは4番目の街以来こういうことをする事に抵抗がなくなったのか、稀にではあるもののこうしたスキンシップが増えてきた。
まあ俺も嫌というわけじゃねえからバルの好きにさせているしこうして頭も撫でていたりするんだけどな。
「てめえらも穴から降りてきたのか」
「随分冷静に言ってくれるけど、私達はあんたが棺桶の穴に入ってった事でどうするか悩まされたんだからね?」
俺が軽い気持ちでバルとシーナに声をかけるとシーナから苦言が放たれた。
確かに俺がさっきとった行動は突拍子もなかった。
あんな行動取られたら残されたコイツらも呆気に取られちまうわな。
「それで今向こうは待機中、私も本体は向こうにいるわ。で、あんたから私達に何か言いたい事はある?」
「……スマン。棺桶の奥から声が聞こえたらなんかいてもたってもいられなくなってな」
「はぁ……だからっていきなり飛び込むことないでしょ……」
シーナが呆れたといった様子で頭を掻きつつ苦い顔をしていた。
「だから悪かったって。本当にスマン」
俺も自分がやったことを反省し、シーナに軽く頭を下げた。
「リュウさん……その……お体の方は平気でしょうか?」
真下からバルの声が聞こえてくる。
頭を下げたところで至近距離から見た今のバルは、俺を見上げる形なのでか若干上目遣いになっていた。
「ん? ああ、問題ねえさ。HPが減ってないことくらいバルにも見えてるだろ?」
「……本当ですか? 背中とか打って痛いとか、そういう事はありませんか?」
そう言ってバルは俺の体をさわさわとまさぐり始めた。
気遣ってくれるバルの気持ちは嬉しいがちょっとくすぐったいんで止めてくんねえかな。
いやまあこれはバルの気遣いなんだろうから止めろと直接言うことはしねえけどよ。
「えっと……リュウ? その子達はいったい……?」
「ああ、ワリい。紹介がまだだったな」
俺はそのタイミングでバルを優しく引き剥がし、そのままユウ達の方に向かせた。
「このちっこいのがバル。俺らのパーティーのメイン盾をしている頼れる仲間だ」
「え……えと……よろしく……お願いします……バル……です」
俺がバルを紹介するとバルは俺の服を掴みながら後ろに隠れ、か細い声でユウ達に名前を名乗った。
「そんでこっちにいるポニテがシーナ。コイツも盾だが回避盾として戦っている。コイツも俺らの頼れる仲間だ」
「シーナよ。よろしく」
俺が紹介するとシーナはポニテをファサッと掻き揚げてドヤ顔全開でユウ達の前に立った。
「……でだ。このイケメンヤロウがユウ。俺の超マブダチだ」
シーナの挙動に若干ウザッと思った俺だがそんなことはどうでもいい事なので軽く受け流し、次にユウ達の方を紹介することにした。
「超マブダチ……? まあいいや。初めまして。僕の名前はユウ。リュウの親友だよ」
ユウは俺の言葉に一瞬首を傾げたが、その後すぐにいつものイケメンスマイルでバルとシーナに向かって自己紹介をした。
「この人が……ユウさん……」
すると俺の服を掴むバルの手がギュッと強く握り締められ、どことなく表情もユウを睨みつけているような顔になった。
「…………?」
バルの反応にユウも気づいたようで、俺に目線を送って何かあったのか訊ねてくる。
そんなこと聞かれても俺にはどうする事もできねえよ。
俺らの問題が波及した結果の事ではあるけどよ。
ただこの話はあまり続けないほうがいいだろう。
「……とりあえず次はユウのパーティーメンバーの方を紹介してくれねえか? 俺からソイツらを紹介するのでも良いんだけどよ」
「う、うん。そうだね。わかったよ」
俺がユウの視線をスルーしたことでユウも俺が何を言いたいのか察してくれて、ユウは後ろにいたパーティーメンバーの方へ視線を向けた。
「まずこの眼鏡をかけた人が『炎熱の魔術師』のトト。僕達のパーティーの火力担当だよ」
「よろしゅう! 得意な攻撃魔法は炎系やで!」
最初に紹介されたトトは前にあった時と同じく気さくな態度でバルとシーナに挨拶をした。
コイツは嫌味がない上にどんどん発言するから結構好印象だ。
ただ今更ではあるが関西弁なのはどうなんだ。地元が関西だったりするのか?
いやでもコイツ標準語を話すマキ達とオフ会とやらをしていたらしいしな。大学の入学とかを機に関東へ引っ越してきたとかなんだろうか。
って今どうでもいい事か。気がむいたら聞いてみよう。
「次にこのお姉さんが『ソードマスター』の静。僕達の火力その2で物理アタッカーだよ」
「よろしく」
静はさっきまでの醜態を微塵も感じさせぬ冷気を纏って一言そう言った。
どことなく静の態度にバルとシーナがたじろいでいる。
まああの雰囲気は怖いからな。
「次にこの高身長な人が『守護騎士』のドラ。僕達のメイン盾だよ」
「よろしく。さっき紹介した静とは付き合っている仲だよ」
ドラは優しい表情で2人に挨拶をした。
そういやコイツって静とそういう仲だったっけか。
さっきの彼女の暴走を止めろよ彼氏。
「そしてこのおじさんが『神官』のみみさん。僕達のパーティーではヒーラーをしてくれているよ」
「よろしく~。おいちゃんのことはみみちゃんって気さくに読んでくれていいからね~」
みみは相変わらずのほほんとした空気を周囲に撒き散らして軽く挨拶した。
つかこの人はホントキャラがブレねえな。
最初に会った時からずっとこんな調子であることを考えると、元の世界でもこんなノリだったりするのか?
それは社会人としてどうなんだよオイ。流石にみみちゃんではないだろうけどよ。
「そして最後にこの子が『バード』のマキ。支援系の演奏魔法をメインに使う縁の下の力持ちだよ」
「よろしくね。え~と? バルちゃんに……シーナさん?」
ユウは最後にマキを紹介した。
そしてマキはどことなくバルとシーナを観察するような目で挨拶をしていた。
いや、観察するというよりもあれは警戒といったほうがいいのかもしれねえな。
……もしかしてコイツ、バルとシーナがユウに色目を使うかもと思ってんじゃねえだろうな?
確かにユウは世の女共が涎をたらして見つめるってレベルのイケメンではあるが、だからといって俺のパーティーメンバーをそんな無粋な目で見られんのも嫌なんだが。
そしてそんな視線に反応してかバルとシーナも少し表情を硬くしてやがるし。
「さて、それじゃあお互いに挨拶をし終えたところで、そろそろリュウ達がなんでここにいるのかを聞かせてくれないかな?」
そんな微妙な空気を察したのか、イケメンがイケメンらしくその空気を払拭すべく別の話題を俺らに振ってきた。
「ああ……つってもここでんな話するってのはどうなんだ? 長い話になるからそれは落ち着ける場所に行ってからの方がいいんだが」
「そ、そうだね……でも、これだけは聞いてもいいかな?」
「? なんだよ?」
「リュウは……僕達のことを……その……恨んでないかい?」
「……ああ、そのことか」
ユウは俺が恨んでやいないか、俺だけ街に置いてけぼりにしてユウ達を恨んではいないのかと俺に問いかけてきた。
そしてそんな問いかけへの俺の答えは決まっている。
「恨んでねえよ」
俺は一言だけ、それでいて何の気兼ねもなくそう言い切った。
「……そう、なら僕からもこれ以上は何も言わない。リュウもその方が良いんだよね?」
「よくわかってんじゃねえか」
俺はこれ以上ユウに俺の事で責任を感じていてほしくない。言外にそう言った俺の態度はユウもきちんと理解してくれたようで、俺らは互いを見てニッと笑いあう。
流石は俺の親友だぜ。
こうして会えばすぐ互いの気持ちを理解しあえる。
だから俺とユウの間にわだかまりなんて生じようはずもない。
バルは俺らの事を心配していたようだが、いらん世話だったな。
「さて、それじゃあおしゃべりはここまでにして気を引き締めていこうぜ」
俺はそれを理解し終えた後、ユウ達に向かってこの話はもう終わりだという合図を送った。
「そうだね、いくら迷宮の魔王を倒したからといってもここで気を緩めるのは良くないよね」
「あ? てめえらもうここの魔王をぶっ倒してたのかよ」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
「えっ」
「おいやめろ。その懐かしい反応やめろ。つか今のでその反応とか意味わかんねえよ」
なんでこのタイミングで「えっ」とか言われなきゃなんねえんだよ。
全然意味わかんねえよ。
「……いや、リュウ……君がそれを言うのはちょっと……」
ユウが恐る恐るといった様子で俺に話しかけてきた。
「あ? だからなんでだっっつの」
「……ああ、そっか。さっきの姿じゃなんだったのかわからないよね……」
ユウは頬をポリポリと掻き苦笑いを浮かべながらそんな事を言っていた。
「? なんだよ? もったいぶらずにさっさと言えよ」
「……さっきリュウは3つ首の大犬を倒したよね?」
「? おう」
「……あれが迷宮の魔王だよ」
「…………」
…………
……………………
………………………………
えっ




