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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
5番目の街
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横取り

「なんだ、あの棺桶を開けてみるのか」


「はかあらし?」


「でも中に何が入っているのかは気になりますね~」


 俺とバル、シーナの話を近くで聞いていたヒョウ、みぞれ、クリスも棺桶に興味を示した。


「一応念のために警戒はしておこう。いつでもモンスターと戦えるようにしておけ」


 俺は5人に注意を呼びかけて棺桶へと近づいていく。

 俺の手にも既に超聖剣(略)が握られている。


「うへぇ……ホントに開ける気なのね……」


「ここでスルーって選択肢もねえだろ。いかにもお宝があるかもしれない所を探さないというのは消極的すぎる。取れるモンは取っとこうぜ」


「はぁ……まあ確かに罠にさえ気をつければあの棺桶には何かアイテムとか入ってそうだから開けるべきかしらね」


「そういうこった。それじゃあバル、頼んだ」


「は、はい」


 そうしてバルは棺桶の前に立って重そうなフタをゆっくりと動かし始めた。


「ん……よいしょ……」


「手伝ったほうがいいか?」


「い、いえ……大丈夫です」


 バルだけでフタを開けられるかちょっと不安だったが、見た目より軽いのかバルでもさほど苦もなく、棺桶の中身が見えるくらいにフタをずらす事ができた。


「どうだ? 何か入ってたか?」


「……リュウさん」


「? おう」


「空っぽのようです……」


「…………」


 俺はバルの隣まで来て棺桶の中を覗いた。

 すると確かにバルの言うとおり、棺おけの中には何もなかった。


 ……というよりも底が抜けていて下までずっと続いているというような構造をしていた。


「なんだハズレか……」


「……そのようですね」


 何かが入っているかもしれないと思ってワクワクしてたのにこの結果とは。

 思わせぶりなモン置いとくんじゃねえよ。底が見えない棺桶ってどういうことだ。


「まあ変なトラップじゃなかっただけマシ……何の音だ」


「?」


 バルはキョトンとした顔で首をかしげているが、俺はそんなバルを見ながらも1人耳をすましていた。


 何か金属音と爆発音がする。


「……戦闘の音か?」


 音の性質的に多分これは誰かが戦闘している音なんだろうと推測できた。

 そしてそんな音が棺桶の奥から聞こえてくる。

 よく見れば棺桶の奥には一筋の光が見えている。


 ……つまりここを降りればその音の発生源にたどり着けるということか?


「だがこんなところで一体誰が……!!!!!」


 俺は棺桶の奥から1つの声を聞いた途端、その棺桶の穴に飛び込んだ。


「ちょ!?」


「え!?」


「な!」


「oh……」


「ええ~!?」


 俺が棺桶の中に入りきる直前に見えたパーティーメンバーの顔は全員驚愕といった顔つきだった。


 まあ確かに今の俺は冷静じゃなかったさ。

 なんの対策もなしに深い穴の中に飛び込むとか正気じゃねえよな。


 でも俺は棺桶の奥から聞こえてきた声に反応せずにはいられなかった。

 あの声を聞いた瞬間俺の体は勝手に動いて穴の中へと入ってしまっていた。


 あの声……どんなことがあっても忘れることは決して無い、俺にとってたった1人しかいない親友の声。



 ユウ。アイツの声が棺桶の奥から聞こえてきた。



 つまりユウは今、この穴の奥で何かと戦っている。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 俺は穴の中を勢いよく落っこちる。

 このままの方が早く着けるからな。


 俺の落ちる方向にある光がどんどん大きくなっていく。

 そしてその光の世界に辿りつくかといったところで俺は1つのスキルを発動する。



「『オーバーロード』!!!!!」



 そのスキルを発動した瞬間黄金色のオーラが迸り、それと同時に俺は集中した状態となって世界の動きが停滞したかのような錯覚を受け始めた。


 俺はそんな引き伸ばされた意識の中、光の先にあった大部屋の状況を認識した。


 俺が落っこちた先にあった部屋には1匹のモンスターと6人のプレイヤーがいた。




 6人のプレイヤーがいた。





 ユウがいた。






「ユウ……」


 俺はその6人を見た時、6人の中にいるユウを見た時、目の奥が熱くなって涙が出そうになった。


 やっとここまで来た。やっとコイツらに追いついた。



 やっと、ユウと対等になれた。



 俺はそんな事を思いながら口元を緩ませる。


 遂に俺はユウと並んだ。


 遂に俺はユウに負けない存在となれた。



 そしてユウは戦っていた。ユウはちゃんと生きていた。


 まあそれは当然か。ユウが最前線で戦い続けていた事も、ユウが生きていたことも、ユウだったら当然の事だ。


 俺は旅の途中何度もユウの動向を気にしていた。俺は旅の途中何度もユウの安否を気にしていた。


 だが、それはユウにとって心配することではなかったんだ。

 俺はただユウを信じていればよかったんだ。


 ユウだったらやってくれる。ユウだったら一度言ったことに責任を持つ。


 だから、本当だったら俺は素直に街の中で待っていればよかったのかもしれない。

 ユウだったら俺を、俺らを救ってくれると信じられるからだ。


 まあ、実際のところはこの世界の神様気取りな奴のせいで街にモンスターが出現し、俺が戦わなければどうなっていたかわからなかったが。


 けれど、そういった予想外のアクシデントさえなければ、ユウだったら必ずこの世界を救い、俺らを救ってくれていただろう。



 そんなユウが今戦っている。


 魔王を倒すため、この世界を救うため、元の世界に帰るため戦っている。


 このまま戦っていてもユウ達が勝つだろう。

 戦況を見なくてもそう信じられる。


 とは言え、だからといって俺が何もしないなんて事はしない。


 ユウに今の俺を見せ付けてやる。


 俺はユウ達と戦っているモンスターに視線を向ける。



 どうやら今ユウ達が戦っているのはでかい犬っころのようだ。

 ただその犬っころは頭が3つある。あれってケルベロスってやつか。まあいい。


 どんなモンスターだろうと今の俺には関係ない。


 俺がそのモンスターを倒すことに変わりは無い。



 と、そんな事を考えているうちにやっと俺はその部屋の地面に着地した。

 普段の俺ならこれで死んでいただろうが、今の俺はステータス的に万能だ。


 この程度の落下では俺の防御力を突破できない。俺のHPは1も減らない有様だった。


 そして俺は地面に着地した瞬間に地面を蹴った。

 俺の獲物たる犬っころをブチ転がすために。


「フッ!」


 電光石火の勢いで犬っころに近づく俺は走る間に弓を取り出して4本の矢を放った。

 スキル補正を受けたその矢は問題なくその犬っころを貫いていく。


 俺はその光景を見ながらアイテムボックスを瞬時に出現させ、弓から剣に装備を交換した。


「『ストライクバースト』」


 剣を手に持った俺は剣先を犬っころに向けて突きをするかのような動作で『ストライクバースト』を発動させる。


 剣先に発生した黒い大玉は俺の狙い通りに犬っころに直撃する。

 さっきの矢で動きを一瞬止めている犬っころにはこの攻撃を避ける余裕はなかっただろう。


 とはいっても矢が当たるのとほぼ同じタイミングで大玉がいったからな。足を止めていようがいまいが当たっていたか。


「な!?」


 どうやらここでやっとユウ達も俺の存在に気づいたようだな。

 まあAGIに大きく振った静だけは6人の中でも大分早く俺に反応していたようだが。


 とりあえず今は無視だ。

 ユウ達と犬っころの距離も大分離れているから俺の攻撃に巻き込む心配もないしな。


 だがどうもあの犬っころはタフのようで、さっきまでの攻撃を受けてもまだなんとかなっているようだ。

 中ボスか何かなんだろうか。


 けれど奴はもう瀕死だ。

 次の攻撃で終わらせられるだろう。


 俺は犬っころへ一気に詰め寄る。



 ……遠くからではよくわからなかったが、この犬っころはかなりでかいモンスターだった。

 4本足で立っているその姿は俺の身長を軽く超える。


 こんな犬っころと道端でばったり出くわしてたらさぞかしビビッてたことだろう。


 それにこのモンスターは見たことがない。

 耐久力も高いからおそらくこの迷宮の中ボス的な何かだろう。

 そんな話は聞いたことなかったが、今目の前にいる存在を否定しても仕方がないだろう。


 俺は再び剣先を犬っころに向ける。。



「『エクステンドスラッシュ』」



 そして俺は剣に宿るもう1つのスキル『エクステンドスラッシュ』を発動させる。


 全長100メートルはあろうかという刀身が出現するためにこの迷宮内では使えないかもしれないと思っていたが、これだけ広い部屋なら天井に引っかからないよう注意さえすれば使えないこともない。


 そんな刀身の剣先を犬っころに向けると怒涛の勢いで滅多刺しにした。


 『エクステンドスラッシュ』は3秒間、光の刀身を生み出すスキルだ。

 普通なら3秒間というとかなり短い時間なのだが、『オーバーロード』中の俺にとっては長すぎるくらいだ。


 俺は2秒間剣の刺突を浴びせるだけ浴びせた後、犬っころの首筋に刀身をあてがって頭3つをいっぺんにぶった切った。


『ギャオッ……! …………』


 俺の連続攻撃に対応し切れなかった犬っころは僅かな断末魔の声を頭から洩らしながら倒れていった。




 ……そういえば『オーバーフロー・トリプルプラス』を使ってなかったな。まあ使わずとも倒せちまったが。


 あれを使っていれば『ストライクバースト』は使わなくても良かったか?

 ただ今回はスキルを使う順番が違ったから『オーバーフロー・トリプルプラス』を使うのをすっかり忘れていた。


 俺が強敵のモンスターと戦う際は『オーバーフロー』を使ってから最後の十数秒で『オーバーロード』を発動させるというパターンが鉄板だった。

 けれど今回は地面に着地する時のダメージを軽減しようとして『オーバーロード』から先に使ってしまった。


 別に『オーバーロード』の後に『オーバーフロー・トリプルプラス』を使っても良かったというのに、ユウ達に追いついた感動と一気に畳み掛けないといけないという『オーバーロード』特有の焦りから『オーバーフロー・トリプルプラス』のことを失念してしまっていた。


 まあいい、結果的には倒せたんだ。


 『オーバーフロー・トリプルプラス』を使わなかったことで何か手痛い仕打ちを受けたわけでもない。

 勝てれば万事オールオッケーだ。


 だがいつもは温存しておくはずの切り札をこうも容易く使っちまった。

 ここで1日待って『オーバーロード』を使えるようにしてからここの魔王に挑んだほうが無難か?


 つか今はそんな事を考えている場合でもないか。

 今回の俺の目的は魔王を倒す事ではない。

 まあできることなら倒しておきたいところだけどよ。


 俺は犬っころから目を外して後ろを振り返る。


 そしてそのタイミングで『オーバーロード』の10秒が終了したのか、周囲に纏っていた黄金色のオーラも消えていった。


「…………え?」 


 俺と目が会ったユウからそんな声が漏れていた。


「よう」


 そんなユウに俺は軽く声をかけて右手を上げる。


「久しぶりだな、ユウ」


 俺はユウに向かってニヒルな笑みを意識して作り出す。



 そして遂に俺は親友との再開を果たした。

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