リベンジ
俺とシーナは2人でブラックバジリスクに向かって走る。
そして後方ではヒョウ、みぞれ、クリスが周囲を警戒しつつ待機している。
今回は盾役がシーナしかいないので十分な盾役はこなせない。故に俺は自衛しつつ目の前にいる魔王と闘わなくてはならない。
ヒョウ達が後方で待機している理由の一つがそれだ。
バルがいれば全員で特攻しても良かったんだけどな。だが今はバルがいないからできるだけ被害が出ないよう考慮する必要があった。
まあ他にも俺らが2人だけで特攻しているのに理由はあるんだけどな。
俺は走りながら、弓を構えて3本の矢を取り出した。
「『オーバーフロー・トリプルプラス』!!!」
そして俺はスキルを叫んだ。周囲を赤いオーラが迸る。
視界右上にカウンターが表示されたところで俺はすかさず3本の矢を放った。
その矢はブラックバジリスクの胴体に突き刺さり、同時に動きを阻害していた氷も若干壊れた。
だがその攻撃はあいつにとって大きなダメージだ。矢が突き刺さったところから黒い液体が流れていく。
「シーナ! 剣!」
「はい!」
「さんきゅ!」
そして俺は隣を並走しているシーナからあらかじめ持たせておいた金色の剣を受け取り弓をシーナに渡した。
その剣を俺は左手に装着した黒いグローブ越しにギュッと握った。
「おらくらえええええ!!! 『ストライクバースト』!!!!!」
俺は走りながら剣を上に振りかぶって、そのスキルを叫んでから思いっきり振り下ろした。
すると金色の剣から黒い光の大玉が出現し、振り下ろしたタイミングでブラックバジリスクに飛んでいった。
『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』
その黒い大玉はブラックバジリスクの頭部に当たり、その頭部を後方へと50メートル程動かして地面に顔を擦り付けていた。
これによってブラックバジリスクの動きを阻害していた氷は全て砕けちった。
だがそれでも動けない。今の攻撃の衝撃があまりにも大きすぎて脳震盪でも起こしたのだろう。
「これも役に立つな」
俺はそう呟いて左手をチラッと見た。
『必中のグローブ DEF+100 防具スキル(絶対命中、石化耐性) 耐久度19775』
『超聖剣スーパーエクスカリバートライゼットエクステンドスペシャル ATK+200 SPD+100 武器スキル(エクステンドスラッシュ、ストライクバースト) 耐久度18662』
俺はここに来るまでの2時間で、『オーバーロード』の十秒以外でどうにか攻撃の手数を増やせないかと模索した。
そして1つの可能性に行き着いた。
俺は必中攻撃のスキルさえあれば常時それなりに戦えるんじゃないか……と。
そして同時に今まで無視していた超聖剣(略)のスキルについてを改めて考え直した。
この剣には2つのスキルが備わっている。
しかし俺の普段のDEXではそのスキルをモンスターに当てることはできなかった。
そのため俺はこの武器を今まで『オーバーロード』使用時にしか使わないことにしていた。
だがそんな事情は今日解消されることとなった。
その理由は、シーナがレアに貰った必中のグローブにある。
このグローブは最初2つとも両手にはめていないと使えないと思っていたが、もしかしたら片手ずつでも使えるんじゃないかと思い、本体のシーナの手にはまっていたものを1つ借りて試してみた。
するとこのグローブのスキルは問題なく使えることが判明し、俺は石袋や必中の弓、『オーバーロード』無しでも攻撃をすることができるようになった。
まあどういうわけか耐久度は両手のグローブどちらも同じ数値になるようなので、片方ずつを2人で使うと耐久度がガンガン減っていくというデメリットはあるけどな。
更に加えて言うと、レアは左右の手で別々の装備をして戦う事ができていた。
だから右手と左手では武器スキルが別々に発動できる可能性に行き着いた。
俺はこの結果を加味して右手はいつも通りの弓懸、そして左手に必中のグローブをはめ、その手で超聖剣を使うという手段を考えた。
必中のグローブは武器ではなく防具。そして必中の効果はグローブをはめた手のみならず、全身に付加されていた。
そのことからグローブをはめながらの攻撃は全て必中攻撃になると考察し、剣での攻撃にも必中属性が加わっていることを知れたわけだ。
そしてその結果がこれだ。
剣に備わったスキルもここに来るまでに何度か試していたが、この性能はハンパナイな。
『ストライクバースト』。超聖剣に付加されている2つの内の1つのこのスキルは黒い大玉を作り出し、そして放つことが出来る攻撃スキル。
威力の程は魔王を吹っ飛ばしたことからもお察しの強力さだ。
それにクールタイムが弓と同じ10秒なのでかなり使えるスキルと言える。
ただしこのスキルにも欠点があり、一度使うたびに剣の耐久値を100減らしてしまうというマイナス効果があるようだ。
この剣の耐久値を直せる人間はいるかどうかわからないので使うタイミングには注意が必要だ。
つまり今回は限界まで使う。そうしないといけねえタイミングだからな。
「弓!」
「はい!」
今度は剣をシーナに渡し、弓を受け取る。
一見してシーナはあまり役に立っていないように思えるが、こうしたほうがアイテムボックスから取り出すよりも早く武器を交換できる。
そしてその素早い交換こそが制限時間のある俺の最大攻撃回数を限界まで引き出すことになる。
「ッウラァ!!!」
俺は弓を構えてクールタイム10秒がちょうど経過したのを右上の『オーバーフロー・トリプルプラス』の残り時間から確認して3本の矢を放つ。
矢は全てブラックバジリスクの頭部に命中し、その痛みでのた打ち回っている。
そんな様子の魔王へ向けて更にもう1本クールタイムを待たない矢を放つ。
これには『ロックオン』が働いていないが、標的がでかいため1本だけの射撃ならなんとか当てる事が可能だ。
「剣!」
「はい!」
そして再び剣を持ち、ちょうどクールタイム10秒が経過したスキル『ストライクバースト』を放つ。
「弓!」
「はい!」
「剣!」
「はい!」
「『ストライクバースト』オオ!!!」
そんな具合で俺とシーナはわんこそばでも食っているかのようなテンポの良い動きの攻撃を繰り返しながらブラックバジリスクに近づいていく。
奴に最大の攻撃を浴びせるために。
「よし! 剣!」
「はい!」
そうして俺はブラックバジリスクに19発の矢を当て、4発の黒い大玉をぶつけてやった。
また、そんな攻撃を繰り返している間に俺らは遂にブラックバジリスクのすぐ目の前まで接近していた。
『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!』
既にズタボロになったバジリスクは俺らをその長い胴体で押し潰そうとしてきた。
だがもう遅い。俺の攻撃はその攻撃を跳ね飛ばす。
「『ストライクバースト』オオオオオ!!!!!」
俺は近づく巨体に向けて5発目の『ストライクバースト』を放った。
その攻撃でブラックバジリスクの巨体がはじけ飛び……そしてそうしながらも俺らに頭部を近づけてきた。
よく見るとその頭部は、何かを吸い込むような動作をしていた。
あの動作は……石化効果のあるブレス攻撃だ。
つい2時間前にその範囲攻撃を貰い、パーティーメンバーの殆どが石化状態にさせられた凶悪極まりないあのブレス。
その攻撃が今再び俺らに襲いかかろうとしていた。
だがそれも対策済みだ。
「シーナ! くるぞ!!!」
「わかってるわよ!!!」
俺がシーナに声をかけるとシーナは俺の目の前にやって来た。
「ハアッ!!!!!」
そしてシーナが気合を入れると、その場にシーナが大量に出現した。
シーナは今、スキル『ファントム』を使って100人近くの分身体を作り出した。
これはシーナが制御しきれる数ではない。シーナが完璧に制御しきれるのは精々2、3人だ。
だがこの数は……肉壁としてはこの上なく優秀だ。
100人近くのシーナは俺とブラックバジリスクの間に自らの体で壁を作り出した。
そう。つまりブレス攻撃は全てシーナが受け持つ手筈になっていた。
この作戦を確実に成功させるために俺らは2人だけで仕掛けた。
ヒョウ達を加えてだと守りの面積が大きくなりシーナが守りきれない可能性が高くなる。だが俺一人だけならシーナはほぼ確実にブラックバジリスクの範囲ブレスから守ってくれるはずだ。
この作戦を実行して俺は心を痛める気は無い。それで心を痛めたらシーナの決意に泥を塗るからだ。
この作戦を立てて俺は悔やまない。それで悔やんだら攻撃の手が鈍ってしまうかもしれないからだ。
そして、その時は訪れる。
ブラックバジリスクがブレスを吐いた。
――この作戦を思いついた事で俺はシーナを犠牲にしたつもりは無い。
それでシーナが犠牲にならなくて済む方法も同時にあったからだ。
「『アクシデントフェイカー』!!!!!」
シーナがそのスキルを叫んだ。
これこそがシーナが『当たり屋』のクラスを取得した時に得た2つのスキルの内の1つ。『ファントム』と同時に手に入れたもう1つのスキル。
それが『アクシデントフェイカー』だ。
「そんな攻撃効かないわよ!!!!!」
シーナの中の一人がそう叫んだ。
確かにそのシーナの言うとおり、シーナの壁はなんともない。
まあこの結果に不思議はない。
なんてったって『アクシデントフェイカー』は完全防御スキルなんだからな。
『アクシデントフェイカー』。このスキルこそ『当たり屋』の真骨頂なのかもしれない。
このスキルは発動させると合計10秒間の無敵時間を得ることが出来る。この合計時間10秒というのは1日に使えるスキルの時間のことであり、1秒単位で使用することが出来て夜の0時に合計時間は回復する。
更にこのスキルは任意に発動させることができるため、色々な場面で役に立つ可能性が高い。またクールタイムもないため、使い手の自由に運用することができる。
まあ今回は一度のブレス攻撃に10秒近く使われたみたいだがな。
ちなみに補足だが、スキルは魔法とは違って口に出して言う必要はない。
俺らが叫んでいるのは気合を入れるという理由でしかない。
「リュウ!!!」
「おう!!!!!」
ブラックバジリスクのブレスを切り抜けられた俺は分身体を1人まで消したシーナの横を通り過ぎてそのまま直進する。
「これが最後の攻撃だ!!! 『エクステンドスラッシュ』!!!!!」
俺はブラックバジリスクに肉薄し、超聖剣に宿る2つ目のスキルを使用した。
すると俺の持つ金色の剣から眩い光が噴き出し、全長100メートルはあろうかというほどの光の刀身へと変わった。
「いっけえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」
そして俺はその大剣をブラックバジリスクの脳天へと振り下ろした。
『ギシャッ!!!!! シャ!!! ……シャ』
俺が振り下ろした刀身は、ブラックバジリスクの脳天を深々と切り裂き、その刀身はブラックバジリスクの頭部を真っ二つにした。
その結果、俺らはブラックバジリスクを斃すことに成功した。
スキル『エクステンドスラッシュ』。
クールタイムが10分のため『オーバーフロー』使用中には一度しか使えないが、その攻撃力は『ストライクバースト』をも軽く上回る。
まるで山のような大きさの蛇を一刀両断してのけるほどの威力だ。もはや語るまでもない。




