蘇生
「…………あ?」
目が覚めると俺は誰かに抱きしめられていた。
「リュウ! 大丈夫か!」
「! リュウさん! ど、どこか痛いところはありませんか!?」
「あ……クリス?」
俺の視界にはヒョウとクリスが映った。
そして俺は建物の壁に背中を預けて座りこんでいた。
「あ、ああ……大丈夫だ……」
「そ、そうですか~」
俺の言葉にクリスは安堵したのか、ふぅと息を吐いて手を離した。
……んで、さっきから俺に抱きついてるコイツはなんなんだ。
顔が見えないがほのかに香る香水で誰なのかピンときたけどよ。
「……おいシーナ。てめえなんで俺に抱きついてんだよ」
「…………」
シーナは何も言わず、ただ俺の首に両腕を巻きつけて抱きついていた。
……いや、何も言わなかったという表現は正しくないか。
「……ぅ……ぐす……ずず……」
「…………」
俺の耳元からシーナがすすり泣く音が聞こえていた。
シーナは俺を抱きしめながらずっと泣いていたんだ。
何も言わなかったんじゃない。何も言えなかったんだ。泣いているせいで。
「……シーナ。とりあえず俺は生きてる。だから泣き止めよ。な?」
多分こいつは俺が魔王にペシャンコになったのを見て泣いてたんだろう。今の状況を整理すると考えられるのはそれしかない。
だって俺の目の前には石化したはずの奴らが…………
「なあ、てめえら石化くらってなかったか?」
俺はクリスの奥にいる2人のパーティーメンバーに声をかけた。
そして2人のメンバー、ヒョウとみぞれは互いを見合ってどう説明したものかというような難しい顔をヒョウはし始めた。ちなみにみぞれはただ首を傾げるだけだったが。
「あ、ああ。確かにオレ達はあの時確かに石化をくらった。だがリュウが……その……死んだ時に突然オレ達を光が包み込んで石化が治ったんだ」
「は? 光? なんだそりゃ?」
「……わからない。ただその光のおかげでオレとみぞれは助かったんだ」
「……なるほど。そういうことか」
俺がさっき夢の中で会った女。あいつがやったんだな。
さっきアイツはパーティーの情報を改竄するとか言っていた。
それはつまりこいつらの石化状態を治してくれていたんだな。
これについては素直に感謝するしかねえな。
ただ、また会ったとしてもその言葉が出るかどうかはわかんねえけど。
「それであの蛇どもは?」
「……リュウを潰した後オレ達を無視して町から出て行った。多分自身の回復を優先したんだと思う」
「そうか……あとレア……あいつはどうしやがった?」
「あの子は……逃げた。突然オレ達の前に覆面を被ったプレイヤーが現れて、レアを担ぎながら何処かへと行ってしまった。本当は捕まえておくべきだったんだと思うが……すまない」
「いや……いい。またいずれアイツとも出くわすだろうさ」
なんてったってアイツは俺らの敵。『解放宗教』という線が強いんだからな。
今はとにかくメンバー全員の無事を喜ぼう。
そして俺はこの場にいる5人のメンバーに…………
「まあなんにせよこうして全員石化も治って皆無事なら今はそれでいいさ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「なあ、それで、バルはどこにいるんだ?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「なあ、バルは、なんでここにいないんだ?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「なあ、さっきからなんでてめえら暗い顔なんだよ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……おい、誰か答えろや。バルはどうしたんだよ」
俺はドスの聞いた声で5人のメンバーに問い詰めた。
すると俺らを取り巻く重い空気の中、ヒョウがゆっくりと口を開き始めた。
「……バルは……石化した」
「…………は?」
「……みぞれ」
「了解」
ヒョウがみぞれに声をかけると、後ろに隠していた何かを俺が見えるように移動した。
「…………」
みぞれの後ろに隠れていた物……人は…………バルの石像だった。
「……おい。なんでバルだけ石化してんだよ」
「…………」
「おい!!! なんとか言ったらどうなんだよ!!!!!」
「……わからない。オレ達にもどうしてなのか……」
「クソッ!!! なんでなんだよ!」
あの女! なんでバルだけ石化を解かなかったんだよ!!
アイツは俺の味方じゃねえのかよ!!!
……それともあれか。アイツはこの状況を見て俺らを笑ってやがるのか?
もしそうだとしたら……
「すまない……オレ達にも何がなんだかわからないんだ……」
「でも……バルちゃんは今もちゃんと生きてますよ~……。その証拠にバルちゃんのHPは減ってませんよ~……」
「!」
俺は咄嗟に左上のHPゲージを見た。
……たしかにバルのHPはまだ十分に残っている。これなら石化を解けさえすれば息を吹き返すはずだ。
「……すまん、取り乱した。要は俺らがあの蛇野郎をぶっ潰せばいいんだな」
「ああ、そうだ。そのはずだ」
「そうですよ~。それに……いざとなったら奥の手を使いましょう……」
「あ? 奥の手?」
クリスの言葉から今、物凄い重たい空気が伝わってきたような気がした。
そこにはいつもの陽気さはない。
「……さっきリュウが死んだ時、オレ達は光に包まれたといったが、その時起こったのは石化解除だけじゃなかったんだ」
「何?」
ヒョウからは意味深な言葉が発せられた。
石化解除以外にも何かあっただと?
「新クラス襲名」
「は?」
そしてみぞれがそんな事を言ってきた。
クラス襲名?
……もしかして。
「ワタシ達はあの光に包まれた時、なぜか新しいクラスの取得をしたんですよ~」
「……なるほどな」
つまりその光ってのは石化が解除されたからじゃなくてクラスを得たために発せられた光だったということか。
……いや、この場合はもしかして繋がっているのか?
クラスを取得したことでHPやMP、それに状態異常が全回復したということか?
「なあ、それはどうしてわかったんだ? クラスを取得する時になにかメッセージでも出てきたのか?」
「あ、ああ。光が出てきたときに『クラスが変更されました』というようなメッセージは現れたが」
「そうか。それで、今言っていた奥の手ってなんだ? クリス」
俺は話を戻そうとクリスに問いかけた。
「……バルちゃんを……一度……その……殺して蘇らせるという方法です」
「…………」
……今、コイツ、バルを殺すとか言ったか?
いや、待て。その後コイツ、蘇らせる……とか言ったか?
「……もっと詳しく話せ」
……まさか
「……俺を生き返らせたのは……クリスなのか?」
「その通りですよ~……」
「……そうだったのか」
そうか。
さっきまで俺はてっきりあの夢の中の女が俺を復活させたのかと思ったが、どうやらそれは少し違ったようだ。
あの女はクリスに新クラスを与えて、それに合わせて新スキルも与えたんだ。
そしてそのスキルで俺を生き返らせたと。つまりはそういうことか。
「さきほど手に入れた魔法スキル『リザレクション』はパーティーメンバーを対象に発動させることができる蘇生魔法です~……」
「……パーティーメンバー限定か」
もしかしたら過去に死んだ奴らも蘇らせられるかもと思ったが、そういうわけにもいかないようだ。
「他に何か制限はあるか?」
「そうですね~……対象者のHPが0になってから10分が魔法の効果があるタイムリミットというところとクールタイムが1時間なところですね~……」
「そうか」
つまり俺が死んでからまだ精々10分程度しか経っていないということか。
それと何気にクールタイムが長い。これも1回の戦闘で使えるのは1度のみの奥の手ということか。
まあそれでもこの世界では死者蘇生という奇跡の見技と言えるのだが。
…………。
「なあ、それでシーナはいつまで俺に抱きついてんだよ。いい加減泣き止んだだろ」
俺はさっきからずっと抱きついて何も言わないシーナに話をふった。
「俺はこうして生きてる。バルもまだ死んだわけじゃない。だから泣き止めよ、シーナ」
「…………」
「……シーナ?」
シーナの様子がおかしい?
さっきまでシーナはただ泣いていただけだったが、今は泣き止んだようだがその代わりに体が震えだしていた。
「おい、シーナ、どうしたんだ?」
「…………」
シーナは何も話さない。
俺はシーナからヒョウ達に目を向けると、なにやら気まずいといった様子で顔を俯けさせていた。
そしてその中でヒョウは俺に向かって声を出した。
「……リュウ。石化が解除されたのはオレとみぞれだけだ」
「…………は?」
石化が解除されたのはヒョウとみぞれだけ?
どういうことだ?
バルが石化してしまったのはわかった。
クリスはそもそも石化状態にはならなかった。
……じゃあ残りの1人、シーナは?
「おいおい。石化が解除されたのはてめえらだけじゃねーだろ? シーナがここにいるじゃねーか」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……おい、なんで黙るんだよ」
なんでそこで何も言わないんだよ。
それじゃあまるで、シーナも……
「リュウ、今お前の目の前にいるシーナは……本体ではない」
「……は?」
「そのシーナは『ファントム』で作られた分身体だ」
「…………」
おい、それじゃあシーナの本体は……
俺はバルの石像の更に奥を見る。、
そこには、シーナの石像があった。




