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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
4番目の街
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謎の少女

 俺らは北東へと進み続けた。

 その際出くわしたモンスターは4番目の街までの道のりで遭遇したモンスターよりも若干大きめのサイズで手ごわくなっていたが、とりあえずは問題なく対処することができた。

 いままでの旅で俺らの連携は洗練され、そしてバルの動きも全盛期の8割といったところまで持ち直したからこそ、この辺のモンスターでも余裕をもって対処ができた。


 そして俺らが北東の町まで急いだ結果、なんとか太陽が完全に沈む直前には町に辿り着くことができた。




 だがそこで待ち受けていたものはまたしてもあの石像だった。




「おい。どういうことだよこれ」


「どうって……見たまんまでしょ……」


「……つまりここもオレ達が来る前に魔王が襲来したということか……」


 俺らが北東の町で見た光景、それは4番目の街同様、物言わぬ石像の数々。

 そしてもはや鳥や動物の鳴き声しか聞こえなくなった不気味なほど静かな破壊された町の有様だった。


「4番目の街に魔王がいなかった時点で他の町を襲っているという可能性を考えておくべきだったか……」


「う~ん……ひとまず『石化』が治せないか試してみますね~」


「そうだな、クリス、頼んだぜ」


「はいはい~」


 クリスがそう言うと、一番近くにあった元は農夫らしき人物であったろう石像へと駆け寄り、魔法をかけ始めた。

 石像をクリスが放った白い光が包み込む。しかしその光景も10秒程度が経過したところで終了し、クリスは俺らに向かって首を振った。


「やっぱダメか……」


「一応この町も生き残りがいないか探してみましょ」


「そうだな。オレ達はオレ達にできることをしよう」


 そうして俺らは既に暗くなった町の中を声を出して走り回った。

 そんな時間が2時間は続き、もはや明かり無しでは捜索は厳しいだろうと結論付けた俺らは一旦この町の宿へと行くことにした。


 だが俺らがそうして宿への道を歩いていた時、遠くから何か爬虫類の泣き声が聞こえた気がした。


「……ん?」


「どうかしたか? リュウ」


「いや、なんか今変な声聞こえなかったか?」


「変な声?」


「ワタシは聞きませんでしたね~」


「私も聞こえなかったわ。バルは?」


「わ、わしも……聞こえなかったです……ぞい……」


「……聞き間違いだったか?」


 確かに今キシャーというよう蛇か何かが鳴くような声が聞こえた気がしたが。


「みぞれは何か聞こえなかったか?」


「あっちから聞こえた」


「……聞こえたならそう主張してくれよ」


「……そう」


 ……コイツは重要なことでも本当に聞かれないと話さないから困るな。

 とりあえずこれで6人のうち2人が聞いたという事になるのか。


「念のために行くぞ。もしかしたら魔王かもしれねーしな」


 俺がそういうとメンバーは全員から了解と返事が返ってきたので俺らは早速その鳴き声が聞こえた方角へと走っていった。


 そしてその方角の先で見つけたのは2匹の蛇と1人の少女だった。


「! おいあれ襲われてねーか!?」


 そこでは2匹の黒い蛇らしきモンスターが今まさに少女に襲いかかろうとしている場面だった。

 その蛇は俺らにとって始めてみるモンスターで通常の蛇とは桁が違う大きさだった。成人男性くらい軽く一飲みにできるくらい胴体が太かった。

 そして頭部には冠上のトサカのようなものが生えており、どこかエリマキトカゲを思い起こす形をしていた。


 そんな大蛇が2匹、少女の方へと距離をつめている。もう10秒もしない内に少女は大蛇に一飲みにされてしまうだろう。


「くっ!」

 

 俺は大蛇を視界に納めた瞬間には弓を構えていた。

 そして俺が構えた弓から鋼の矢が飛び、片方の大蛇の頭部を打ち抜いた。


 ちなみに鋼の矢は3番目の街の武器屋で買ったものだ。

 ATK+10で鉄の矢よりも強力だ。


 コストパフォーマンスは悪いんだが今回は初見の敵だ。惜しまず使おう。


「シーナ! みぞれ!」


「わかってるわよ!」


「『グラビティフィールド』」


 シーナは少女の所へ駆け出して、みぞれは大蛇に鈍足範囲魔法をかけた。

 みぞれが拘束魔法を使わなかったのはまだその魔法の射程圏内に入っていなかったからだろう。俺らと大蛇の間にはまだかなりの距離がある。


 だがこの鈍足効果が幸いしたのだろう。動きの遅くなった大蛇の牙は少女へと届くギリギリというタイミングでシーナがその場に到着した。

 そしてシーナは少女を抱えて素早く大蛇から離脱する。


「『アイススピア』!」


 そのタイミングで狙いを定めていたヒョウの手から青白い光が漏れ出して氷の槍が形成され、即座に射出された。

 かなりの距離があったがヒョウの放った魔法は難なく大蛇の胴体に突き刺さった。


『キシャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』


 蛇はその場でのた打ち回り、鳴き声を上げ続ける。

 しかし氷の槍でその場に磔にされた大蛇はそこから移動する事もできない。


 そんな大蛇に向かってクールタイムの終了した俺の弓が矢を放った。

 矢は大蛇の頭部を打ち抜いて、そしてその後しばらく動き続けた胴体もやがて止まり、黒い霧と化して消えてなくなった。


「ふぅ……なんとかセーフだったみてーだな」


「1発で魔法が当たってよかった……みぞれも魔法、良かったぞ」


「これくらいできて当然、でももっと褒めて」


「ああはいはい……」


 みぞれの言葉に俺らの空気が緩んだ。

 まあ戦闘は終了してるからいいんだけどよ。


「リュウも私の事褒めていいよ」


「俺の分も兄貴から褒めてもらえ。つか今は他にやる事があんだろ」


「?」


「いやそこで首傾げんなよ。シーナが助けた子供のことだよ」


「そう」


「…………」


 ……コイツ本当に自分のペースを崩さねえな。






 みぞれによる不思議空間から逃れた俺はシーナの方へと駆け寄った。


「ようシーナ、そっちの方は大丈夫だったか」


「ええ、私がついてるんだから問題なんてあるわけないでしょ」


「そうかよ。んで? 助けた奴は?」


 俺はシーナの後ろにいた少女の方に目をやった。


 その少女はバルと同じくらいの身長で目の色も青色、服装は白いワンピース、そして長い金色の髪をツインテールにした子だった。


「あー危ないところを助けていただきましてありがとうございますー」


 その少女は俺らに向かってそういいながら頭を下げた。


 台詞が若干間延びしてて引きしまらねえが、怖い目に合ったってのにちゃんとお礼は言えるみたいだな。


「おう、てめえはどっか怪我とかしてねーか?」


「あーはいーボクは平気ですー」


「そうか」


 ボクという単語に少し引っかかったが、子供ながらわずかに膨らんだ胸と長い髪、そして白いワンピースがこいつを女だと断言させている。

 いやまあもしかしたら物凄く気合の入った女装なのかもだが。


「んでてめえはこの町の人間か?」


「? いえー違いますよー」


「そうなのか?」


「はいー」


 この町の人間じゃない?

 じゃあコイツはどこの人間だ?


「ねえリュウ、もしかしてこの子、4番目の街の……」


「あー、なるほど……」


 コイツはあれか4番目の街からここへ逃げてきた奴らか。

 それなら納得できる。


「あー何か勘違いしてますねー。リュウさんにシーナさんでしたか? ボクはあなたたちと同じプレイヤーですよー?」


「は!? プレイヤー!? あんたどうみてもプレイヤーに見えないんですけど?」


「いえいえーマジですよマジー」


「……マジかよ」


「はいー」


 どう見てもそんな風には見えねえよ。

 プレイヤーはバルやクリスといった例外はいるが、基本的にプレイヤーは黒目黒髪だ。

 それでいて服装も普通は鎧やローブといった戦う人間といった装備をしている。


 だがコイツの場合はそのそちらにも該当しない。

 目の色や髪の色は外国人なんだろうと理解はできるが、小さな子供が着用するようなワンピースを着ているというのはどういうことだ。


 ……もしかしたら今日1日は戦うのは休みにしてプライベートな時間をすごしていたとかか?


 だが今? ここで休暇? こんな誰も彼もが石化しているようなこんなところで?


「あーその目つきはもしかしてボクのこと疑ってますねー?」


「あ、ああ。どうみてもここまで来れるような装備じゃねーなって思ってな」


「あーなるほどー。確かに見ただけではわかりませんよねー」


 目の前にいる少女はそう言うと俺の右手を両手で掴んできた。


「それじゃあ調べてもらっても構いませんよー」


 そして少女は俺の右手を引き寄せて…………自身の胸元へと押し当てた。


「……は?」


 俺は一瞬何をされたのかわからなかった。

 そして反射的に指を動かしてしまった。



 少女のささやかにある胸の柔らかな感触が手の平と指先に伝わってきた。



「ちょ!?!?!?」


「っ!」


 隣にいたシーナの声に反応し、俺は咄嗟に右手を引いた。


「わかりましたかー?」


「わ、わかりましたって何がわかったっていうよ! てゆーかあんたいきなり何してんのよ!?」


「何ってボクが身に着けている装備のことですよー。それ以外にないじゃないですかー」


「は? 装備?」


 俺は少女の言葉に疑問形で答えた。



 ……あっそういうことか。

 こいつ今自分のワンピースが装備だと言いたかったのか。

 それでその性能を調べさせるためにワンピースを触らせたと、つまりはそういうわけか。


 なんだビックリした。いきなりの事だったから驚いちまったよ。

 あとついでにこいつは女で決まりだな。男というにはあまりにも胸が柔らかすぎる。


「いや、スマン。咄嗟のことで調べられなかった」


「んもーしょうがないですねー。それじゃあもう一回――」


「だああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!! 私がやるからリュウは離れてなさい!!!!!」


「お、おう」


 突然声を張り上げたシーナに気圧され、俺はすごすごと引き下がった。

 んでさっきからなんなんだよシーナは。


「……え……ちょ! 何これ!?」


 そして少女の胸元に手を当てたシーナから驚愕の声が上がってきた。


 なんだ?

 つかさっきからシーナ驚いてばっかいるな。


「リアクション芸人目指したいならもうちょっと捻ったほうがいいぞシーナ」


「くだらない事言ってんじゃないわよ! それよりこれ! この服! とんでもない代物よ!」


「あ? 服?」


「この服、見た目はどう見ても防御力なんてないのに実際はバルの装備よりも堅い防御力だわ!」


「……は?」


 バルの装備より堅い?

 つまりそれって3番目の街の最高装備、しかもタンク役の重装備の防御を凌ぐってことか?


 あんな薄い服が? ありえないだろ。


「あー今ありえないって顔しませんでしたかー?」


「……まーな。現実的に考えてありえない防御力だと思ってな」


「現実的にですかー。確かに現実だったらありえなかったかもしれませんねー。でもお忘れですかー? ボク達がいるこの世界をー?」


「あ……」


 そうだ。この世界は俺らが元いた世界とは別のルールが働く世界だ。


 見た目からなんて性能はわからない。

 頑丈そうな銀色の兜の性能が顔を隠す程度の仮面に圧倒的に劣るように。


「おわかりいただけましたかー?」


「あ、ああ。にしてもよくそんな装備を見つけたな。4番目の街で探せば見つかるのか?」


 もしあるならバルやシーナに着せるのもいいな。

 盾役だったら防御力が高いに越したことはない。


「いえいえー。4番目の街ならもしかしたら似たようなものが見つかるかもですが、これは一点もののオーダーメイドですよー」


「オーダーメイド? そんなのがあるのか?」


「あれー? さっきの反応といいやっぱり知らないんですかー?」


「? 何をだよ」


「4番目の街、フォーテストの別名ですよー」


「別名?」


 なんだ? いきなり話が飛んだぞ?

 いや、こいつにとってはオーダメイドと4番目の街は繋がった話ということか?


「知らないのでしたら教えて差し上げましょー」


 そして少女はそこで一旦ためを作って俺らに言い放った。


「4番目の街フォーテスト。別名『職人街』ですー」

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