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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
4番目の街
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ブラコン?

 夜の見張りは2人1組で行われている。

 基本的にはバルとシーナ、ヒョウとみぞれが組んでいることが多いのだが、完全に固定されているわけでもない。


 俺の場合、夜は満遍なくパーティーメンバーと組んで見張りについていたりする。


 その日の夜はみぞれと組んだ。


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


 ……わかっていたことだが普段からみぞれは無口だ。

 それに俺はどうもこいつだけはよくわからない。


 ヒョウならキザったい雰囲気をそこはかとなく出してクールを気取っているが、実のところはムッツリで妹以外の女には耐性がない奴だと思っている。

 クリスならおっとりして緩い印象を持っているが、自分なりに仲間を気遣う優しい心根のある奴だと思っている。


 だがみぞれはわからない。

 何がわからないってコイツは普段何を考えているのかが全然わからない。


 それに戦闘面では役に立つが生活面では謎が多い。

 メシはどんなものでも全部一纏めにしてから食うし、歩いている最中に色々なものを拾っていたりだ。

 3日前は頭の上に眼鏡を乗せて『めがねめがね~』と言いながらずっとフラフラしたりしていた。だがそれでいてそんな状態のまま戦闘はキッチリこなすあたり、俺の中でみぞれは伊達眼鏡疑惑が浮上している。


 まあそれでも日常生活に支障をきたすような事をしていないだけマシか。




 だが夜見張りをするという2人っきりな状況でいきなり目の前でブリッジとかされても困る。


「……なあ、なんでてめえブリッジしてんの?」


 ブリッジしながら俺を見られても困る。


 眼鏡が落ちそうになってるぞ。

 俺が逆方向に移動したらスカートの中身見えちまうぞ。


「場を和ませようかと」


「いや和まねえよ」


「そう」


 俺が和まないと一蹴すると、みぞれはブリッジを止めて焚き火の傍で体育座りになった。 


 ……どうやらみぞれは場を和ませようとしていたらしい。

 なんで和ませるのにブリッジなんだよと言いたいところだが、コイツなりの気遣いなんだろうから言わないでおく。


 だが俺が何も言わずにいると、みぞれは再び立ち上がった。


「出席番号18番、白川みぞれ、三点倒立します」


「いやしなくていいから。マジしなくていいからちょっとこっちきて大人しく座ってろ」


「……そう」


 スカートで三点倒立をしかけたみぞれを俺は制止した。

 そしてみぞれは再び体育座りになった。



 ……なんだかよくわからない奴だな。

 この無言の空気が悪いのか?


 だったら俺の方から話題を振ってこのよくわからない空気を払拭しよう。


「……なあ、てめえ時々石とか虫とか拾ってアイテムボックスに入れてるが、あれ何に使う気だ?」


「使う?」


「いやそこで首を傾げられてもな……拾うってことは何か使う目的があるってことだろ?」


「ないよ」


「……ないのか」


「そう」


「…………」


「…………」


「じゃあ何で拾ってんだよ」


「意味あるの?」


「いや俺に聞くなよ」


「……そう」


「…………」


 なんでコイツ少し落ち込んでんだよ。

 俺か? 俺が悪かったのか?


 ダメだ、全然わからん。


「あんま変なもの入れてるとアイテムボックスパンクしねえか? てめえSTRに才能値振ってねえんだろ?」


「『アイテムボックス拡張』取ってあるから平気」


「そうか、てめえも取ってたんだな」


「うん」


 スキル『アイテムボックス拡張』はその名の通りアイテムボックスを拡張するスキルだ。

 俺は必要ないからスルーしたが、シーナは自分用の色々な物をしまう為、3番目の街を出発する2日前に取っていたりする。

 ちなみにバルは未だ取っていない。バルはその代わりに毒や麻痺といった状態異常系の常時耐性がつくスキルを1つでも多く取得しようとしている。


 スキルスロットを1つ潰して生活の利便性を上げるか戦闘面で有用なスキルを習得するかって違いだな。

 まあだからといってバルがストイックなわけでもシーナが戦闘を甘く見ているわけでもないんだが。


「兄さんとクリスも持ってる」


「そうなのか。まあ確かにSTRがないてめえらにとっては今まで旅をするのに必須だったかもな」


「うん」


 2番目の街から3番目の街まではユウ達と一緒だったという話だが、だからといって食料や寝床を分けてもらっていたわけではないだろう。

 ちゃんと自分達は自分達で必要なものは用意したはずだ。だとしたら3人ともアイテムボックスを拡張していてもおかしくない。


「……そういえば、てめえらはユウ達と一緒に旅した事があるんだよな」


「うん」


「てめえから見てあいつらはどうだった?」


「?」


「思ったことならなんでもいい。あいつらは強かったとか頼りになったとか誰々がかっこよかったとか、何かないか?」


「……私はあんまり喋らなかったから」


「……そうか」


 ……どうもあんまり話が弾まないな。

 共通の知人を話題にして話を膨らませられないかと思ったが、どうも反応が薄い。


 なら今度は他人じゃなく兄妹の話でも振ってみるか。


「じゃあ話を変えるが、てめえはヒョウの妹でいいんだよな?」


「うん」


「てめえは兄の事は好きか」


「世界で一番愛してる」


「そ、そうか」


 ちょっと予想外の答えが返ってきてビビった。


 こういう年頃の妹ってのは大概父や兄を毛嫌いするものと思ってたんだが。いや陽菜は俺の事嫌ってるとかそういうことはないが、ないと思うが、思いたいが。


 だがコイツは兄を愛していると堂々と言い放ちやがった。しかも世界一ときたか。

 案外コイツ、ブラコンだったんだな。ちょっと意外だ。


「でも兄さんは私の事嫌ってる」


「……そうなのか?」


 それもまた意外だな。

 俺から見たら特に問題のない兄妹に見えてたんだが。


「兄さんは私がキスすると嫌がる」


「…………」


「兄さんは私がベッドに潜り込むと嫌がる」


「…………」


「兄さんは私がベッドの中で兄さんの――」


「ストップ」


 何か聞いてはいけないものを聞いてしまいそうな気がしたから俺はみぞれとの話をそこで打ち切った。


 結局みぞれが何を考えているのかよくわからなかった。






 朝、俺はヒョウとみぞれをどう見ていいのかわからなくなっていた。


「おはよう。今日も良い天気だな、リュウ」


「……おはようさん、ヒョウ」


「? どうした。体調でも悪いのか?」


「いや、そういうわけじゃねえよ」


「? そうか」


 だめだ、ヒョウを直視できん。


 別にもしたとえヒョウとみぞれがそういうアレな関係にいたった事があったとしても俺らは仲間だ。それは揺るがない。

 だがしかし、同じ妹持ちとしてはもにょる感情を抑えきれない。


 ただヒョウの方はみぞれの思いに答える気はないんだろう。

 みぞれの話ではヒョウは拒否ってるみたいだしな。

 そう考えるとヒョウとは今まで通り接する事もできるんじゃないか?


「……なんだ? さっきからお前、挙動不審だぞ」


「! い、いや、そんなこたあねえよ?」


「そうか?」


「ああそうだ」


「……まだ起きたばかりだからな。リュウも寝ぼけているんだろう?」


「そ、そうかもしれねえな。じゃあちょっとそっちの川で顔洗ってくるぜ」


「モンスターには気をつけろよ」


「わかってるっつの」


 そうして俺はヒョウから離れた。

 ……まあこれは本人達の問題か。俺の出る幕じゃねえ。


 兄妹愛大いに結構じゃねえか。それがたとえ行き過ぎてたとしてもな。

 ただ実の兄弟でもしそんな事になったとしたら……


 ……いや、まてよ。


 もしかして……みぞれはヒョウの義妹なんじゃねえか?

 血の繋がった兄妹だという話は聞いていないし聞く意味も無かったから勝手に自己解釈していたが、みぞれがヒョウの事をそういう目で見ているとするなら血の繋がらない妹であるという説も十分ありうる。


 一度確認してみる価値はあるな。

 ただタイミングを計る必要がある。

 こういうことはちょっとデリケートな話だ。養子とかヒョウ達にとっては話したくない事かもしれねえし。

 だから腰をすえてちゃんと話ができるタイミングが良い。話してくれるかどうかは置いておくとして。


「ぐーてんもるげん」


「あ? ああ、おはようさん」


 みぞれが俺に朝の挨拶をしてきたから俺も挨拶をし返した。


「…………」


「…………」


 ……やっぱりコイツが何考えてるか俺には読めないな。


 そうして俺は旅を再開する前に、ヒョウに今日の見張りを一緒にやろうと誘ったのだった。






「ひゃ!?」


 戦闘中、特大サイズの蜂がバルに襲い掛かった。

 シーナが遠くで他の蜂の集団を持ち前のスピードで翻弄して足止めしていたが、その蜂の中の1匹が突如バルに向かって飛んできてしまった。


「『ブリザード』」


 シーナが纏めていた蜂の集団はヒョウの魔法が唱えられた瞬間、吹雪に見舞われて凍死していった。勿論シーナは魔法が飛んでくる前に一瞬で遠くに離脱していたが。

 そうして1匹以外モンスターを全滅させた俺らだが、バルと蜂を見て唖然としてしまった。


 バルは蜂から全力で逃げていたからだ。


「ちょ……」


 バルは走りながら盾を振り回して迫り来る蜂を振り払おうとしている。

 こちらに逃げてきていないだけマシではあるのだが、今のバルはもう盾役としては不合格と言っていい。

 もはやバルが走っているのはモンスターを食い止めるというためではなく、ただただモンスターが怖いから逃げているだけだった。


「……はぁ」


 俺はバルに当たらないであろうポジションに移動して、クールタイムの終了した弓でバルを襲っている蜂を射る。

 そうして蜂は問題なく倒すことができたものの、バルはその場にへなへなと座り込んでしまった。


「バル、大丈夫だったか?」


「うぅ……ひっぐ……ぐす……」


 近づいてみるとバルは泣いていた。

 さっきの蜂が相当怖かったんだろう。


 だが……


「あの蜂、3番目の街に行く旅の途中の森でもしょっちゅう見かけたよな? あの時はてめえなんともなかったじゃねえか。一体どうしたんだよ?」


「……怖く……なったんです。私……うぅ……」


「…………」


「すみません……お役に……立てなくて……本当に……すみません……ひっぐ……」


 そうしてしばらくバルは泣き続け、俺らに謝罪の言葉を吐き続けた。


 ……これは相当マズイのかもしれねえな。

 一旦3番目の街に引き返すべきか?


 いや、それはやめておこう。

 今バルは自己嫌悪で一杯一杯になっている。こんな状態で街に引き返したらバルが今以上の責任を感じて塞ぎ込んじまうかもしれねえ。


 だがこのままだと俺らが危ない事も事実だ。

 明日もこの調子なら少し話し合うことにしよう。


 とりあえず今は……


「シーナ、モンスターの索敵範囲を更に広げてくれ。ヒョウはシーナの合図でいつでも範囲魔法が打てるように準備していてくれ。それとみぞれ、モンスターが俺らの方に近づいてきたら出し惜しみせずに拘束魔法を使いまくれ」


 正直あまりこの方法はやりたくなかった。


 索敵範囲を広げる指示は、昨日の時点で一度シーナに頼んでいたことだが、それを更に広げてモンスターを近づけさせないようにする。

 このせいでシーナへの負担が跳ね上がるが仕方ない。とりあえず今日一杯はなんとか頑張ってもらおう。


 それに遠距離の敵を纏めて始末できるヒョウの範囲魔法も多用しすぎるのは問題だ。

 いくらMP特化のみぞれがMPを供給しているからといってもそれには限度がある。

 ただでさえMP消費の激しく、そして距離があればあるほど燃費が悪くなる範囲魔法攻撃を超遠距離から放つことだけにMPを消費するわけにはいかないし、万が一の非常事態にも対応できるようにMPは常に余裕をもたせないといけない。

 だからヒョウの魔法に頼りすぎるのも自分達の首を絞めることになりかねないが、そこはMP回復薬を多用することでカバーできる。出費は高くつくけどな。

 それにそうして魔法攻撃範囲を延ばすにしてもそれには限界がある。ヒョウが持つ遠距離魔法攻撃『ブリザード』もどれだけMPをつぎ込もうが効果範囲は精々200メートルまでだ。結構遠くまで飛ばせるなと思えるかもしれない距離だが、素早いモンスター相手にその距離は完全に安全なものと言い切ることができない。


「はぁ……了解よ」


「……了解」


 俺の指示にシーナ、ヒョウは渋々といった様子で答えた。


「了解」


 みぞれはいつも通りだな。今はむしろそれがありがたい。

 ただ単に何も考えてねえだけかもしれねえけどな。


 と、そんな事を思っていたのを悟られたのか、みぞれはさらに言葉を続けた。


「私たちが頑張れば大丈夫」


「みぞれ……ああ、そうだな。なんだよ、てめえも良い事言うじゃねえか」


 ただの超絶ブラコン女だと思っていたが、案外他のやつらの事も考えてたんだな。


「私は良い事しか言わない」


「……いや、てめえが良い事言ったの今が初耳なんだが」


「……そう」


 俺のツッコミに何故かみぞれは下を向いてしまった。


 ……まあ仲間を気遣っていても相変わらず何考えてるのか良くわかんねえ奴という評価は変わらねえな。


「あらあら~……う~ん」


 クリスはバルを見ながらなにやら考え込んでいる様子だった。

 アイツもこの状況はマズイと思っているんだろう。


 そして10分後、未だに落ち込んでいるバルを後ろに引き連れて俺らは歩くのを再開した。

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