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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
3番目の街
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3番目の魔王

 俺らは迫り来るコウモリとプレイヤーグールを蹴散らしながら魔王の元へと走り続ける。


 魔王との距離はあと精々100メートル。

 ここまで来るのにグールを抑えるため相当数の人材をその場に置いてきた。

 その結果ここまで辿り着いた魔王討伐隊は20人程度。


 だがここまで来たら後は俺1人でも十分だ。


 まずは挨拶代わりだ。

 俺は空にいる魔王に木の矢を放った。


『おや?』


 空から男の声が降ってきた。

 そしてその声を上げた空に佇む魔王は俺らの方を向いた。


『どこからかこの私に弓を引く者がいますねえ』


 そう言葉を発する魔王の手には俺が今放った矢が握られていた。

 やっぱ通常の攻撃じゃダメそうか。


 だが今のでアイツは俺らを意識した。


『フッハッハッハッハッ! 人間ごときが私に傷をつけるなど100年早い。私こそがヴァンパイアの異端にして3番目の魔王と知っての狼藉なのかね?』


 空に浮いた魔王はそう言って俺らを見下してきた。


 ここまで近づくと魔王の姿もある程度見えてくるかと思ったが、頭のてっぺんから足のつま先まで全身が黒なのでその姿は捉え切れず、まるでシルエットを見ているかのような錯覚を覚える。


『だがここまで来た君達に敬意を示し、ここからは私が直々に相手してあげましょう』


 そう言って3番目の魔王は空を飛びながら俺らの方に近づいてきた。


 案外簡単に来てくれて嬉しいぜ。


「周囲の敵はオレ達に任せろ。リュウは魔王だけを見るんだ」


「おう」


 ヒョウが俺らに近づいてくるプレイヤーグールに向けて魔法を放ちつつ、俺に魔王討伐の責務を託してきた。


 本当はコイツも魔王を直々に倒したいところなんだろうけどな。

 まあ適材適所って奴だ。


 ヒョウはわらわらと湧き続ける敵を殲滅することに適しているし、俺は魔王を討伐することに適している。


「『オーバーフロー・ダブルプラス』」


 俺はまず攻撃力をアップするスキルを発動した。

 これは『オーバーフロー・プラス』に更にスキルポイントを注ぎ込んだことにより進化したスキルだ。


 『オーバーフロー・プラス』の時は攻撃力5倍だったが、『オーバーフロー・ダブルプラス』なら今から1分間、俺の攻撃力は6倍だ。



 そしててめえの命もあと1分だ。魔王。



「とりあえず一発くらいやがれ!!!」


 俺は鉄の矢を取り出して黒いヴァンパイア、命名ブラックヴァンパイアに放つ。

 それを奴は先ほどと同じように掴もうとした。


 だが今回のはさっきの攻撃とわけが違う。

 さっきは様子見で木製の矢だったが、今回はそれよりも強力な鉄製の矢。しかもそれに攻撃力6倍の力が乗っている。


『ッッッ!!!』


 案の定ブラックヴァンパイアは俺の放った矢を受け止め切れられず、鉄の矢はそのままの勢いで肩に突き刺さった。


『グガアアアアアアアッ!』


 ブラックヴァンパイアは苦悶の声を出しながら肩に刺さった矢を引き抜いた。

 そしてその場で止まり、俺らを睨んでくる。もはや俺らと魔王には数十メートルの距離しかない。


「魅了されたくなけりゃ至近距離から魔王の目は見るなよ!」


 俺はそれを見て周囲に注意を呼びかけた。

 ここからどんな動きを魔王がするかわからない。


 これくらいの距離では大丈夫だろうが、不意に近づいてきた時に目を見たらマズイからな。


『……なるほど。私に傷をつけられる人間はあの魔術師だけかと思っていましたが……それは私の勘違いだったようですねえ』


 あの魔術師?

 誰だそれ?


「数日振りだな魔王。今日が貴様の命日だ」


 俺が首を捻らせてると後ろからヒョウの声が聞こえてきた。


 ああ、なるほど。

 魔王に唯一傷をつけられたのってヒョウの事だったか。

 コイツもINT全振りの攻撃魔法特化型だから魔王の防御力を突破できるってわけか。


 だが確かこの魔王には傷1つ付けられなかったんじゃなかったか?


『ッ! 君は確か私に忠誠を誓っていたのではないのでしたかな?』


 ブラックヴァンパイアが憎憎しげにヒョウに言葉を投げかけていた。

 だがヒョウはグール共を蹴散らしつつも魔王の言葉を受け流し、声を出す。


「オレはお前に忠誠を誓った覚えは無い。オレはただ仲間が無事でいてくれることを優先してたまでの事さ」


「私はいつまでも牢屋に入っているほど大人しくありませんよ~」


 ヒョウの後ろからクリスが前に出てきた。

 それを見てブラックヴァンパイアは歯を食いしばってまるで鬼の形相とでもいうような表情になる。


『ああ、なるほど。牢屋の番をしていた人間に裏切り者がいたわけですね? 後で処刑しなければ』


「だからんな事させねえっつの」


 俺は2射目をブラックヴァンパイアに放った。


「さっきヒョウも言ってたことだが、今日がてめえの命日だ。処刑は諦めな」


 俺はブラックヴァンパイアに言い放った。


「てめえは今日、俺に倒される」


 今度は奴の腹に命中し、その勢いを殺しきれずに魔王は墜落する。


『グハッ! ……グググ』


 魔王は苦しんでいたが、今の俺の言葉が届いたのか俺の方を向いた。


『なるほど、君でしたか。私に弓を引く御馬鹿さんはあああああああああああ!!!!!』


 そしてブラックヴァンパイアは俺に向かって低空飛行で一直線に飛んでくる。


 スキル『神隠し』の効果もこれまでか。

 随分早くばれたが、敵が理性的な人型だからあまり効果が無かったのか?


 まあいい。今の俺らはその程度じゃ動じない。


「バル!」


「了解じゃ!」


 俺の声にバルが答え、俺の前にバルが立ち塞がった。


「わしの新たな力を見るがいい! 『ウォールガード』!!!」


 バルがそうスキル名を叫ぶとその瞬間、バルの目の前に透明な青い盾が展開された。

 その盾は俺らがいる街の通路を完全に二分するほどの巨大さで、迫り来るブラックヴァンパイアの突撃を食い止めた。


『な! なんだこの盾は!!』


「わしの盾はあらゆる外敵の進攻を阻む無敵の盾。お主などに破れはせんぞ!!!」


 ブラックヴァンパイアはその青い盾の前で立ち往生している。

 どうやら本当にあの盾は破れないらしいな。


「専用スキルさまさまだな、バル」


「うむ、あとは名前だけ何とかできればいいんじゃがのう」


 そう。

 俺が最強のぶっ壊れスキルを手に入れたように、バルとシーナもクラスを取得したことでそれぞれ強力な専用スキルを手に入れていた。


 そして今目の前で展開された青い盾こそが、バルの専用スキル『ウォールガード』だ。


 効果はスキル保有者の任意で盾の大きさを決め、その大きさに盾を拡張するというものだ。

 盾の強度は盾を大きくすればするほど脆弱になっていくらしいが、街の大きな通路を分割する程度の大きさでも相当の強度を保てる。

 持続時間は30秒。クールタイムは5分という代物で、ありとあらゆるものの進攻を防ぐ絶壁の守りだ。


「流石は『鉄壁』のバルちゃんだぜ!」


 アスーカルがそんな事を言ってバルを褒め称えていた。

 すると周囲からもバルの二つ名を呼ぶ声が聞こえてくるようになった。


「『鉄壁』さんだ! これで勝てる!」


「『鉄壁』さんの守りはまさしく鉄壁だぜ!」


 そうしてバルを囃したてる声が広がっていく。


「鉄壁! 鉄壁! 鉄壁!」


「鉄壁! 鉄壁!」



「絶壁!」



「おい今絶壁って言ったやつ出て来い。ぶっ殺してやるから」


 バルがキレていた。


「せんせー。リュウくんがバルちゃんのこと絶壁って言いましたー」


「あ! こらシーナ! てめえチクんじゃねえよ!」


 バルがこっちを向いて何かを言いたそうにしている。


 しかし俺はそれを無視した。


「残念だったな魔王! おらもう一発くらえや!」


 俺はバルから発せられる威圧感をそっとスルーして魔王に矢を射る。

 ブラックヴァンパイア目掛けて放った矢は、バルの青い盾をすり抜けて魔王に命中した。


『ガッ! グヌウウウウッ!!!』


 一方的に攻撃され続けている魔王は口から黒い液体を吐き出しながら、自らに刺さった矢を引っこ抜いている。


『ハア……ハア……ククク。なかなかてこずらせてくれますねえ』


 ブラックヴァンパイアはそこまで言うとニタリと笑った。


『ですが無駄ですよ。私はそんな矢では倒せません』


「あ?」


 既に俺の全力の矢を3本くらってまだそんなに余裕があるのか。

 この笑みは一体なんだ?


『ククク……わからないなら教えてあげましょう!』


 ブラックヴァンパイアはそう言うと、俺らの前でいきなり自身の纏う黒いタキシード風の服を引き裂いた。


「……ッ!」


 そして俺は見た。


 ブラックヴァンパイアの体にはどこにも俺の矢の痕がないという事実を。


「ククク……驚愕したかね? 憤慨したかね? 絶望したかね? 君の攻撃など私はすぐに再生できるのだよ!!!」


「再生……」


 つまり俺の矢はブラックヴァンパイアに刺さってもそれを引っこ抜けば元通りに再生できるってわけか。

 厄介な能力を持っていやがんな。


「アイツ……どうりで倒せなかったわけだ……」


 ヒョウが今の言葉を聞いて歯噛みしていた。


 コイツも魔王と戦ったはいいが倒せなかったんだよな。

 その時は再生能力があるなんてわからなかったから結局負けちまったのか。

 俺だってこんなのを3番目の街に着いた時点で相手していたらどうしようもなかった。


 まあ今は違うけどな。


 弓のクールタイムが終了したので俺は4射目を放った。

 俺の矢はブラックヴァンパイアの胸に命中する。人間だったら致命傷だが……


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」


 ブラックヴァンパイアはそう言いながら、俺の放った矢を胸から引き抜く。

 そしてその瞬間から胸の傷の再生が始まっていった。

 やっぱこれでは倒せそうにないな。


 つかどこの吸血鬼の台詞だよ。


 あ、コイツも吸血鬼だった。


『そろそろ諦めたらどうかな? 私は寛大だ。今後私に永遠の忠誠を誓うのであれば命だけは助けてあげよう』


 そう言いつつブラックヴァンパイアは俺を見ながらニタリと笑う。


「確かにこれは諦めるしかねえな」


『そうだろうそうだろう』


「てめえを弓で射殺すのは諦めることにするぜ。――その代わり別の方法で倒す」


『フッハッハッハッハ、君もやっと降参…………なんだと?』


 俺の言葉が理解できなかったのか、ブラックヴァンパイアは首を捻りながら俺を見ている。


 そんなにわからねえならもう一度言ってやるよ。


「てめえは射殺すんじゃなく、他の方法でぶっ倒してやるよ」


『…………』


 ブラックヴァンパイアは俺を見て絶句している。


 まだ俺の言っている事がわかんねえのか。

 だったらここからは行動でわからせてやるよ。

 もう時間もねえことだしな。


「アスーカル、ちょい剣貸してくれ」


「ほらよ」


 すぐ近くにいたアスーカルから金色の剣を借りた。

 俺は手に持った剣を見る。


 『超聖剣スーパーエクスカリバートライゼットエクステンドスペシャル ATK+200 SPD+100 武器スキル(エクステンドスラッシュ、ストライクバースト) 耐久度19040』


 なんだこのふざけた名前は。

 つか性能たかっ。


 だがDEXか命中率の補正はないのか。予想外だ。

 まあ今は別にいい。その話は後回しだ。


 今は目の前にいる魔王だ。

 こいつを倒さなきゃここまで来た意味がない。


 俺は口を開く。


「十秒だ」


 俺は宣告する。


「十秒でてめえを斃す」


 俺の専用スキル。あの夢で出会った謎の女から魔王を討伐せよと託されたこの力。


 今その力を解き放つ。


「『オーバーロード』」


 俺はそのスキルの名を呼んだ。





 ――そして世界は停滞し始めた。

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