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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
3番目の街
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開戦

 夜の街に俺らは乗り込む。

 街へ入る手筈は、数人が前回と同じ方法で壁を登り、街の中に侵入したら内側から大門を開いて突入するというやり方だった。


「走れ走れーーーーーーーーー!!!」


 月明かりと松明、そして魔法の光によって照らされた街の中に入った俺らは一心不乱に街の北東にある領主館へ走った。

 ヒョウや他の人間から聞いた話によると、魔王は毎夜、その館で生贄を呼んでいるらしい。


 魔王の居場所が特定できるなら後はそこに乗り込むだけだ。

 俺らは静けさ漂う夜の街を駆けた。


「前方よりモンスター! ブラッドバットです!!!」


 ……どこかで見たことのあるくのいちが俺らにモンスター出現の報を知らせに来た。


 てめえも3番目の街まで来てたのかよ。

 つかコイツ街の魔王戦皆勤賞じゃねえか。


「あ! リュウさん! 今回もよろしくお願いします!」


「あーはいはい」


 俺はくのいちへ適当に手の平をひらひらさせて答えた。


「……なにこの女?」


 そして俺らの走りに合わせて走っていたシーナがくのいちに向かってガンを飛ばしていた。


 なんだコイツの目は。


「あ! 始めまして! 私は(しのぶ)と申します!」


 このくのいちって忍って名前だったのか。

 コイツとも何気に長い付き合いだが始めて知った。


「ふーん、私はシーナ。あんた、見た感じAGI寄りね?」


「あ! はい! そうです! それを生かして情報収集や特急の荷運び等をしております!」


 忍はハキハキとシーナの質問に答えた。


「私とキャラ被るからこっちこないで」


「え!?」


 シーナの辛辣な言葉に忍はショックを受けたように目を丸くしていた。


 ……いやまあ確かにAGI寄りで才能値では被っているが、てめえと忍じゃ全然キャラちげえと思うぞ。


 コイツは俺らと同じくらいの年に見えるが、太ももが見えるタイプのくのいち風忍者装束装備、肩まである黒髪、それにその頭についた黄色のリボンなど、どう見てもシーナと被ってると言われるような外見じゃあない。


 それにコイツがいるとなんだか安心感がある。なんだかんだで魔王戦三回目のコイツも俺らの立派な仲間だと思えてるからだろうか。


「ほらさっさといきなさいよ。あんたもソロというわけじゃないんでしょ?」


「うぅぅ……リュウさん……またお会いしましょう……」


「お、おう……」


 忍はがっくりと肩を落としながらも素早い動きで前方に走り去っていった。


「なんだったのかしらあの女」


「いやてめえがなんなんだよだろ」


 悪態をつくシーナはわけがわからなかった。


「2人とも気を引き締めんか。上空からコウモリがやってきておるぞ」


「おっと、わかった」


 バルの言葉に反応して俺は上に弓を構える。

 コウモリの数は2匹。俺はその一方に狙いを定めて矢を放った。


「『マジックシェアリング』……『パワーアッパー』、『ディフェンスアッパー』、『スピードアッパー』、『マジックアッパー』、『メンタルアッパー』、『ラックアッパー』」


 俺のすぐ傍ではみぞれが魔法を連続で唱え、灰色、赤、青、緑、黒、白、黄色といった光が俺らの周囲を包みこんだ。

 どうやらこれがみぞれの付与魔法のようだな。周りのプレイヤーの動きや攻撃の威力が良くなった。


「『ブリザード』」


 そしてヒョウは上空に向かって吹雪を撃っていた。

 その威力は俺が弓を使ってコウモリを打ち落とす必要はなかったほど広い範囲をカバーし、もう一方の残っていたコウモリを凍らせた。


 昨日もヒョウの魔法は見ていたが、改めて凄い威力だと感心する。

 これがINT全振りの魔法ってわけか。威力が桁違いだ。


 そうして俺とヒョウによる2つの攻撃で上空にいたコウモリを撃墜させた。


「ここから先は敵がどこから来るかわからない。気を引き締めていくぞ」


「だからわかったっつの」


 既にバルが言ったことを繰り返し言わなくたっていいだろ。

 それが大事な事だってのはわかってんだからよ。


「『マジックシールド』~」


 俺がヒョウを睨んでいると後ろからそんな気の抜ける声がした。

 すると俺の目の前に半透明の白い膜のような物ができた。


「これでコウモリの体当たり1発分くらいは耐えられますよ~」


「おお、そうか。サンキュークリス」


「どういたしまして~」


「つかこんな魔法も使えたのか」


 てっきり回復魔法だけかと思ってたぜ。


「うふふ~、できる女ですからワタシは~」


 そうしてクリスはにへらとした笑顔を俺に見せてくる。


「だがその顔はうざい」


「そんな~」


 俺がそう言ってもクリスはそこまで傷ついた様子はなく『ヒョウさ~ん』と言ってヒョウに抱きつこうとしていた。

 そんなクリスからヒョウは逃げられず、クリスに抱きつかれながらも走る速度を落とさないようヒョウは頑張っていた。


 ヒョウの顔は周囲が薄暗いのにもかかわらず、俺からでもわかるくらい赤くなっていた。


「ここから先は敵がどこから来るかわからない。気を引き締めていくぞ」


 俺はキリッとした顔でヒョウに言い返してやった。


「……俺の台詞をお前が言うな」


 ようやくクリスから離れられたヒョウは俺に小さくそう言ってきた。






「! 前方よりグール! プレイヤーではありません!」


 先行していた忍が俺らにグール出現の報を届けてきた。


 グールに関しての対処については正直もめた。

 グールは元々プレイヤーか街の住民。つまりは人間だ。

 見た目的にもそこまで変化があるわけではないので、どう戦うか討伐軍の中でも判断に困った。


 単純にモンスターとして倒してしまうのが一番手っ取り早いのだが、もしかしたら魔王を倒した瞬間にグールになった人間が元に戻るかもしれない。

 そう考えると迂闊に攻撃して殺してしまうわけにはいかない。


 たとえそいつらがゲームでいうところのNPCという立ち位置であったとしても、ここまで来たプレイヤーの中にはもうこの世界の住人をNPCとして考えるような奴は少ない。


 この世界の住民はこの世界に生きる人間なのだと理解している。

 ゆえに殺せない。


 まあだからこそ殺すという奴もいるかもしれないが今は関係ない。


 とにかく街の人間のグールはどうしてもという場合じゃない限りは殺さないという方針が町を出る前に立てられた。


 そしてプレイヤーグールについては街の中限定で攻撃するという話になった。

 プレイヤーグールもHP保護が効くらしく、街の中では死なないからだそうだ。

 それはそれで厄介な障害になりそうだけどな。死なないゾンビみたいなもんだし。


「『アースシェイカー』!」


「『スパイダーネット』!」


「『ロングバインド』!」


 前方より出現した50ものグールに対し、非殺傷の魔法を魔法使い的なローブ衣装のプレイヤー集団が唱えてグールの動きを止めている。

 『アースシェイカー』で地面を揺らし、動きの止まったグールを『スパイダーネット』で一網打尽にし、『ロングバインド』で一人一人拘束しているようだ。


「ここは俺達が食い止めます! 皆さんは先に行ってください!」


「おう!」


 わらわらとわき続けているグールの動きを止めるため、20人近くのプレイヤーが足止め役としてその場に留まった。

 俺らはそのプレイヤー達を横切って魔王のいる館を目指して走り続ける。


「てめえら死ぬんじゃねえぞ!」


「わかってますって!」


 足止めするプレイヤーに走りながら俺は声を飛ばすと、1人のプレイヤーが元気に答えた。

 それに続いて周囲のプレイヤーも掛け声を発し、グールとの本格的な戦闘が開始された。


「俺らもぜってえ死なないからな! 館まで突っ切るぞ!」


「「「おお!」」」


 そうして俺らは迫り来るコウモリの群れを撃破し、突然現れるグールを捕縛しながら走り続けた。



 だが、そんな進軍を続けている俺らの前に、魔王は自ら姿を現した。



「!!! 前方空中に人影! あれは……魔王です!!!!!」


「なに!?」


 俺らはその報告を聞いた瞬間その場に止まり、空に目をやった。


 そして数百メートルほど先の夜空には、確かに月を背景にして何かが飛んでいるのが見えた。

 その姿は確かに人の形をしているが、背中から生えているのだろう大きなコウモリの羽がソイツを人間ではない何かだと俺らに主張している。


「! グール出現! プレイヤーグールです!」


「ッ!」


 魔王の出現と共に近くの建物からグールが飛び出てきた。

 それによって不意を打たれた何人かの味方がグールに捕まって首筋を噛まれた。


「ギャアアアアアアアアアアア!!!」


「やめろ! やめろおおおおお!!!」


「プレイヤーなら構うことはねえ! 切り伏せろ!」


 襲われて悲鳴を上げているプレイヤーの傍にいたアスーカルが、そう言いながら一番近くにいるグールを思いっきり叩ききった。

 HP保護のかかったグールはその攻撃を受けて服が裂け、背後の建物に叩きつけられる。

 外傷はないがそれで意識を失ったのか、そのグールはピクリともしなくなった。


「おらドンドンくるぞ! 腹くくって戦えてめーら!!!」


「「「お、おお!!!」」」


 そうしてその場は魔王討伐プレイヤーとプレイヤーグールの混戦状態に陥った。


「ちっ!」


 俺も弓をプレイヤーグールへと構えて矢を当てる。


 正直さっき現れた魔王の方を倒したいがまだ距離がある。

 短期決戦を挑むのならもう少し近くで戦わないといけない。


 チャンスは一度っきりだ。


 そのチャンスを見定めて確実に魔王を倒す!


「バル! 噛み付きには気をつけろよ! 盾でグールの頭を抑えろ!」


「言われずともじゃ!」


「シーナ! 余裕ぶっこいて掴まんじゃねえぞ!」


「私はそんなヘマしないわよ!」


 俺はバルとシーナにそれぞれ声をかけた。

 2人の反応を聞く感じでは大丈夫そうだな。


 それならヒョウ達の方はどうかと俺は戦場を見回す。


「『ショートバインド』」


「『アイススピア』」


「『マジックシールド』~」


 後方ではヒョウ達が冷静に迫り繰るグールへの対処をしていた。

 あいつらも問題なくグール共と戦っているようだな。


「ギャハハ! 死ね死ねええええええええええええぃ!」


 ふと、そんな声のした方向を見ると、キルがグール相手に何かを投げているのが目に映った。

 そしてその何かはグールに当たるとパァンと綺麗な火花が舞った。


 ……あれって花火玉じゃねえか。


 あんなもん武器として使ってたのかよ。つかアイツも普通に戦えるんじゃねえか。


「リュウ、あそこにいる魔王にてめーの矢は届くか?」


 そうして周りの状況を把握していると、アスーカルが俺の傍に来てそんな事を聞いてきた。


「届かないでもないが、あそこまで離れた上空だと大した威力は出ねえぞ」


「そうか、やっぱもうちょい近づかなきゃならねえようだな。オイてめーら! いつまでもグール共とじゃれてねえで前進むぞ!」


「「「おお!」」」


 アスーカルの一声に周囲のプレイヤーは同調し、ここから更にグール足止め役30人ほどがその場に残った。


「進め進めえええええええ! 敵の親玉はすぐそこにいるぞおおおおおおお!!!」


 俺も声を張り上げて上空に佇む魔王を睨みつける。

 残り50名ほどとなった魔王討伐隊は魔王目指して前進し続ける。


 そんなところで悠長に高みの見物できるのも今の内だけだ!

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