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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
3番目の街
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6人

 みぞれのおかげ(?)で弓を取り戻した俺が攻撃役に加わったことでモンスターを捌くことに安定感が増した俺ら6人は大した危険もなく町に到着することができた。

 そしてすでに夜の帳も下りる頃といった暗くなった町の入り口にはバルが立っていた。


「リュウ! 無事じゃったか!」


 バルは俺の姿を見るなりすぐに俺の方へ駆け寄ってきた


「魔王に何かされなかったかの? どこか苦しいとかそういうことはないかの?」


「そういうのはねえよ。俺はいつも通りピンピンしてるぜ」


「そ、そうか。それなら良かったわい……」


 バルもシーナ同様俺を心配してたんだな。

 なんだかそう思うと心苦しくなるな。


 俺はバルの兜にポンと手の平を乗せる。


「安心しろ。俺はこの世界から出るまでくたばったりなんかしねえよ」


「う、うむ。そうじゃな」


「まったく。私が必ず連れて帰ってくるって言ったんだからちゃんと帰ってくるのは当然でしょ!」


「うむ。あの時はお主に辛く当たってしまったが、ちゃんと約束を果たしてくれたのう。シーナはやはり頼りになるパーティーメンバーじゃ」


「ふふん!」


 どことなくバルの肩から力が抜けたように見える。


 つかバルとシーナはこの町で一悶着あったのか。

 まあ何かあってもこうして仲良く話せるのなら問題のなかった事なんだろう。


 それにバルは町の中でずっと俺らの帰りを待ってて1人で不安だったんだろうな。

 兄代わりを自称する俺としては見過ごせねえな。


「ところでバル、晩メシは済ませたのか?」


「いや、リュウとシーナが帰ってくるまで食事は待っていようと思っとったからまだじゃぞい」


「そうか、じゃあメシにすっか。どこで食うかはバルが決めていいからな」


「うむ!」


 バルは元気良く俺に返事を返してきた。


 1人にした分一緒にいてやらねえとだよな。

 俺はバルの肩を掴んで回れ右をさせた。


「あ、そうだ。てめえらも一緒に来るか?」


 俺は後ろにいたヒョウ、みぞれ、クリス、キルに声をかけた。

 コイツらがいたことをすっかり忘れていた。


「……!」


 バルが俺の向いた方を見ると、すぐさま俺のとヒョウ達の間に立って警戒体制をとり始めた。


 そういや説明がまだだったな。


「バル、安心しろ。そいつらは敵じゃない」


「リュウ?」


「俺らの予想が当たってたぜ。人質が解放された今はもう俺らと同じ、魔王を倒すことを目的にするプレイヤーだ」


「そ、そうじゃったか」


 バルは右手に持った盾をおろしてヒョウ達に頭を下げた。


「不躾な行動をとってしまいすまんかった。これからは魔王を倒すために手を取り合って協力し合おうぞ」


「謝らなくていい。昨日まで敵対していたのはオレ達のせいなんだからな。此方こそすまなかった」


「ごめんなさい」


「え~と? すみませんでした?」


 そうしてヒョウとみぞれ、それにクリスが俺らに向かって頭を下げた。

 クリスはよくわかってなかったみてえだけどな。


「とりあえずそういうのはもういいだろ。さっさとメシ食いに行こうぜ」


「そうじゃな。お互い過去の事は水に流して共に食事をしようぞ」


「私ももうお腹ぺこぺこよ」


「ああ、わかった。それじゃあ一緒に行かせてもらおう」


「ごはんは和食で」


「仲が良いのは良い事です~」


 こうして俺らはメシ屋に向かうことにした。


「あーあたしはパスなぁ。あたしはもう疲れちまったからよぉ」


 そんな中今まで黙っていたキルが俺に話しかけてきた。


「? 別に構わねえが、もう1人で平気なのか?」


「問題ねぇさぁ。ここはもう町の中。セーフティーがかかってんだからよぉ」


「そうか。んじゃまたな、キル」


「またなぁ」


 キルはそう言ってダルそうに俺らに手を振ってその場で別れた。


 そういや結局アイツはなんだったんだろうな。

 才能値についても結局アイツだけはわからずじまいだったし。


 まあいいか。

 才能値とか自分の特性をあんま人に喋るモンでもねえだろうしな。

 俺はもう開き直ってるところがあるし、この弓もあるから喋っても別に気にしねえが。 






「そういや結局あのクラス認定書? つうのは手に入ったのかよ?」


 俺は焼き魚の骨を不器用ながらも丁寧に箸で取り除いているバルと味噌汁をずずずと音をたてて飲んでいるシーナに向かって訊ねてみた。


「ああそれね。一応作戦は成功したみたい。ドタバタしてたから私はまだ提出してないけど、もう用紙は貰ってあるわよ」


「そうなのか。バルもか?」


 兜を外しているバルはコクコクと同意するように首を縦に振った。


「えと……リュウさんのぶんも……私が預かっています」


「そうか、サンキューバル」


「い、いえ……そんな大層なことでは……」


 バルは僅かに顔を朱に染めつつそう言って、箸で魚を解体する作業に復帰した。


「んじゃ後でそれ書いて職員とやらに渡しに行くか」


「今の時間でも受理してくれんのかしら?」


「あ……はい。今クラス認定所の方は……起きている間ならいつでも受理……してくれているそうです」


「へえ、仕事熱心なんだな」


「単にプレイヤーを強くして街を取り返そうとしてるだけでしょ」


「ああ、そういうことか」


 その職員に少し関心してたんだが、そういう裏事情も考えられるか。

 いやまあ悪い動機でもないから別にいいんだけどよ。


「そういやてめえらはクラスをもう取得してんのか?」


 俺は同じテーブルに座るヒョウ、みぞれ、クリスに話を振ってみた。


「ああ、オレ達は既にクラス持ちだ」


 俺の問いに綺麗な作法でメシを食っていたヒョウが答えた。


「どんなクラス名なんだ?」


「オレは『氷結の魔術師』というクラスになった」


「なんか普通だな。氷ってところはヒョウらしいが」


「INT寄りのプレイヤーは大体魔術師という名前がつくようだぞ」


「へえ、みぞれはどうなんだ?」


「『付与術師』」


 米が盛られたお椀の中に全部のおかずを入れて味噌汁をぶっ掛けたものをもそもそと食っているみぞれはシンプルにそう答えた。


「付与?」


「味方に支援魔法とか補助魔法をかけてたから。MPあればできるし」


「ああ、そういうことか」


 『マジックシェアリング』も味方への支援魔法と言って差し支えないしな。

 付与術師というクラスはコイツにピッタリなのかもしれねえな。


「んじゃあクリスは?」


 最後に俺は、箸を器用に使ってみぞれの大まかにしか取れていない焼き魚の肉を取り分けてやっているクリスに話を振った。


「ワタシは『治癒術師』というクラスです~」


「まあ大体予想はついてたわな」


 回復しかできないだろうしな。『治癒術師』というクラス名は妥当だろう。


「『氷結の魔術師』に『付与術師』に『治癒術師』か。術師揃い踏みだな」


 コイツらが偏った編成なのは今更言うまでもねえ事だけどよ。


「なあ、てめえらはここまで3人で旅を続けてきたのか?」


「基本はそうだ。だが必ずしも3人だったというわけではないな」


 ヒョウはそう言うと俺に目を合わせてきた。


「実のところオレ達は2番目の街から3番目の街への旅の間、とあるパーティーに同行していたことがある」


「とあるパーティー?」


「『攻略組』というパーティーだ」


「ぶほっ!」


 俺は『攻略組』というつい最近耳にしたパーティー名をヒョウから聞いて思わずメシを噴き出してしまった。

 対面にいたヒョウはそれでも何食わぬ顔で話を続けた。


「今だから言うが、オレ達は以前からお前の事を『攻略組』のユウから聞いていて知っていたんだ」


「! ユウがか!?」


 驚いた。

 コイツらとユウ達が知り合いだったのもそうだが、俺の話をしていたというのも俺を驚かせる話だった。


「ユウは……俺の事をなんて言っていたんだ?」


「そうだな、ユウはお前の事を心配していたぞ。それに後悔もしていた。このゲームに親友を誘ってしまった事とゲーム開始直後に親友を裏切るようなことをしてしまったという事をな」


「そうか……」


 やっぱアイツは俺の事を引きずりながら旅をしてんのか。

 別にユウがそんなモン背負い込む必要ねえのによ。


「お前は……ユウの事を恨んでいるか?」


「は? 俺が? ユウを? 恨むわけねえだろそんくらいで」


 俺はユウを恨んじゃいねえ。

 確かに俺はゲームを始めたことに後悔したし、ユウ達に街で引きこもってろと言われたことに対して怒りもした。


 だがそれで俺とユウの関係が変わっただなんて思っちゃいねえ。

 俺とユウは対等のままだと俺は信じている。


「もし俺が恨んでるとかユウが思ってるなら、さっさとそのふざけた思い上がりを矯正しなきゃいけねえなあ」


「そうか。それを聞いて安心した」


 ヒョウはそう言うとフッと息をはいた。

 やっぱコイツ少しキザったいな。


「つかもしかしてクリスは牢屋で自己紹介した時にはもう俺の事知ってたのか?」


「知ってましたよ~。と言いますか、あの場でそのリュウさんが魔王を倒すと宣言したからこそ私は牢屋から出ようと思ったんですよ~?」


「……そうなのか?」


「はい~」


 ……まあ確かにあの看守なら俺の手助け無しでもクリスは脱獄できたかもしれない。

 だがそれだとよくわからないことがあるんだよな。


「なんでクリスは牢屋に居続けてたんだ? てめえなら俺がいなくても牢屋から出られただろう?」


「ああ~……それは……ですね……これ以上、戦わせたくなかったからです……」


「……戦わせたくなかった?」


「はい……」


 クリスはのほほんとした雰囲気を消し去り、神妙な声でそう言うとヒョウとみぞれの方を向いた。


「3番目の街にいる魔王のせいでたくさんの人が死んでしまいました……。ワタシはもうそんな戦いにヒョウさんとみぞれちゃんを行かせたくなかったんです……」


「……なるほどな」


 コイツはコイツなりに悩んでいたってわけか。


「ヒョウさんとみぞれちゃんは正義感が強いですから……ワタシという枷がなくなればすぐにでも魔王と戦いにいってしまうかもと思ったんです……勝てるかどうかを抜きにしてでも」


「クリス……お前が牢屋にいたのは……オレ達のせいだったのか……」


「そ、そんなことは~……」


 ヒョウの言葉を否定しようとクリスが声を出すが、それは結局否定できずじまいに終わった。

 クリスも自分がやっていたことをキチンと理解していたんだろう。


「すまなかった、クリス。オレ達が不甲斐なかったばっかりに、お前を苦しめてしまって」


「ああ~……、ヒョウさん~……。そんなことはないですよ~……」


「私も兄さんと同意見。クリス、ごめんなさい」


「みぞれちゃんまで……、うぅ~……」


 クリスは2人からの謝罪を受けて困った顔をしている。


「その辺にしとけよ。メシがまずくなっちまう」


 俺はそんな3人に席から立ち上がって声をかけた。


「そんなに自分が悪いとか、自己犠牲だとかそんな事をしたいんだったらよ、そういうのはメシの場じゃなくて魔王の奴にぶつけてくれ」


「リュウ……」


「てめえらがそうやってウジウジしちまってんのは全部魔王が原因なんだろ? だったら魔王を倒せば全部解決するじゃねえか」


「リュウさん……そうですね~……前回は負けてしまいましたが、次は絶対勝つんですものね~」


 そう言うとクリスはやっとのほほんとした雰囲気に戻っていった。


「おう、そうだ。俺らは魔王を倒す。なんだったらてめえらは指をくわえて見ているだけでもいいんだぜ?」


 俺は小馬鹿にするようにそう言ってヒョウとみぞれ、クリスを見下ろした。


「甘く見るなよ。オレは魔王を倒すという役目を譲る気はない」


「兄さんがやる気なので私もやる気出してみます」


「ワタシも皆さんのサポートを全力でしますよ~」


 2人はそう言って俺と同じく立ち上がった。


 ああ、そう言ってくれると思ったぜ。


 俺はニヒルな笑みを意識して作り、ヒョウに右手を差し出した。


「だったら勝負しねえか? 俺が魔王を倒したらてめえら全員俺らの仲間になれ。もしてめえが魔王を倒したら俺らはてめえらの仲間になってやるよ」


「なんだその勝負は。勝っても負けても結果は同じじゃないか。……だがその勝負、乗った」


 ヒョウはその場で立ち上がり、俺の右手に右手を差し出して握手を交わした。


 こうして俺らはヒョウ、みぞれ、クリスの3人と共同戦線を張ることになった。

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