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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
3番目の街
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脱出

 看守のおっさんの手引きによって牢屋のあった建物の裏口から脱出した俺らは、人目を避けるように外套を着て建物の影から影へと移動をしていた。


「魔王に支配されてる割には案外普通に人が行き来してるな」


 ひとまず人気のないところまでやってきたから俺はふと思ったことを口に出した。


「何も街の全てをぶっ壊してやるぜっていう魔王ばっかじゃねぇんだろうよぉ」


「なるほどな」


 確かにキルの言うように魔王にも色々あるんだろう。

 始まりの街と2番目の街に出てきた魔王は積極的に街に被害を与えていたが、ここの魔王はそいつらと比べると理性的なのかもしれねえな。


 ただ街の外へ出ることは今のところ禁じられているのか、門は閉ざされている上に衛兵が数人立ち塞がっている。


「それでキルさん~。先ほど言っていた抜け道というのは?」


「あぁ、こっちだぜぇ」


 俺らはキルを先頭にして再び動き始めた。


 とりあえず抜け道とやらがちゃんと使えるかを確認してからシーナを捕まえるか。

 シーナは相変わらず街の中を猛スピードで走ってるっぽいからどうやって捕まえればいいかわかんねえけど。


 と、そう思いながらマップを眺めていたら、何故かシーナの方からこちらに向かってきた。


「あ? なんか仲間がこっち来るみたいだわ」


「あぁそりゃあマップの探知機能が正常に戻ったからだろぅよぉ」


「あの牢屋は探知魔法の無効化も備わっていると看守のおじさんが以前言ってましたよ~」


「そうなのか?」


 だとしたらさっきまでシーナ側では俺の居場所が掴めなかったってことか。

 いままで闇雲に俺を探していたのだとすると申し訳なく思うな。


 俺らはその場でしばらく待つことにして、そこで約5分の時間が流れた。

 すると人が行きかう大通りから土ぼこりを撒き散らし、シーナが汗だくになって俺の方に走ってきた。


「おーシーナ、一日ぶ――」


「リュウ!!!!!」


 シーナは衝突事故でも起こそうかというほどの危険な速度のまま俺に向かって飛び込み、そしてその勢いのまま腹にタックルされた。


「ぶほあ!?!?!?」


 俺は攻撃と見なされなかったシーナのタックルで後ろに吹き飛び、10メートル近くの飛距離を生んだ。


 こいつにSTRがあったらとんでもないことになってたな。今でも十分いてえけど。


「リュウ! あれからずっと探してたんだからね!」


 そしてタックルを仕掛けてきたシーナは泣き声でそんな事を言ってきた。


「し、シーナ」


 俺はシーナをそっと引き剥がそうとするが、シーナはがっちりと俺の腹に腕を巻きつけてきて離れようとしない。

 もっと力を込めればSTRの差でシーナを離す事はできるだろうが俺は泣きついているシーナになすがままにされている。


「俺のHPが減ってないのは確認できてただろ? そんな泣くほどの事かよ」


「それでも何をされるかわかんないじゃない! それにいつまでも無事だなんて保証もないし! ずっと不安だったんだからね!」


 シーナは俺に泣きながら怒鳴ってグスグスと鼻水をすすっている。


「あの時バルを逃がすだけで精一杯で……私があの時あんたを置いていったから、私のせいであんたは捕まって……本当に……本当にっ!」


 シーナは全然整理できてない言葉を吐き続け、俺に謝罪をしてくる。


「ごめんなさい……あんただけ置き去りにして本当にごめんなさい……」


「シーナ……」


 俺はえずくシーナの背中を擦ってやり、近くにあったシーナの耳元へ向けて優しく囁いた。



「シーナ、今てめえ、すっげー汗臭いぞ」


「!?」



 俺の囁きを聞き取ったシーナは勢いよく飛び上がって俺から離れた。


「あ、あんたこの場面で何変なこと言ってんの?!」


「いや変なことじゃねーよ。客観的事実だよ」


「私が汗臭いのは今まであんたを探して走り回ってたからでしょうが! 悪い!?」


「いや別に悪いとか俺は一言もいってねーよ。おら、その汗臭い体で思う存分抱きつくがいいさ」


「しないわよ?! なんでそんなアブノーマルな事させようとしてんの!?」


「てめえがやり始めたことだろうが。責任転嫁すんな」


「してないわよ! 責任転嫁なんて!」


「じゃあシーナが悪いんだな? じゃあ謝れよ。汗臭い体で抱きついたりしてごめんなさいってな」


「え? えぇ? えと……汗臭い体で抱きついてごめんなさい……?」


「よし、わかればいいんだわかれば」


「え? えええ?」


 俺はシーナから汗臭い体で抱きついたことに関する謝罪の言葉をもぎ取った。


 完全勝利である。


「これからは気をつけろよ」


「って! なんで私がそんなことを謝ってんのよおおおおおお!!!!!」


「うお!?」


 シーナはブンブン腕を振って俺に攻撃しようとするが、その攻撃は全てすり抜けて俺に当たる気配がない。


「諦めろシーナ。てめえじゃ俺に傷一つつけられねーよ」


「何いきなりカッコイイ台詞言ってキメ顔してんのよおおお!!!!」


 叫ぶシーナはさっきまで泣いてたこともあって顔がかなりぐしゃぐしゃになっていた。


「おいシーナ。今のてめえの顔すげーぞ。人様に見せていい顔じゃねーよ」


「真面目な顔になってそんな台詞言わないでくんない?! 滅茶苦茶傷つくんですけど!?」


「だけどそんな顔もシーナらしくて俺は良いと思うぜ!」


「全然フォローになってないわよ!!! 死ね!!!!!」


「おいおい死ねとか言うなよ。俺らは今生きるか死ぬかの世界で生きてるんだぜ? そんな軽口が俺にかける最後の言葉になっちまうかもなんだぜ?」


「この流れで唐突に説教に持ち込むのやめてくんない?! 確かに私も軽口で死ねって言っちゃうのはダメかもとか今思っちゃったけどさあ!!!」


 そう言うシーナは泣きながら怒りながら反省している。

 なかなか器用な奴だな。


「まあとにかくなんだ、そろそろ泣き止めよシーナ。俺はこうしてピンピンしてんだしよ」


「うぅ……わかったわよ……」


 俺はアイテムボックスからティッシュのようなちり紙を取り出してシーナに手渡した。

 ホントはハンカチのほうが様になるんだろうが、ティッシュを受け取ったシーナがまず最初に鼻をチーン!と勢いよくかんだのでこの選択に間違いはなかったと確信した。


「それと、ありがとな。そんな必死になって俺を探してくれてよ。嬉しかったぜ」


 俺は先ほどの調子から一変して、泣き止んだシーナへきちんと真面目に礼を言った。


「……素直にそう言えば私だってこんな怒らずにすんだのに」


「え、怒ってないシーナなんて存在すんの?」


「私そんないつも怒ってないわよ!?」


「そのシーナはてめえの頭の中だけの生き物なんじゃねーの?」


「いるわよ!? ちゃんと現実にいるわよ! 目の前の私をよく見なさいよ!!!」


「なんだ、やっぱり怒ってるじゃねーか」


「あんたがさっきから私を怒らせる言動してるから悪いんでしょうがああああああああああ!!!!!」


 目の前に存在するシーナは俺に向かって怒鳴り続ける。


 ああ、やっぱシーナはこうじゃねえとな。

 泣いてるよりもこっちの方が様になっている。


「そういやバルはどうしたんだ? マップ表示では向こうの町にいるみたいだが」


「はあ……はあ……ああ、バルなら私が無理やり町に戻したわ。あの子もここに残ってリュウを取り返すって言ってたけど、いざっていう時逃げられないでしょ?」


「まあそうだな」


「この街から出る時もかなりダダをこねられたけど、アスーカルがバルに峰打ち食らわせて気絶させてね。その状態で私がおぶって運んだのよ」


「アスーカルがか、そりゃまた大変だったな」


 バルがこの街から離れようとしない様がありありと浮かぶわ。

 バルを気絶させたアスーカルには感謝しねえとな。変態だけど。


「ナイス判断だったぜシーナ。バルを連れてたら二次被害になってたかもしんねーしな」


「当然よ! もっと私を褒めていいのよ!」


 俺が褒めるとシーナは機嫌を直してふふんと鼻を鳴らしてきた。

 まだおちょくりが足りなかったようだな、シーナよ。


「なあぁ、そろそろあたしらを無視しないでくんねぇかあ? このうるさい女とバルとかいう仲間の安否も確認できたんだからよぉ、もういいだろぉ?」


 俺が一瞬でシーナをどうおちょくるか考えて実行に移そうとした時、俺の背後からキルの声が聞こえてきた。


「ああわりい。ついいつものノリで話し込んじまった」


「ワタシは構いませんよ~。仲が良いことは良いことです~」


「ちょっと! あんた今の見て仲がいいとか正気!? 私は全然こんなのと仲良くなんてないわよ!」


 そこでクリスとキルをシーナが見ていきなりキョトンとして、その後俺を睨みつけてきた。


「ねえ、リュウ。この女達、誰?」


 なんだその目は。

 なんで俺がコイツらと一緒にいるだけでこんな冷気めいた目つきを浴びせられなけりゃならんのだ。


「俺が牢屋に入れられてた時に一緒にいた牢屋仲間だ」


「ふーん」


 シーナはそう言うとクリスとキルをジロジロ見始めた。

 だからなんなんだよてめえは。


「あぁそういうのほんといいからよお。もぉマジ勘弁だぁ」


 キルがうんざりしたような顔で俺ら見ていた。


「今は他にやることあんだろぉ?」


「っとそうだったな」


 いくら人がいない裏路地とはいえ、いつまでもここにいるべきじゃない。

 ひとまずこの街から離れてバルと合流し、そしてクラスを取得しないといけねえよな。


「すまん。俺らはもう大丈夫だ。抜け道まで案内の方頼む」


「あいよぉ」


 こうして俺らはシーナを加えて再び歩き出した。






「ここだぜぇ」


 俺らがキルに連れられて到着したのは教会跡地のすぐ近くにある、つい最近滅茶苦茶に壊されて廃墟になったといったような建物の中だった。

 おそらく魔王が出てきたときに壊れたんだろう。近くの建物も軒並み同様の惨状だ。


「なあ、ホントにこんなとこに抜け道なんてあんのか?」


「おぉ、あるぜぇ。ここは元々この街の管理組合の詰め所でなぁ……ほら、見てみろよぉ」


 キルが廃墟の奥にあるうち捨てられた木材をひょいひょいと取り払っていくと、そこには地下通路へと続く古ぼけた階段が現れた。


「ここを通れば街の外の森に出られるぜぇ」


「へー、てめえそんなもんよく見つけたな」


「まあこの街に来る途中に偶然森の中で見つけたってだけの話さぁ」


「この街に来る時ってパーティーメンバーとか?」


「あぁ、そうそう。最初はお宝でもあるんじゃねぇかってワクワクしてたってのによぉ。とんだ肩透かしだったぜぇ」


 そう言いながらキルはどんどん階段を下りていく。

 俺はアイテムボックスから道具屋で買ってあった松明を取り出してついていった。


 通路は真っ暗闇だったがキルは光も無しですいすい進んでいく。

 まあ一本道みたいだから光がなくても歩けるのかもしれないが。


「こうしているとダンジョンの中を探検してる気分になりますね~」


「モンスターも宝箱もトラップもないダンジョンだけどなぁ」


 クリスとキルが前でそんな感じに談笑している。


 それに対して俺とシーナは……。


「おい。なんで俺の袖掴んでんだよ」


「べ、別にいいでしょこんくらい! スルーしなさいよ!」


「スルーしろって言われてもな……」


 なんでいきなりこいつ大人しくなってというかビビって俺の袖掴んでんだよ。


 こいつあれか、あれなのか。


「なあシーナ。てめえはオバケとか信じるタイプか」


「し、信じないわよ! そんなよくわからないのなんか!」


「ふーん」


「な、なによその返事は! 別に私はオバケとか全然怖がってなんてないわよ!」


「いや俺オバケが怖いとか一言も言ってねーんだけど?」


「な! さ、さっきのは行間を読んだのよ! 私がオバケを怖がってるとかあんたが思ってるんじゃないかなーってね! 残念ね! 私はこれっぽっちも怖くなんてありませんよーだ!」


「ふーん。じゃあ袖離せよ」


「な、なんでよ!」


「掴んでるとバランスが崩れるんだよ。松明落として真っ暗になるぞこら」


「え!? ちょ、ちょっと! そのくらいあんたなんとか頑張りなさいよ! 光消したらタダじゃおかないわよ!」


 そう言われると光を消したくなるな。

 シーナをおちょくるためなら多少の不便は我慢できるのがこの俺だ。


「……今なんか嫌な事考えてなかったでしょうね?」


「俺の考えを見破るとは。さてはてめえ、エスパーか」


「エスパーじゃないわよ! てゆーか前にも何度かこんなツッコミしたわよ! そのエスパーかって台詞気に入ってんの!?」


「まーな。てめえもどんどん使っていいんだぜ?」


「使わないわよ!」


 そうか。

 少し残念。


「そろそろ出口に着くぜぇ」


「お、もうか。案外早かったな」


「ふぅ……やっと出口なのね……」


「お話してると時が経つのは早いですね~」


 キルの声かけに俺らはそれぞれ感想をもらした。


 通路の奥から光が漏れているのが確かに見えることから、出口が近いというのは確かなのだろう。


「外でたら森だからよぉ、一応いつでも戦闘できるよう準備しとけやぁ」


「ああ、了解」


 キルからそう聞かされた俺は早速弓を……。


「そういえばシーナ。俺の弓は回収してたか?」


「え? 私はしてないけど?」


「……バルのほうは?」


「あの時はバルを抱えて逃げるのに必死だったからよく覚えてないけど……多分バルも回収はしてなかったわね」


「…………」












 マジか。

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