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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
3番目の街
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夢の女

 目が覚めるとそこには何もなかった。

 見渡す限りの白、白、白。


 純白の世界が目の前には広がっていた。


「……あ? ここ……どこだ?」


 俺は確か3番目の街の中で逃げている途中にあのヒョウって奴に出くわして……そんでアイツの魔法をモロにくらって気絶したんだったか。


 だが気絶して目覚めるとそこには何もないって、もしかして俺は死んじまったとかなのか?


 そう考えるとやけに俺の体が軽く感じられる。

 まるで宙に浮いているかのようだ。


 ……というか俺は今体を横にしているというような感覚すらない。


「おいおいマジかよ……」


 あの後コウモリ共に殺されたのか、それとも街の外に出されてヒョウに殺されたのかわからねえけど、ホントに俺はこんなところで死んじまったのかよ。


「いや……でも意識はあるんだよな」


 俺は今まで死んだことがないから(当たり前か)死後の世界というものに詳しいわけでもないが、本当にここが死後の世界だとはどうしても思えない。

 そもそも俺は死後の世界とかないと思っている派だ。人は死んだらそれまでだろ。意識なんか保てるはずがない。


 それに、この状況をもっと現実的に考える方法が1つだけある。


「なんだ、夢か」


 俺は夢であると結論付けた。


「なんだよ驚かせやがって」


 こういう夢の中でも意識がハッキリしてるのって明晰夢っていうんだよな。

 こういった夢を見る訓練をした熟練者には自分の見る夢を自在に操れるのだとか。

 俺も一時期そういう訓練にはまった時がある。

 まあ結局できなかったけどな。


「だけど今ならできるのかね」


 あ、なんだかできそうな気がしてきた。


「うっは、なんかテンション上がってきた!」


 夢の中でここまで意識を保ち続けたことなんて今までで初めてだ。


 できる。今ならできるぞ!


「だがいきなりすぎて何も思い浮かばねえな」


 夢の中なら何でもできるとはいっても突然の事だから何も案がない。

 訓練してた時は何を思い浮かべてたっけな……。


「まあいいか。何はともあれとりあえず実践だ」


 俺は目を閉じて1人の人物を思い浮かべる。


「陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜」


 俺はひたすら自身の妹を思い浮かべる。


 もう陽菜とはかれこれ1ヶ月会っていない。

 そろそろ妹分が不足してきて体調に問題を起こしている可能性もある。


 一応妹分的なバルが傍にいるからたまにバルを甘やかして妹分を補給していたが、それはあくまで応急処置だ。

 それに結局バルはリュウにぃって呼んでくれないしな。


 そろそろ陽菜に龍にぃと呼ばれたい。

 俺は必死に陽菜の事を思い浮かべた。


「あああああああ早く会いたい陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜――」


『……そろそろ止めてくれないかな。本気でドン引きするんだけど』


 どこかからか女の声が聞こえてきた。


「っ! 陽菜?!」


『いや違うよ。全然違うよ。ちゃんと現実を見てよ』


 俺がクワッ! っと目を開けた先には陽菜はおらず、というかさっきまでと同じく白い空間には俺以外だれもいなかった。

 まあ確かに今の声は陽菜の声じゃなかったな。


「あ、なんだ幻聴か」


『君の陽菜連呼の方が私に幻聴を与えるよ……』


「なんだよ、幻聴が会話するなよ。俺痛い子になっちまうだろ」


『君はもう十分痛い子だよ……』


 幻聴は俺に向かって生意気にもツッコミを入れてきた。


「てか幻聴じゃなかったらてめえはなんなんだよ。ここは俺の夢の中だろ?」


『まあそうだね。ここは君の夢の中だという認識は正しいよ』


「なんだ、幻聴じゃなくてただの夢か。それなら姿が見えねえのも納得だな」


『いやいや待ちたまえ。確かにここは君の夢の中だけど私は夢が作り出した声でもないし幻聴でもないよ』


「あ? どういうこった?」


 俺は姿なき女の声に問いかけた。


『ああうん。実は今、私は君のヘッドギアに介入してこうして君と話しているんだよ』 


「っ!!!」


 ヘッドギア……だと?

 それって俺がフリーダムオンラインを始める時に被ったヘルメットの事じゃねえか!


「てめえもしかして俺らプレイヤーが元いた世界の人間か?」


 俺は訝しむような、胡散臭いものに接するような態度で女に訊ねた。


『そうだね。もっと言えば私は今君達がいる世界の創造主の1人であり、ゲームマスターの1人だよ』


「ッッッ!!! てめえ! あの時の黒い影か!!!!!」


 俺はその女の言葉を聞いた瞬間怒鳴り声を上げた。


『影?』


「とぼけんじゃねえよ! ゲーム開始初日に俺らの前に出てきて自分の事を神だのゲームマスターだのほざいてたクソヤロウの事だよ!!」


 そうだ。忘れもしない。

 俺らはあの影によってこの世界に捕らえられたんだ。


 あの黒い影の男……に?


『ああなるほど。でも私を彼と一緒にされては困るな。その影は私と同様、大人でお姉さん的な女性の声だったのかな?』


「い……いや……違ったな……」


 ……そうだった。

 あの時空に現れた影は確か男の声だった。

 間違っても女の声じゃない。


「……それじゃあてめえはなんなんだよ。てめえもあの影と同じゲームマスターなんだろ?」


『うーん。まあそうなんだけどね。一応私はフリーダムオンラインの開発主任だったんだ』


「マジか」


 開発主任って。

 それじゃあコイツが主導してフリーダムオンラインを作り上げたということか

 この、ゲームだかリアルだかわからない別の世界を作り上げたということか。


『うん。でも今の私は囚われの身だけどね』


「囚われの……?」


 なんだ。

 それはつまりあれか。

 俺らを集団拉致した容疑で警察に御用になったとかそういうことか。

 それにあの影との関係についてがそれだけじゃ全然わからん。


『その話は置いておこう。今はそんな事を説明しに君の夢に介入してきたわけじゃないんだよ』


「そうだった。てめえ何の用で人様の夢の中に入ってきてんだよ。入場料取るぞコラ」


『ハッハッハッ、入場料ね。それは君がお姉さんのお願いを聞いてくれたら払ってあげてもいいかな』


 俺の恐喝めいた発言をその女の声は軽く受け流し、女は俺にお願いをしてきた。


「あ? お願い?」


『そう。お願いさ』


 ……いきなりコイツは何を言い出してんだ?

 コイツが本当にゲームマスターならそれより先にやることがあるだろ。


『今さっさとこの世界から出しやがれって思ってなかった?』


「俺の苛立ちの心を読むとは。さてはてめえエスパーか」


『いや、私はエスパーじゃなくてゲームマスターだよ』


 俺の咄嗟に出たジョークに女はごくごく平坦な声で真面目にツッコんできた。


「……真面目に返されると俺が恥ずいんだが」


『ハッハッハッ、ごめんごめん。それで? 本題は私のお願いについての話だったかな?』


「ああ、そうだったな……さっさと話せよ」


 つか今のボケ殺しはわざとかよ。

 くえねえ女だな。


『そうだね。私にも時間がないし手短にお願いを話すよ』


 お願いを手短に言っていいのかよ。


 てか時間がない? どういうことだ?


『私のお願いというのはね……君にこの世界を救ってほしいんだ』

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