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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
3番目の街
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パーティー名

「リュウ、シーナ。ちょっと真面目な話があるんじゃが良いかのう?」


「あ? 真面目な話?」


「なによ? あらたまっちゃって」


「うむ」


 翌日の昼、俺らはアスーカル率いるパーティー『仮面同好会』と他数十人のプレイヤーに同行して3番目の街へと続く平原を移動していた。

 そんな最中、俺とシーナに向かってバルは真剣みを帯びた声でそう言葉を紡いだ。


「この話は今後このパーティーに大きく関わる重要な事柄ゆえ、お主らの意見を是非聞きたいんじゃ」


「な、なんだよ。もったいぶらずにさっさと言えよ」


 バルの様子に気圧されて俺とシーナもバルの話に真剣に耳を傾ける。


「う、うむそれはじゃな……」


「それは……?」


 俺の喉からゴクリと音がした。

 無意識の内につばを飲み込んでいたのだろう。


 そしてその音を合図にしてなのか、バルが俺とシーナに向かって極めて真面目にそれを言う。


「……わしらのパーティー、名前は付けないのかのう?」


「…………」


「…………」


「な、なんじゃその反応は!」


 俺とシーナの無反応さにバルは腹を立てたのかその場で怒り出した。


「わしは真剣なんじゃぞ! 真剣に話したというのになんじゃお主らのその呆けた顔は!!!」


「いや……だってなあ……」


「うん……そんな真剣に聞くことでもないってゆーか……」


「なんじゃと!」


 俺とシーナは互いに目を合わせると2人揃って肩をすくめる。

 そんな俺らの様子を見てバルのボルテージはますます上がっていく。


「これは重要なことなんじゃぞ! わしらの今後を決めるといっても良い重大な案件なんじゃ!」


「……そうなのか?」


「そうじゃ!」


 断言されちまった。

 パーティー名ってそんな重要なものだったのか?


「! もしかしてパーティー名を設定するとパーティーメンバーに何かしらの特典があったりするのか!」


「いやないわよそんなの」


「ないのかよ」


 シーナによる否定の言葉で俺の一瞬上がったテンションはダダ下がりだった。


「それじゃあバルはただ単純にパーティーに名前が欲しいってことなのか?」


「うむ、そうじゃ」


「いらねーよそんなもん」


「!?」


 俺がバッサリいらないと言い放つとバルの体がふるふる震え出した。


「いーや! 必要じゃ! 必要なんじゃ! わしらにはカッコイイパーティー名が必要なんじゃ!!」


「カッコイイ名前限定なのね……」


 なんかバルの中でなんらかのスイッチが入っちまったようだ。中二とかそんな単語が入った名前のスイッチが。

 こうなると止めるのは難しいかもしれねえな。


「つーかなんで今更そんな事言い出したんだ? てめえ今まで気にしてなかっただろ」


「うむ。確かに今まではそうじゃったのかもしれん。じゃがわしはさっき目覚めたのじゃ。パーティー名は必須じゃとな」


「そ、そうか」


「うむ!」


 バルはそこで元気良く頷いた。

 そんな必要なことなのかよ。


「……もしかしてアレに感化されちゃったの?」


 俺がため息をついている隣でシーナは右手の人差し指を前方へ向けた。

 そしてその指の先には仮面の男、アスーカルとパーティー『仮面同好会』の仮面をつけたメンバーがいた。


「そうかもしれんのう。あやつらを見たときビビっときたのは確かじゃ。それが今まで気にしていなかったパーティー名に対するこだわりをこうして持たせたのかもしれぬ」 


「……そうか」


 あいつらが原因だったか。

 確かにあの集団のこだわりは良い味を出しているのかもしれねえな。


 『仮面同好会』というパーティー名に合わせてなのか全員仮面を装着しているし、その仮面もそれぞれのメンバーで個性を出している。

 端から見れば不審者の集まりなんだが、あいつらが一糸乱れぬ統率された戦闘をこなす様は一種のショーじみたものにさえ思えてくる。


 あれだけの精錬された動きをパーティー単位でこなせるようになるまでにどれだけ練習したんだろうな。

 あいつらもあいつらで良い意味で中二くせえ。


「はぁ~カッコイイのう。わしらもあんな風に見るものを魅せるパーティーになれると良いのう!」


 そしてコイツはカッコイイものにすぐに感化される悪いタイプの中二だ。

 いずれ大人になった時に過去の自分を思い出してベッドの中で足をバタバタさせるタイプだ。

 ここでへたに名前を付けるとバルの黒歴史に新たな1ページが増えちまう気がしてならねえ。


 こういうときは話自体をうやむやにしてなかったことにしてやるのが優しさってもんじゃねえのかな。


「なんかリュウの目が優しくなったような気がするのじゃが気のせいかのう?」


「バル、あんた騙されてるわよ。あれは優しい目じゃなくて哀れんでいる人の目よ」


「おいシーナ、てめえ変な事言うんじゃねーよ。俺が何を哀れむんだっつーの」


 ワリとシーナはこういうのに目ざといんだよな。

 コイツと話すときは気をつけよう。


「それよか今はそんな事決めてる場合じゃねーだろ。ここはモンスターが何時襲ってくるかわからない街の外なんだぜ? もう少し緊張感持って行こうぜ」


「む、むぅ……そういわれると反論できんのう……」


「真剣に考えたいならまた今度ゆっくりできる時にでも話せばいいだろ。な?」


「わかった。リュウの意見は尤もじゃわい」


「だろ? だったらちゃんと周囲を警戒しようぜ。いくら集団で動いてるからって穴が無いわけじゃねーんだからよ」


「うむ」


 バルはこうして正論のようなものを投げればすぐに大人しくなる。

 自身よりも道理を通すその性格はまあ悪くは無いんだけどな。


 だがそれは、兜を外した状態の素の自分を兜を着けた状態でも実は引きずっていて、我を通し続けることにはまだ抵抗があるという見方もできるのかもしれない。


 もう少しワガママでもいいと俺は思うんだけどな。

 まあ話を切り上げた俺が思うことじゃねえけど。


「……ねえ、今のってただ単純に話をうやむやにしたかっただけじゃないの?」


 シーナが俺に近づいてこっそりとそんな事を言ってきた。


「だからてめえはちょくちょく人の考えてることを読むなよ。てめえマジでエスパーか」


「いやエスパーじゃないわよ。それにさっきのじゃバルは絶対諦めないわよ。近いうちに必ず話を蒸し返してくるからね。だからあんたもそれなりにパーティー名考えときなさいよ」


「へいへい」


 俺はシーナの言葉を適当に流してアスーカル達の方に向かった。


「よう。モンスター倒すの手伝うぜ」


「ん? ああリュウか。もうお喋りのほうはいいのか?」


「もういいさ。てかワリいな。てめえらが戦ってる間に暢気にだべっててよ」


 俺は今までモンスターの露払いをしていたアスーカル達に軽く詫びた。


「問題ねえさ。どうせこの辺のモンスターなら大した脅威にゃならねえしよ。……それにパーティーの名前を決めるなんてかなり重大な話じゃねえか。ハハッ」


「……聞いてたのかよ」


 俺はアスーカルの笑いに苦笑いで返した。


「丸聞こえだよ。別に聞かちゃまずい話でもねえんだろ?」


「まあな」


「そんで? てめーはパーティー名なんにするか案とかねえの?」


 苦笑いを続ける俺に向かってアスーカルの問いかけは終わらない。


 コイツやけにこの話に食いついてくるな。


「ねーよそんなもん」


「そうか。じゃあ良く考えとけよ。名は体を表すってな」


「……てめえらのパーティー名も名前から作ったのか?」


 俺のふと思ったそんな事に、アスーカルはその通りとでも言うかのように握りこぶしからグッと親指を上げてサムズアップをしてくる。


「ふっふっふ、よく聞いてくれたな。実のところそうなんだぜ。俺は街の中で偶然この仮面を見つけてな、そこでこれだ!って思ったのさ。そんなわけで俺らのパーティーは謎の仮面集団『仮面同好会』になったのさ」


 アスーカルは自分の顔につけられた仮面を触りながら俺を逆の手で指差した。


 そんなわけってどんなわけだよ。


「その日から俺らは過去の自分と決別し、自らを仮面で偽って日々モンスターと戦い続けているわけさ」


「そ、そうか」


 ……なんかコイツ、自分の世界を作ってるな。

 バルとは違う種類の中二だ。


 そしてこんなのがパーティーリーダーでさっきから何も言わずに近くでカッコイイポーズをちょいちょいやってる仮面を被ったメンバー達も同類だ。

 まあ当事者達がそれを全力で楽しんでるなら俺が辛辣な言葉を投げつけるのも無粋というものだろう。


 そっとしておこう。うん。


「だからてめーらもパーティー名は真面目に決めな」


「お、おう」


 てめえのパーティー名の決め方は真面目だったのかと突っ込みたかったが自重した。

 

「なんだったら俺がてめーらのパーティー名を考えてやってもいいぜ? 『バルちゃん親衛隊』なんてどうだ?」


「やめろ。勝手に俺らのパーティーに変な名前付けんな」


 しかもバルちゃんってなんだよ。


「じゃあ『バルちゃんを全力で愛でる会』」


「てめえバルちゃん押し過ぎじゃね!?」


 なんだコイツ!?


 なんでバルにこだわってんの!?


「パーティー内の美少女をプッシュするのは常識だろう」


「てめえバルの素顔見たことねーだろ!」


 俺がそう突っ込むと、アスーカルはチッチッチと舌を鳴らして俺に指を振ってきた。


「甘いな。たとえ素顔を見ていなくても、仮面をつけた俺にはわかる。あの兜の中にはとんでもない美少女が隠されているってな!」


「ああ!? いきなりわけわかんねーこと言ってんじゃねえよロリコン!」


 コイツもしかしてガチでヤバイ奴か!?

 しかも何気にコイツの予想あながち間違ってねえし!


 つか美少女ならシーナもいるだろ!

 シーナを無視してバルだけ押すとかコイツ真性じゃねえか!


「ちがうな。俺はロリコンではなく可愛い少女が好きなだけなんだ」


「やっぱロリコンじゃねーか! その2つの違いが俺にはわかんねーよ!」


「うるさい! これはソウルの違いだ! 可愛いは正義! そして俺はそんな美少女のご尊顔を拝み倒したい!」


 そう叫びながらアスーカルはバルの方へ走っていった。


「バルちゃん! 君の素顔を――」


「嫌じゃ」


「即答!? まだ俺お願い言い切ってないぜ!?」


「さっきからお主らの会話は全部丸聞こえじゃ」


「聞かれちゃまずい話だった!」


 そうしてアスーカルはその後しばらく頭を抱えていた。


「だが俺は諦めない! いつかバルちゃんの素顔を見てみせる!」


 ……それでもアスーカルは次の機会を窺うようにしたようだった。


 今度からコイツにバルをなるべく近づけさせないようにしよう。

 俺は密かにそう誓ったのだった。



 そしてそんな騒動の後しばらくしてシーナが俺に近づいてきて睨んできた。


「ねえ、私も一応それなりの美少女だと思うんだけど?」


 俺じゃなくてアスーカルに言えよ。

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