表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
2番目の街
40/140

2番目の魔王

『いらっしゃいボウヤたち。改めて自己紹介をさせてもらうわ。私は2番目の魔王。どうぞよろしく』


 部屋の奥で蜘蛛の巣に張り付いている黒い大蜘蛛は、ゲシャゲシャと人ではない笑い声を発してから、そう自身を紹介した。


 ここにたどり着いたのは32人+シーナの33人。全員がレベル13以上でここら辺でならトップクラスの強さのプレイヤー集団だ。


「また会ったな大蜘蛛ヤロウ! お前に食い殺された仲間の仇、この場で果たさせてもらう!」


 プレイヤーの1人がそんな事を言った瞬間、俺らは全員武器を構えて戦闘態勢へと移行した。


『あらあらごめんなさいねえ。ワタシったら物覚えが悪いの。で、どんな子だった? そのワタシに食べられたっていうお馬鹿さんは?』


「貴様アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 プレイヤーの男はブラックスパイダーに向かって走り出した。

 しかしその特攻は天井から落ちてきた黒い物体に妨げられた。


「っ! なんだ!?」


 プレイヤーの男は天井から降ってきた物体をかろうじて避けて後ろに下がった。

 そしてその落ちてきた物体を良く見ると、それは2メートル級の黒い蜘蛛だった。


「でけえ……」


 あの2番目の魔王を名乗るブラックスパイダーにはおよばないもの、今街の中を襲っている蜘蛛の中では1番大きな個体だった。


『1匹だけじゃないわよ』


 ブラックスパイダーがそう言うと、天井からさっき落ちてきた蜘蛛と同じ大きさの蜘蛛が次々と降ってきた。

 その数は10匹。ブラックスパイダーを守るように俺らの前に現れた。


『ワタシと遊ぶならその子達を倒してからにしなさい。ワタシが見ててあげるから精々頑張りなさい』


 その言葉を合図にして10匹の蜘蛛が俺らに襲い掛かり始めた。


「くっ! 抜かせるか!」


 此方に寄ってくる蜘蛛をタンク集団10人がそれぞれ1匹ずつ止めに入った。


「ぐっうあ」


 その中の一人が突然膝をついて蜘蛛に圧し掛かられた。


「くそっ!」


 俺は咄嗟にその蜘蛛目掛けて矢を放った。

 矢が命中した蜘蛛は反動で後ろに飛ばされて、押し倒されたタンクと距離が生まれた。

 そしてその間にヒーラーがタンクへ駆け寄って様子を見始め、1つの魔法をかける。

 だがタンクは起き上がらない。 


「麻痺攻撃です! 私の治癒では回復できません!」


 その言葉を聴き、周囲のプレイヤーに動揺した雰囲気が漂う。

 俺も不安を抱くが、歯を食いしばって耐えきった。


「余所見をするな! さっきの蜘蛛がまた来るぞ!」


 どうやらあのサイズだと1発当てただけでは仕留めきれないらしい。

 俺の攻撃を受けた蜘蛛は再び俺らに向かって脚を動かし始めた。


「ふっ!」


 そんな様子を見て、さっきまで俺の隣にいたシーナがその蜘蛛に向かって走り始めた。

 そしてあっという間に蜘蛛のすぐ目の前に立ち塞がり、それを蜘蛛は前脚の2本を振り上げて攻撃しようとする。


 だが蜘蛛の前足がナナメに振り下ろされる瞬間、シーナは蜘蛛の真上を飛び越えて振り下ろし攻撃を回避する。

 その後シーナは蜘蛛の後方に着地し、再び蜘蛛の注意を引くべく周りをひたすら動き続けた。


 ……さっきも思ったことだが、どうやらシーナは本当に戦う覚悟ができているみたいだな。

 昼の時点では膝を震わせて顔を青くしていたが、今ではその面影すらない。

 まあさっきまで蜘蛛の大群と大立ち回りをしていたんだから今更な話か。

 だが一応気を配っておかないといけないな。


 俺は弓を構える。


「シーナ! いくぞ!」


「オッケー!」


 俺の合図の瞬間、シーナは横に動いて俺に蜘蛛を撃たせるための道を開く。

 その道に向かって俺は鉄の矢を放ち、再び蜘蛛は後方に吹き飛ぶ。

 合計2発の矢を受けた蜘蛛はそのまま動きを止めて、床の上に倒れ伏した。


「よし! まず1匹!」


 俺はプレイヤー全員に聞こえるように声を出した。


「すまない! こっちも助けてくれ!」


「わかった! ちょっと待ってろ!」


 俺は弓のクールタイムが終わるのを待ってから矢を放つ。

 俺の腕は上げるだけでも辛いくらいに疲れ果てている。

 それでも俺は2射、3射、4射と矢を放ち続ける。


 どうやら矢を受けた蜘蛛はダメージで動きが鈍くなるようで、その隙を突いてアタッカーがたこ殴りにしている。

 それを見て俺は1匹を集中的に倒すよりも、全ての蜘蛛に1発あてて動きを鈍らせる方針で弓を引いていった。


「よし! こっちも倒したぞ!」


「こっちもあと少しっぽい! 集中砲火!」


 俺らは次々に蜘蛛を倒していき、その度に声を出してお互いを鼓舞しあう。


「っしゃあラストオ!」


 そして俺は最後に残った1匹に矢を命中させて蜘蛛を絶命させた。


 所要時間は3~5分といったところか。

 それだけの時間をかけて俺らは2メートルもの大きさを持つ蜘蛛10匹を殲滅した。


 被害は最初に麻痺をくらったタンク1人と不用意に前に出て攻撃をくらった結果麻痺になったアタッカーが1人という結果だった。


「さあ、次はてめえの番だ!」


「さんざん俺たちを弄んでくれたな。だがそれも今度こそ終わりだ!」


「余裕ぶっこいて何もせず見てたことを後悔させてやる!」


 俺らはブラックスパイダーに向かって吼え続ける。

 これから行われる本当の戦いに負けないよう己自身を鼓舞するために。


 しかしそんな俺らをあざ笑うかのようにブラックスパイダーはゲシャゲシャと笑う。


『あらあら、なかなかやるじゃない』


 ブラックスパイダーはゲシャゲシャと笑ってから俺らを褒めるような言葉を発した。

 だがその後、更に不気味な笑い声を上げて体を揺らす。


『それじゃあ次はさっきの倍でいってもらおうかしら』


 ブラックスパイダーがそう言うと、再び天井から蜘蛛が降ってきた。


「…………」


「…………」


「…………」


 俺らは何も言えなかった。

 ただただ目の前に現れる蜘蛛のきりのなさに顔を引きつらせるばかりだ。


 現れた蜘蛛は合計20匹。大きさも2メートル級だ。


「……やるしかないのか」


 誰かがそう言った。


 俺だったかもしれないし、エイジだったかもしれない。

 皆が思っていることだ。誰が言ってもおかしくない。


 だが俺はそんな言葉に強く返す。


「やるしかないだろが!!!!!」


 俺らは武器を構えなおして蜘蛛の突撃に備える。


「さっきより数が多い! 守ることを優先して戦うんだ!」


 エイジはそう周囲に呼びかけて、自身も盾をもって1匹の蜘蛛を抑えつける。

 だが俺は攻撃しかできないからそのまま矢を射続ける。

 今回も蜘蛛に1発づつ当てる策で、タンクの防衛ラインが破られそうなところをメインに射る。


「サンキューリュウ!」


「おう! ポッポも気をつけろよ!」


「ああ! 今度は押し負けねえ!」


「リュウさん! こっちもたのんます!」


「おう! 矢に当たらないよう気をつけろよ!」


 そうして俺らは蜘蛛の猛攻をここまでの連戦で培った連携を用いて防ぎつつ、1匹、また1匹と次々に倒していく。



 しかし、およそ5分を過ぎたあたりになった時、唐突にブラックスパイダーは不吉なことを言い出した。




『次は40匹を相手にしてもらいましょうかねえ』




「っ!」


 ブラックスパイダーの言葉を聴いてしまったタンクが動きを止めてしまい、その隙に蜘蛛の脚がそのタンクの顔を殴った。


「バカ気を逸らすな!」


「カバー誰でもいいからやってくれ!」


「こっちも無理だ! 助けてくれ!」


「なんで! さっきまでちゃんと守れてたじゃない!」


 ……あの言葉を聴いてから全員の動きが途端に悪くなり始めた。


 無理もないだろう。こんな不毛な戦いをいつまで続ければいいかまったくわからないんだから。


 徐々に防衛ラインが後ろに下がっていく。


 蜘蛛はまだ10匹はいる。

 しかし俺らはその10匹を止めるのに精一杯だ。

 もはや何時この戦線が崩れてもおかしくない。


 俺は迷う。


 このまま守り重視でいっていいのか。

 今戦っている蜘蛛以外に倒さなければいけない敵がいるんじゃないか。


 そんな数秒の迷いが致命的な失敗であったことに気づく。




 さっきまで後方で見ているだけだったブラックスパイダーがいつまにか1人のタンクの前までやってきて、無造作に上げた脚でタンクをなぎ払った。



「ぐはあっ!!!」


 不意を突かれたタンクはそのまま後方に吹き飛ばされた。


「ッ!」


「なっ!?」


「そんな!?」


 迷ってる暇なんてなかった。

 考えてる暇なんてなかった。



 ブラックスパイダーが遂に戦線に現れた。



 あいつがいつまでも大人しく後ろで見ているはずがなかったんだ。


 倒す、倒す、倒すんだ。


 俺は迅速に、早急に、この大蜘蛛を打ち倒す!!!



「てめえら! 俺が合図したら俺とあの大蜘蛛の射線上には絶対入ってくんじゃねーぞ!」


「りょ、了解!」


「たのんますよ!」


「は、早くやっつけてくれ!」


 俺の叫びに周囲にいたプレイヤーが了承の声を上げてきた。


 そうだ。俺の矢には絶対に当たってもらっちゃならない。

 当たった瞬間、プレイヤーなら軽く吹っ飛ぶ威力はあるんだからな!


 俺はスキルを唱える。


「『オーバーフロー・プラス』!!!!!」


 俺の周囲に赤いオーラが迸る。

 そのオーラは『オーバーフロー』の時よりも大きくなったと感じられる。


 『オーバーフロー・プラス』、俺がスキルポイントを全て『オーバーフロー』に注ぎ込んで進化したスキルだ。


 その効果は、1分間使用者の攻撃力を400パーセント増加させるというもの。『オーバーフロー』より100パーセント分多い。

 その代わりに防御力は90パーセント低下するが、今の俺には関係ない。


 もとより俺は1発も攻撃を受けちゃいけねえんだ。いくら防御力が下がろうが知ったことか。


「いくぞおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 俺はスキル『オーバーフロー・プラス』を発動した後、即座に鉄の矢を放った。

 標的はブラックスパイダー。


 他の蜘蛛を1撃で倒すという考えもありだが、既に他の蜘蛛には俺の矢が1発ずつ当たっているから今の状態で狙っても意味はない。


 そして『オーバーフロー・プラス』のクールタイム10分を与えてくれるほど今の状況は生易しくない。


 だから俺は今から1分でできる全力でブラックスパイダーを打ち滅ぼす!


『またあの弓使いね! 忌々しい!』


 ブラックスパイダーは脚を2本振り回して怒りを顕わにする。


 よく見るとアイツは手負いだった。

 俺が最初に出会った時につけたダメージがまだ残っていた。


 だがそれでもブラックスパイダーは前線に出てきた。

 このことが示すもの。それはコイツもまた追い詰められているということだ。


 しかしそれでも俺らがピンチであることには変わらない。


「全員守りを固めるんだ! 特にリュウは死守するんだ!」


「了解!」


 エイジの命令に周囲のプレイヤーが従って守りの体制に入った。


 エイジもわかっているんだ。今この大蜘蛛を倒しきらないと後がない、と。


「次いくぞ!」


 俺は守りを固めるその中でただ一人ブラックスパイダーに攻撃を加える。


「2発目ヒット!」


 俺の攻撃は確かに効いている。

 矢を受けるたびにブラックスパイダーは苦悶の声をあげる。


 だがまだ耐える。

 俺が『オーバーフロー・プラス』のスキルを発動している状態で放てる矢は残り4発。


 俺は念じる。どうかその4発で倒れてくれるように、と。


「3発目!」


 俺の3発目がブラックスパイダーの目の1つを潰す。

 そこからはドロドロとした黒い液体が流れ出してくる。


『ボウヤたち……とうとうワタシを怒らせたわね……』


 ブラックスパイダーはそう言った。


 そしてその瞬間



 目の前で対応していたポッポに


 ブラックスパイダーの脚が


 鎌のような鋭さをみせて


 振りぬかれた。



「ッ!!!!!」


「! ポッポ!!!」


 ポッポは咄嗟に持っていた盾で鎌のような脚の攻撃をガードし    そのまま後ろに吹き飛ばされた。


「なっ!」


 今のは完全にガードが間に合ってた。

 不意を突かれたさっきのタンクとは違う。

 それでもなお大きく吹き飛ばされた。


 あまりの理不尽な結果に場の空気が固まる中、いち早く正気に戻ったエイジが叫ぶ。


「今のでHPが7割持っていかれた! 神田! 早くポッポに回復を――」


『ボウヤ、さっきからうるさいわねえ』
















































 えいじがまっぷたつになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ