真剣勝負 前編
オブジェちゃんの心を弄んだ悪い俺は、シーナと一緒に宿への帰路を歩いていた。
どことなく俺を見るシーナの目が3割増しくらいにきつい気がするが多分気のせいだろう。
だが無言でずっと見つめられているこの状況も落ち着かない。
しょうがない。こっちから話を振ってみるか。
「おい。さっきから俺をずっと見ているが、もしかして俺に惚れてんのか?」
「誰もあんたなんかに惚れてなんかないわよ! いきなり何言い出してんのよ! 死ねば!」
うん。
罵倒もなんか3割増しでキツイ気がする。
一体何が悪かったんだろうな。スキルを手に入れたことで俺のテンションはこんなに高いのに。
「わかったわかった。全部俺が悪かった。謝るから許してくれよ。なっ?」
俺はとりあえず謝ってみた。
こういうヒステリックな女は何を言っても怒り出す。
だったらもう謝って謝って謝り倒すほうが被害は少なくてすむもんだ。
「……今あんたとりあえず謝っとけばこのヒステリックな女相手には被害が少ないとか考えてなかった?」
「俺の心を読むとは。まさかてめえ、エスパーか」
「エスパーじゃないわよ! てゆーか本当にそんな事考えてたとか失礼すぎない?!」
「黙れ。人の心を勝手に覗き込みやがって。ぶっ飛ばすぞ!」
「逆ギレ?!」
逆ギレとは失礼な奴だな。
世が世ならてめえは心の住居侵入罪で現行犯逮捕されているところだ。
俺の心の間取りが広くて命拾いしたな。
「あんた朝から一体なんなの!? 最初会ったときから人を上から目線でおちょくる嫌な奴だとは思ってたけど!」
「マジか。いつもはニヒルな笑みがクールに決まるよう心がけてたんだがな」
「全然あんたのイメージと違うわよ! なんなの?! ニヒルでクールとかわけわかんないカッコつけちゃって!」
「おい、俺のアイデンティティを馬鹿にするな」
いつも心の中でそうなるよう勤めていたのに傷つくわ。
「それに大丈夫だ。俺がおちょくるのはオブジェちゃんとシーナだけだって決めてるから」
「オブジェちゃん?! あんたもしかしてあのよくわかんない物の事オブジェちゃんって言ってんの!? てゆーか私をそれと同列にして語らないでよ!!! てゆーかそのおちょくる枠から外しなさいよ!!!!!」
ツッコミ長いな。
減点5だ。
「てゆーかてめえてゆーか言いすぎだろ。てゆーかもっとバリエーション増やせよ。てゆーか更に減点10」
「私の真似しててゆーか言うな!!! てゆーか勝手に点数つけて減点すんな!!!!!」
「わかったわかった。しょうがねーからおちょくる枠からオブジェちゃんを外してやるよ」
「そっちじゃないわよ!? なんでオブジェの方外してんのよ! 私の方をおちょくる枠から外しなさいよ!!」
「オブジェちゃんと同列じゃ嫌なんだろ?」
「おちょくられるのが嫌なのよ!!!」
「ワガママな奴だな」
「ワガママじゃないわよこれは!!!!!」
シーナは俺の隣を歩きながらプンスカキーキー言っている。
「そんなに怒ってると顔にしわができるぞ」
「いつも眉間にしわ寄せてるあんたに言われたくないわよ!!」
「いいんだよ俺は。俺がそうしたいからそうしてるんだからな。あ、そうか。シーナは怒るのが趣味だったか」
「趣味じゃないわよ!? 誰がそんな悪趣味な趣味持つっていうのよ!!」
「えっ」
「そこで真顔になって私見るのやめてくんない?!」
なんだ、違ったのか。
毎年全国おこりんぼう選手権大会にシード参加してるわけじゃないのか。
「シーナならそのおこり道を極めれば世界を狙えるとコーチは言っていたぞ」
「私に何を極めさそうとしてんのよ!!! てゆーか適当にコーチとかわけわかんない人物勝手に増やさないでくれる!?」
ダメだった。
どうやらシーナのおこり道はまだまだこれからのようだ。
「走れシーナよ。お前のおこり道はまだ始まったばっかりだ!」
「走んないわよそんな道! 勝手に打ち切り風にして終わらすな!!」
「そうだよな! シーナのおこり道はこれから始まるんだよな!」
「そっちじゃないわよ!? 話の方を終わらせるなって言ってんでしょ!!!」
「なんだよてめえ。俺ともっとトークしたいってか? おいおい照れるぜ」
「照れんな!!!!! 話を一旦区切らそうとするなって言ったんでしょ!! 勘違いすんな!!!!」
「なんだてめえ、ツンデレか」
「違うわよ!!!!!!!!!!」
その後もずっとシーナは隣でキーキーガーガーうるさかった。
やっぱコイツおちょくりがいがあるな。
そうして俺とシーナが宿へと後5分で到着するかという時に、シーナは俺を見ながら真剣味のある声を発した。
「……それで? あんたから見て私はどうだったのよ?」
「んあ? そうだな、まだまだ怒り方とツッコミのキレがイマイチなんじゃないか?」
「そっちじゃないわよ!? さっきまでの話のやりとりについてじゃないわよ!」
「遠巻きにして見ている分には面白いが友達にはしたくないタイプ」
「そういうことでもないわよ!! てゆーかその評価も酷すぎない?!」
「正当な評価だ。俺議会が満場一致でスタンディングオベーションするレベルだ」
「その俺議会っての汚職疑惑あるから即刻議員に鉄槌を下したほうが良いわよ?」
そうシーナは握りこぶしを俺に向けて脅しをかける。
やめろ。
議会に参加した議員は正当な選挙によって俺国民から選ばれた正当な議員なんだ。
我々は脅迫めいたテロ行為を断固として非難する。
「つーかてめえのDEXじゃ俺に攻撃当てられねーだろ」
「ぐっ……!」
シーナは悔しそうに拳を下ろした。
そうだ。それでいい。馬鹿な真似はするものではない。
テロ行為を起こしたテロリストの末路はほぼ全てが死刑なのだ。
俺は勝ち誇った笑みをシーナに向ける。
「フッ」
「なんなのその笑みはムカつく!!!!!」
「うおおおおおおおお!?!?!?」
シーナはキレて俺に殴りかかってきた。
……が、3発攻撃がすり抜けたあたりで殴るのをやめた。
「ぐうううううううぅぅぅぅっ!!」
「悲しきかな、これが俺らのさだめだ」
当たらない攻撃ほど虚しいものはない。
俺とシーナは奥歯を噛み締めてこの現実と向き合った。
「だが俺らはいつまでもこうしていられない。さあ戦おうじゃないか、運命と!」
「そんなのとは勝手にあんた1人で戦ってきなさいよお! なんなのよあんたはあ!!」
シーナに少し泣きが入ってきたようだ。
やれやれ、手のかかるお嬢さんだ。
「あんただってDEXないでしょおおお!?」
「いやでも俺この弓あるし」
「うわああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁん!!!!!」
ガチ泣きされてしまった。
いや、うん。マジごめん。




