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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
2番目の街
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シーナ

 俺がぶっ壊した岩の近くには一人の女が倒れていた。


「お、お、お、おい、あ、あれは、俺がやっちゃっちゃったんじゃないよな?」


「い、いや……多分お主だと思うぞい……」


 お、おう。


 も、もしかして、俺、やっちゃった? やっちゃったのか?


 ちょ、まてや。


 俺そんな覚悟できてねえよ。


 殺す覚悟なんてできてねえよ。


「つーかまだ生きてる可能性だってあんだろ!!! ちょっと見に行くぞ!!!!!」


「う、うむ!」


 俺とバルは急いで倒れている女に駆け寄った。


「ど、どうだ? 見た感じどこか体の一部が吹っ飛んだとかいうような様子はないが……」 


「わからんのう……気絶しているようじゃが、とりあえず回復薬でも掛けてみるかの」


 バルはそう言うと回復薬を取り出して女に振りかけようとした。


「…………ハッ!」


 ……回復薬が女に降りかかろうとしたその瞬間、女は突然目を開き……そして女が消えた。


「……は?」


「……へ?」


 俺は目の前で起きた現象に目が点になった。

 バルも多分俺とおんなじ顔をしているだろう。


 さっきまで目の前で倒れていた女が消えた。

 なんで? どこに? どうやって?


 俺らは何か精神攻撃でも受けていたのか?

 狐か狸にでも化かされていたのか?


「ちょっと! いきなり人の顔に変なのかけようとしないでくれる!?」


 と、女らしき声が俺らの後ろから聞こえてきた。


「は?」


「は? じゃないわよ! いきなり目の前の岩は爆発するし怪しい奴らからは何か変なのかけられそうになるし! もう今日の私散々じゃない!!!」


 俺らが後ろを振り向くとそこには一人の女が立っていた。

 身長は160ちょいくらいだが足が長くて出るとこは出て引き締めるところは引き締めているモデル体系、黒い髪はボサボサになったのをポニーテイルにして無理やり纏められたような具合で、黒目で勝気なやや鋭い目つきをした、皮の装備で身を固めた女だった。


 つーかコイツ、さっきまでここに倒れてた奴じゃねえか!


「い、生きてたのか……」


「はあ!? あんた何言ってんの!? それって私に言った!?」


「そ、そうだよ。悪いか」


「私がそんな簡単に死ぬわけないでしょ……っていきなり泣き出さないでよ?! なんなのあんた!?」


「すまん。ちょっと取り乱した」


 いかんいかん。

 俺が泣く時は嬉し泣きだけだと俺の流儀として心に誓っていたというのに。

 ……あれ? それじゃあ今はいいのか?


 って今はそんな事考えてる場合じゃないか。

 今はコイツがどこか怪我をしていないかを聞くことの方が先だ。


「な、なあ。どこか悪いところはないか? 例えば頭とか」


「あんた今遠まわしに私の頭が悪いとか言わなかった?!」


「言ってねえよ! てめえ勘違いすんじゃねーよ!」


 何だコイツは! 俺が珍しく人を気遣う言葉をかけたってのに!


「もしかして今の発言は岩が爆発した時にどこかぶつけたかって私に聞いたの?」


「もしかしなくてもそうなんだよ」


「ふん! 私も甘く見られたものね! あの程度の岩の破片、私くらいになれば余裕で避けられるのよ!」


「……じゃあなんで倒れてたんだよ?」


「うぐっ!」


 俺の言葉に女は苦い顔をしつつそっぽを向いて口を閉じた。


「……なんでそこで黙る」


「う、うるさいわね! あんたたちなんかに関係ないでしょ!」


「う、あーそ、そうなのか、な?」


 俺はあやふやな言葉を返してバルを見る。


「……いや、わしを見られても困るんじゃが……」


「まあ、そう言うなよ」


「そうじゃな……この際じゃからちゃんと説明したほうが良かろう」


 やっぱり言うのか。

 まあしゃあねえか、俺が悪いんだし。


「あーなんだ。俺はリュウっていうんだが、さっき岩が爆発したって言ったよな? それ、俺のせいなんだ」


「は?」


「さっきモンスターを弓矢で倒しててな、その流れ矢がたまたま岩に当たって、それが爆発したように見えたんだろ」


「……は?」


 目の前の女は周りを見回して矢の起こした惨状を確認しているが、俺の言うことがイマイチ理解できていないらしい。

 それも仕方ないか。岩というか地形が変わってるレベルの攻撃だもんな。

 普通だったら信じないかドン引きだ。


「ちょ、ちょっと! ふざけたこと言わないでよ! なんか岩どころか地面まですごい抉れてるじゃないの! こんなのをただの弓矢で作ったってあんたは言いたいわけ!?」


「悪いか?」


「べ、別に悪いとかそんなんじゃなくて……こんな大規模な攻撃の痕は見たことないけど、あんたなんのスキルを使ったのよ?」


「攻撃力についてなら『オーバーフロー』っていうスキルだが」


「どんな効果?」


「1分間攻撃力4倍」


「……こ、攻撃力を4倍ってそれも凄いスキルだけど、それだけでこんな風になる普通? 攻撃スキルと併用したんじゃないの?」


「してねーよ。しいて言うなら命中関連のスキルは使ったが」


「……ふーん?」


 女は俺の顔をじろじろ見て疑うような仕草を見せる。

 そんなジト目で見られても何もでねえよ。


「んで、今度はこっちの番だ。てめえは何で岩に当たらなかったのにあそこに倒れてたんだ? てかてめえはあそこで何してたんだ? 一応俺らはモンスターと戦う前に周りを一通り見て周囲に誰もいないことは確認してたぞ」


 俺はそう言って目の前でジト目で見てくる女にジト目で見返す。


 一応俺も毎回流れ矢が他のプレイヤーにいかないよう注意はしてるんだ。

 例え武器スキルでモンスターに必中なのがわかっていたとしてもだ。


「だ、だから別にいいでしょ?! 私があそこで何をしてようとあんたたちには関係ないわ!」


「うーん、だけどなあ……」


「リュウ。もうその辺にしておくがよいぞ」


「バル?」


 なぜか自らの行動を黙秘し続ける女から俺を遠ざけるようにバルは俺の体を引っ張った。


 まるでこの女に何かがあるといわんばかりに。


「バル、一体どうしたんだ?」


「どうしたもこうしたもないのう。わしにはわかったぞ、こやつがここでどうしておったのかを」


「え?! あ、あんたなんかにわ、私の何がわかるっていうのよ!」


「? バル、てめえ何かわかったのか?」


「うむ、わしだからこそわかった。こやつ、臭うぞ」


「!?」


「……は?」


 におう……?



 …………!



 もしかしてコイツ! 俺らに何か危害を加えようとして陰から監視を!?

 怪しい奴だと思ってはいたが、まさか俺らを襲おうとしてたってことか!


 俺は咄嗟に身構える。



「お、おいバル……コイツは一体――」


「お主、行き倒れておったな? 体を洗っていないせいで臭うぞい」


「うそっ?!」


「…………」



 …………は?




「大方、手持ちの金が尽きて何も食べる事ができず、ここで腹をすかせて岩陰に座り込んでいたんじゃろう」


「くっ!」


「……」


「それで突然岩が爆発して、かろうじて岩の破片をかわしたものの、腹が減ってそのまま倒れてしまったというところではないかの?」


「……あんた、なかなか鋭いじゃない。バル?とかいったっけ? やるじゃない」


「……」


「ふっ。なあに、わしも行き倒れに近い時期があっての。わしの場合は街で臭いと言われてからは外の川で一人こっそり水浴びをしておったが、この辺りでは一人で水浴び出来そうな所もなさそうじゃしのう」


「くやしいけど正解よ。くっ! こんな事を赤の他人に知られるなんて!」


「……」


「なに、恥じることはないぞい。全てはこの世界にわしらを招いたあの影が悪いんじゃ」


「そうよ! 私がこんなひもじい思いをしているのは、全部全部あのゲームマスターとか神とか名乗ってるあの影が悪いんだわ!!」


「……」


「ふふふ。ここであったのも何かの縁じゃ。どうじゃ? わしらはそろそろ昼食にするが、お主も食べていかんか?」


「え!? でも……今私お金持ってないし」


「……」


「よいよい、わしらは金のない者から更に金を毟ろうとするほど金には飢えておらん。それに2人より3人で食したほうが場も盛り上がるというものじゃろう?」


「あ、あんた……顔は隠してて怪しい奴だけど、結構いい奴ね。そ、そういうことなら私も一緒に食べてあげなくもないわよ!」


「……」


「ふふふ。お主もなかなか素直じゃないのう。どれ、では昼食は向こうの岩陰ででも済まそうかの。ついて来るんじゃ」


「あ! ちょっと! 待ちなさいよ!」


「……」





 …………………………………………………………………………。





「臭いってそっちのことかよ!!!!!!!!!!」


 俺は力の限り叫んだ。









 俺とバルと女はそのままなし崩し的に昼メシを食う事となった。


「そういえばお主の名前をまだ聞いておらんかったの。名はなんと言うんじゃ?」


 バルは包丁片手に野菜を切りつつ、行き倒れていた臭い女に名前を聞いた。


「あ、そういえば言ってなかったわね。ゴホン、私の名前はシーナよ! 覚えておきなさい!」


 臭い女、もといシーナはそう自分の名前を俺らにドヤ顔で告げた。

 つか腹減ってるのにコイツすげえ元気だな。空元気かもしれねえけど。


「そうかシーナか。よろしくじゃ。ゴホン、そしてわしの名前はバルムント・C・フレアデス! 二つ名は『鉄壁』じゃ!」


 バルも負けじと包丁を天にかざして高らかに自らの名を名乗った。

 てめえら何を競ってんだよ。


「バルムント……? どっかで聞いた気が……あっ! あんたそれって『ロードラ』の老騎士の名前じゃない!」


「ほほう、小娘にしてはなかなか記憶力がいいようじゃのう?」


 ……ロードラ?

 シーナはバルの名前のネタがわかるのか?


「ちょっと! 今私の事馬鹿にしなかった!? てゆーかキャラネームをその老騎士から取るなんて、あんたのチョイス渋すぎない?」


「む、やはり小娘にはあの騎士としての有様は理解できんようじゃのう?」


「はぁ? あんた何言ってんのよ!? あんただって顔隠してるけど小学生くらいの女の子でしょ?!」


「な! 失礼な! わしは小学生などではない! 14歳のれっきとした中学2年じゃ!!!」


 マジか。

 今まで小学生だと思ってたぞ俺は。


「ふーん、あっそ。ちなみに私は高2の17歳よ。もっと年上を敬いなさい!」


 コイツはコイツで俺とタメかよ。


「黙るがよい! 年上だからと調子に乗りおって! それ以上言うとお主の昼食は肉が食えんぞ!」


「な!? あんた私を脅す気?!」


「ふっふっふっ、ほれどうする? その餓えた胃袋には肉がさぞ魅惑的なものに思えることじゃろう? 素直に降参すれば肉を分けてやらんこともないぞい?」


「くっ! 卑怯者! そんなに私を屈服させたいわけね!」


「ほれほれ意地を張っているとお主の肉の取り分が少なくなっていくが、それでもいいのかのう?」


「うぅうぅう!!!!」


「てめえらなんだかんだで仲良くなりすぎだろ」


 思わず俺はそう突っ込んだ。

 つかコイツら二人でどんどん話を進めやがる。俺の話す暇がねえ。


「てか、シーナ……とか言ったか? てめえはバルの名前のネタ元知ってるのか?」


「知ってるも何も世界的に超有名な映画に出てくる名前じゃない。むしろ知らないほうがおかしいわよ」


「ふ、ふーん」


 やべえ。一般常識だったのか。

 全然映画とか見てなかったから知らなかった。

 バルに前ロード・オブ・ドラゴン、略してロードラか、その映画作品から理想像を得たっていう話は聞いてたが、その時もピンと来なかった。


「てゆーか何でバルムント? たしかにあの老騎士は作品の中でも2番目に人気だけど、それは大部分が男性層だって話じゃない。私がその作品から名前をとるんだったら1番人気の主人公、オルトの名前をキャラにつけるわよ」


「そういうミーハーなところが小娘じゃと言っておるんじゃ! オルトこそ女性人気だけで1位に上り詰めたような軟弱男じゃろうが! いつもいつもバルムントの後ろに隠れおって! 最後までバルムントに助けられて全く成長しておらんではないか!!!」


「なによ! 私は別にミーハーとかじゃないわよ! ただ一般的な事実をあんたに教えてあげただけじゃない!」


「なんじゃと!」


「なによ!」


 二人が今度は作品のキャラ人気で争いを始めやがった。

 そんな事キーキー言われても俺にはわかんねえよ。


 俺はその後も続くキャラ論争を遠くから生暖かく見守った。


 メシはまだか。

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