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それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
2番目の街
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オーバーフロー

「10問正解おめでとうございますッス! これであなた方はスキルを習得することができるようになったはずッス!」


 スキル道場門下生見習い(仮)はそんな事を俺らに言ってきた。

 そして頭の中でポーンと音が鳴り、『メニュー画面にスキルの項目が追加されました』、『スキルポイントの使用が可能になりました』というメッセージが表示された。


「ん? スキルポイント?」


 スキルポイントか。さっきのクイズでもその名前はあったな。

 確かレベルが上がることによってスキルポイントは増えていって、そのスキルポイントを消費することでスキルが獲得できるんだとか。

 勿論スキルがなんでも手に入るわけではなく、自身の才能に合ったスキルしか習得できないらしいけどな。


「スキルは基本、メニューにある『スキル』の項目で自らの所有するスキルポイントを消費することによって獲得できますが、その他にも特定の条件を満たすことによってスキルを得る事も可能ッス!」


 特定の条件ねえ。

 正拳突き1万回とかそんなのか。

 ここの師範代を倒すとかでも何か手に入りそうな気がするな。やらねえけど。


「その他にスキル自身も条件を満たせば進化する場合があるッス。一番良く知られている方法がスキルポイントを既に持っているスキルに上乗せして消費することッス」


 なるほどな。

 それだったらスキルをバンバン取得するよりも1つ2つのスキルに絞ってスキルポイントを注ぎ込むという考え方もありか。


「まあ大体スキル獲得のやり方はわかった。あんがとな」


「いえ! これも修行のうちッス!」


 そうして俺はメニューから新しく追加された項目『スキル』の欄を開いてみた。

 すると、俺が習得できるスキルがズラッと表示される。

 それと同時に空のスキルスロットが3つ表示される。

 つまりスキルは現時点では最高3つまで取得可能ということか。


「おお、結構あるな」


 俺は習得できるスキルを順々に読んでいく。


 なになに?


 スキル使用時、自身の攻撃力を1時間20パーセント増加させる。

 スキル使用時、自身の攻撃力を30分間30パーセント増加させる。

 ……スキル使用時、自身の攻撃力を10分間50パーセント増加させる。


 …………。


「攻撃力あげんのばっかじゃねえか!!!!!」


 ふざけんな!

 これ以上俺の攻撃力を上げさせてどうすんだよ!

 これはあれか? STR特化の俺に対する嫌がらせか!?


「リュウ,落ち着くがよい。わしも防御力アップが殆どじゃが、他にもちゃんとしたスキルはあるぞい」


 バルになだめられて俺は再びスキルを確認する。

 すると確かに攻撃力アップ以外にもスキルがある事が確認できた。


「『アイテムボックス拡張』……俺には必要ないな……」


 バルには必要かもしれないが、少なくとも今は俺が荷物を持つという事でバルも納得しているから多分取らないだろうな。


 俺は更に他のスキルを読む。

 すると攻撃スキルなるものを発見した。


「へえ、『スラッシュ』か。あ、でもこれ剣装備じゃないと使えねえのか」


 特有の武器専用のスキルか。

 だったら弓専用のスキルもあったりすんのか?


 俺はどんどんスキルを読み込んでいく。


「『アロースプラッシュ』か。なかなか強そうなスキルだな」


 矢を放つと分裂して弾幕のように周囲を攻撃するスキル……か。

 見た目ハデそうだしこのスキルは欲しいな。


「……ありゃ? スキルが選べねえ」


「レベルかスキルポイントが足らんのではないか?」


「……マジだ」


 注意書きに『レベル30以上から使用可能』とか書いてやがった。

 くそっ、こういうところでもスキル取得の制限がついてんのかよ。


「他になんかいいスキルはねえかな……と」


 その後もなんとなくスキルを眺めていくと、一つのスキルが俺の目に入った。


「『オーバーフロー』か」


 スキルの効果は『スキル使用時、自身の攻撃力を1分間300パーセント増加させる。ただしその間防御力は90パーセント低下する。』か。


 これも攻撃力アップのスキルだが、その攻撃力の上昇具合が桁違いだ。それに元々防御力が紙な俺にとってこのスキルのデメリットはあってないようなもんだ。

 今はまだこの辺のモンスターなら一撃で葬れるが、始まりの街で出てきたブラックゴーレムのようなイレギュラー相手にこのスキルは重宝するかもしれない。


 他にめぼしいスキルもないし、ひとまずはこれをとっておくか。

 聞いた話じゃある程度の金を払えばスキルをスキルポイントに戻してくれるらしいしな。

 とっておいて問題はないだろう。


 俺はスキル『オーバーフロー』を取得した。

 後の二つはまた後で考えよう。


 そうして俺らはスキル道場をあとにした。






 スキル道場を出た俺らはとりあえず街の外に行き、スキルの使い心地を確かめることにした。


「そういやバルは結局どんなスキルを取ったんだ?」


「ふっふっふっ。良くぞ聞いてくれたのう! 本当なら道場にいる時点で聞いてくれても良かったのじゃぞ!」


「なんだよ。そんなに良いスキルが手に入ったのか?」


「そうじゃ!」


「ふーん」


 俺はまだピンと来たのが『オーバーフロー』の1つだけだったからあんま嬉しくはないんだが、バルにとっては違ったのか。


「それじゃどんなスキルとったか教えてくれよ」


「うむ! まずはパッシブスキルの『敵視』じゃな。これはモンスターの目をわしに引き付けるスキルじゃ。まあタンクには必須じゃの」


「へー。なかなか便利そうだな。それって自動的に発動するスキルなんだろ?」


「そうじゃ。じゃがその代わりこのスキルでそこまでヘイトを溜める事はできんのじゃがのう」


「ヘイト?」


「モンスターの攻撃優先度を決定する要素じゃよ。このヘイトを稼いだプレイヤーにモンスターは攻撃を仕掛けてきやすくなるんじゃ。ヘイトが溜まる方法はモンスターに攻撃したり味方を回復したりと様々じゃな」


「あーなるほどな。始まりの街で出たゴーレムが途中から俺に向かってきたのは俺にヘイトが溜まってたからか」


 あの時はなんとかバル達がゴーレムの足を止めてくれたから俺に攻撃が来ることはなかったけどな。


「そうじゃの。そしてわしが取得した2つめのスキルは『ロイヤルガード』じゃ。このスキルは使うと攻撃力が半減するが防御力が2倍になると言うものじゃ。効果時間は20分じゃから、スキルを使いながらそれなりに長い時間盾役がこなせるぞい」


「へー」


 防御力アップ系か。

 なんとなく俺の『オーバーフロー』と効果が似ているな。

 まあ効果は攻撃力と防御力が真逆に作用するが。


「そして! わしが3つめのスキルとして選んだのが! わしの二つ名と同じスキル『鉄壁』じゃ!!!」


「おお! ……てそれただ単に自分の二つ名と同じだからっていう理由で選んだわけじゃねーよな?」


「そ、そんな事あるわけないじゃろろ!」


 ……本当かよ。

 今声が震えてたぞ。


「この『鉄壁』というスキルはじゃの! 敵から攻撃を受けてHPがゼロになる場合に発動し、その攻撃を無効化してくれるという優れものなんじゃ!」


「マジか。そいつは確かにすげーな」


 デスゲームとなったこの世界で九死に一生を得ることができるそのスキルは間違いなく良スキルじゃねえか。


「ただクールタイムが24時間じゃからこのスキルに頼りっきりという事にはなれんのじゃがのう」


「24時間か……少なくとも1回の戦闘で使えるのは1回限りだな」


「そうじゃな」


 てか当たり前か。

 こんなに良いスキルがポンポン使えるとかなってたらゲームバランス狂っちまうよな。


「だが保険として持っておく価値はあるな、そのスキル。かなり有能だし」


「じゃろ! わしに似てこのスキルも有能じゃろうて!」


「うっせ。ちゃっかり自分を持ち上げてんじゃねーよ」


 なんかコイツはスキルの話が絡むとかなりウザいな。

 ホントはコイツ、本性は大人しいやつじゃなくてかなりのお調子者なんじゃねえの?

 いっぺん兜を没収して一日コイツを観察してみるか?


 ……まあいいか。

 コイツも俺に何かものを教えることができて嬉しいんだろうよ。

 いつもは俺が上から目線で説教してたからな。鬱憤も溜まってたんだろう。


 とにかく今はスキルがちゃんと発動するかのテストをするのが先だ。


「それでお主はどんなスキルを取ったのかのう?」


「あー、俺はまだ一つしかとってなくてな。『オーバーフロー』っつって1分間攻撃力を4倍、防御力を10分の1にするスキルだ」


「……お主、それ以上攻撃力を高めて何と戦うのかの? この辺りのモンスターでお主の攻撃に耐えられるものもおるまい?」


「そりゃ勿論魔王共とさ」


 俺の答えにバルは納得したという様子で手をポンっと叩いた。


「ああ、そういう考えもありじゃったか。先のゴーレム戦を振り返っての選択じゃな?」


「まあそういうこった」


「とりあえず話はここまでにしてスキルが発動するかの確認をしよーぜ」


「うむ、そうじゃの」


 そうして俺らは荒野を歩き回る。

 時々他のプレイヤーと出くわすが、軽く会釈をして通り過ぎる。

 始まりの街でも外でよく見かけてたが、やっぱこの辺りもプレイヤーが多いな。


 そんなこんなで荒野を歩き回ること十数分、俺らは1匹のでかい芋虫型モンスターと遭遇した。

 コイツは芋虫の形をしている割に移動速度が速い。複数の脚がシャカシャカ動く様に生理的嫌悪を覚える。


「まずはわしからかの。『ロイヤルガード』!」


 バルがそう叫ぶと、バルの全身が青いオーラに包まれた。

 そして芋虫がバルに向かって体当たりを仕掛けてくる。


「効かぬわ!」


 バルは手に持った盾を芋虫に向けてその場で構えると、芋虫の攻撃を盾で完全に防ぎきった。


 すげえ、バルはその場から一歩も動いていない。

 完璧に威力をその場で殺したんだ。


「ふむ。確かにこれはなかなかの防御力じゃな。元々こやつから攻撃を受けてもダメージなど入らんが、ここまで完全に攻撃を押さえつける事は昨日までのわしでは不可能じゃったぞ」


 そういうバルは既に力を抜いていて余裕そうだ。

 しかしバルに盾で抑えられた芋虫はその場から僅かに動くことすらできない。


「では次はお主の番じゃ。このモンスターは放したほうがよいかの?」


「ああ、そうだな。そうしてくれ」


「了解じゃ」


 バルは芋虫から盾を離すと、芋虫は一旦距離をとるためにか俺らに背を向けた。


「それじゃあちゃんと見てろよ。これが今の俺の全力全開フルパワー! 『オーバーフロー』!!!」


 俺が叫ぶと途端に俺の周りから赤いオーラが吹き出てきた。俺の視界が赤く染まる。

 それと同時に体の中から燃え上がるような熱いエネルギーが感じられ、そしてそのエネルギーは体中に廻り、俺にかつてない力強さを与える。


「……すげーなこりゃ。まるで何でも一撃で倒せそうな気がしてくるぜ」


 とは言ってもそれは俺の錯覚だけどな。

 攻撃力4倍じゃああのブラックゴーレム相手だとまだ20発は攻撃しないと倒せないだろう。


「それだけで倒せるなら十分っていう話かもしれねーけどな」


 とりあえず今はそんな事を考えている時じゃない。

 俺は弓と矢を持って遠くに離れていく芋虫の方を向く。


 ちなみに今回使う矢は鉄製の矢だ。

 さっき街を歩いていた時に武器屋で1本10Gで売っていたのを見かけて買ったものだ。

 木製の矢にはATKが付いていなかったが、この鉄の矢にはATKが5だけ付いている。

 つまり今の状態が正真正銘俺の最強の攻撃力という事だ。


 そんな鉄の矢をギリギリと弓で引いていく。


 そして十分弓の弦を引いた次の瞬間、鉄の矢を芋虫に放った。


 その矢は俺の元から離れた直後には芋虫に命中し、芋虫に大きな風穴を開けてなお貫通した矢はそのまま遠くの岩に当たり、……その岩すらも木っ端微塵に吹き飛ばして、下に向いた矢が地面を数百メートルえぐり、やがて止まった。


「…………」


「…………」


 おい。


 いくらなんでも威力ありすぎだろ。

 矢を放った方向、地形が変わってるじゃねえか。


「のう、リュウよ」


「なんだ、バル」


「そのスキルはいざという時が来るまで使用を控えてみてはどうじゃろう」


「奇遇だな。俺も今そう思っていたところだ。まさかてめえ、エスパーか」


「いやエスパーじゃなくてもそう思うぞい……」


「……だろうな」


 流石にこれはない。

 こんな攻撃を毎回ポンポン使っていたら傍にいる奴まで巻き込みかねない。

 そしてこんな攻撃に巻き込まれたらバルみたいな奴以外は大抵死ぬだろう。


 周囲の環境破壊にも繋がりかねないし、これは少し使うタイミングを考えたほうがいいな。


 そうしているうちに効果時間の1分が過ぎたのか、俺の周囲を纏っていた赤いオーラが空中に溶けて消えていった。

 ……クールタイムは10分か。一つの戦いで連続使用しようと思えばできないことはないっていうくらいの時間だな。


「『オーバーフロー』はしばらく封印だな。いくらモンスターに弓でロックオンしているとはいえ、人が近くにいて撃つもんじゃねーよ」


 俺は別に人殺しになりたいわけじゃねえしな。

 取り扱いには十分注意だ。うん。


「…………」


 俺がそう考えている間、バルは俺が破壊した岩の方をじっと眺めていた。

 そこに何かあるのか?


「どうかしたかバル?」


「……いや、その……なんじゃ。少し言いづらいのじゃがのう……」


「な、なんだよ」


「今お主が壊したあそこの岩のところ……人が倒れておらんか……?」


 ………………………………



 ……………………



 …………















 えっ






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