表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも俺は  作者: 有馬五十鈴
一章 始まりの街
13/140

犯人像

「重症って話だったが案外簡単に会えるもんなんだな」


「まあ複数の男が犯人と証言しておるからな。ある程度は話せる状態なんじゃろう」


 俺らは病院へと辿り着いて目撃者のいる病室を受付で教えてもらい、今はその病室の前にいる。


 つかファンタジーの世界なのに看護師がナース服を着ていたぞおい。病院はゲームに出てくるような木製の建物なのに。

 この世界はちょいちょい現実世界で見かけるものがでてきて俺のテンションを下げさせる。

 開発一体何考えてんだ。


「……それじゃあ入るぞ。一応怪我人相手だからその辺てめえも考慮して話せよ」


「それくらいお主に言われんでもちゃんとわかっとるわい」


 俺は病室のドアをノックしてゆっくり開く。

 部屋の中には手足にギブスをはめて包帯でぐるぐる巻きにされた青い髪の男がベットに寝ていた。

 一瞬眠っているのかと思ったがベッドに寝ている男が此方を見る目と合って、起きていることを理解しホッとする。


 しかしその男は俺の後ろを見ると途端に脅えだしてベットから落ちそうになる。


「ひっヒイイイイイイ! 来るな! こっち来るなああああ!」


「ちょ、おい! 落ち着けって!」


 俺は咄嗟に男を押さえつけて落ち着くよう促す。

 バルはどうしていいかわからず、辺りをウロウロしている。

 だがそのウロウロしているバルを男は目を見開いて凝視している。


「おい! 何か勘違いしてるようだがちゃんと見ろ! 俺らはてめえの敵じゃねえぞ!」


「ひぇ……え?」


 男は俺らを交互に見た後深呼吸する。

 どうやら落ち着いてくれたようだ。


「あ、ああ。どうもすみません。もう大丈夫です」


「そうか。いきなり悲鳴を上げるから驚いたぞ」


 俺は一息ついて近くにあった椅子に腰を下ろした。


「申し訳ない。その……あの子の被り物を見て少し動揺してしまいました」


「あ? てめえあの兜が怖いのか?」


「はあ、まあそうですね。昨日私を痛めつけた男達がみんなその兜を被って顔を隠しておりましたので……」


「なに! お主、それはまことか?」


「は、はあ。そうです。あなたが今被っている兜に間違いありません」


「なんと……」


「ついでに男達の服装と人数なんかも思い出せるか?」


「確か……私が見た男達の人数は7人で全員同じ物を着ておりましたよ」


「マジか。どんな服装だったんだ?」


「ええとですね……」


 俺の質問に男はうんうん唸って思い出そうとし、そしてどういった服装だったのかを俺らに細かく教えてくれた。


 俺はその服装の話を聞くと、ある装備一式の姿が頭に浮かんだ。

 その装備は『鋼シリーズ』。この街で手に入る最高の防具だ。


 そして更に俺は、ある一つのパーティーを思い出す。


「私が覚えているのはこれくらいです」


「あ、ああ、これだけのことを教えてくれたんだ。十分すぎるくらいだぜ」


「それならよいのですが」


 俺は心の中で渦巻く感情の流れを隠しつつ席を立つ。


「それじゃあ俺らはもう行くな。情報提供感謝するぜ。それとまだ傷も癒えてないのにいきなり訊ねて悪かったな」


「いえ、私も早く犯人達には捕まってほしいですからね」


「うむ。わしらが必ず捕まえるゆえ、安心して療養に励むがよい」


「は、はあ」


 そうして俺らは病室をあとにした。



 なあ、本当にてめえらが犯人じゃねえよな?

 てめえらは確かにあくどい事してたが、ガチでヤバイ集団じゃねえよな?


 これは、ただの俺の思い過ごしだよな?






 病院から出た俺らは宿に戻る前に、夕方になるまで街の出入り口周辺で狩りをした。

 その時は運が良かったのか周りには誰もおらず、そこはしばらく俺らの独占状態だった。

 なので朝の時より短い時間でありながらもそれなりの数のモンスターを狩ることができ、俺らは二人ともレベル5になった。


 しかし俺の真の目的についてのタイミングは悪かったようで、結局そこではただ黙々とモンスターに石袋をぶつける作業だけに留まった。


 夕方になったため、俺とバルは予定通り宿へと戻った。


「なんじゃお主。病院で話を聞いてからずっと怖い顔しとるのう」


「そうだよね。なんか不機嫌そう」


 宿へと戻った俺らはガントへの挨拶もそこそこにして食堂に来ていた。

 そして隣にいるバルとレイナは俺を見てそんなことを言ってきた。


「うっせえよ。俺はいつもこんな顔だ。つかレイナは仕事しろ。また怒られるぞ」


「むー、わかりましたあ」


 レイナはしぶしぶ厨房に引き返していった。

 あいつは隙あらば俺らの会話に潜り込んでくるな。


 そうでなくとも俺がいない間にもバルとは話したりしているようだし、こいつら友達にでもなったのかね。

 まあ年齢も近そうだし仲良くもなるか。若干レイナがごり押しで仲良くなっている気がするが。


「ふむ、確かにお主はいつでも眉間にしわを寄せているのう。疲れたりせんのか?」


「ふんっ、別に疲れたりなんかしねえよ」


「そうか」


 俺のそっけない態度にバルはそれ以上話を振ることはなかった。

 今日の夕メシはカツ丼だ。

 俺はそれを無言でかき込む。

 バルも兜を脱いでカツ丼を黙々と食べ始める。


 もう俺が後ろを向いてなくても大丈夫なんだな。

 俺がバルを見ていてもバルは気にした風もなく頬にご飯粒をつけている。


 まあ噴水前でおやつタイムをした時も俺のプリンケーキの半分を食べるために兜を外してたりするしな。

 こいつももういい加減慣れたんだろう。


「ハァ……頬にご飯粒ついてんぞ」


 俺はバルの頬についたご飯粒を手で摘まんでそのまま自分の口の中に放り込む。


「ひぇあ! ……ぁの……その……」


「? 何だよ」


「いぇ……その……何でもありません……」


「? おう」


 なんでもないと言いつつもバルの箸は止まり顔を俯かせている。

 どことなく顔が赤い。

 なんでだ?




 あ




「すまん。つい妹にやるみたいに接しちまった」


 なんか普通にご飯粒取って食ったが、いきなり他人からそんなことされたら驚くよな。

 陽菜はよく口元を汚すから今みたいな事はしょっちゅうやっていた。


「いえ……その……いいんです。それより……妹さんがいたんですね……」


「ああ、それがもう手のかかる妹でな。何かあるたびに龍にぃ龍にぃって俺に泣きつくんだよ」


「龍にぃ……?……ですか……」


「だからさっきのはなんか、妹がてめえにダブって見えてな……ついやっちまった」


「ふふっ……そんなに私が妹さんと似ていましたか?」


「いんや全然。月とすっぽんくらい違うな。ちなみに妹の方がすっぽんな」


「そ、そうですか……」


 俺の言葉に反応してバルは体をモジモジさせる。


 ……なんか俺変なこと言ったか?

 つかコイツ、兜無しでもたどたどしいがちゃんと喋れんじゃねえか。


 そんなことを俺は内心思っているとバルは続けて俺に聞く。


「やっぱり……寂しいですか? 妹さんと……会えないのは」


「……まあな。俺にとっては唯一の肉親だしな」


「え……?」


「親は俺がガキの頃に死んでてな。……まあ食事時に話すことでもねえな。ワリい」 


「い、いえ、そんなことはありません!」


 バルはばつが悪そうな顔で両手を体の前で振って否定する。


「……えと……実は私の親も小さい時に亡くなってまして……」


 ……マジか。

 微妙なところでコイツとは共通の問題があったりするな。


「それでその……私にも一人兄がいまして……」


「……へー」


「……兄は私を養うために仕事で毎日忙しいのに……私の引っ込み思案なところを直そうと……色々してくれました。このゲームを始めたきっかけも……兄からの勧めだったんです。顔を隠してなら……お前もうまく話せるだろうって。……本当は自分もやりたかったくせに」


 そうだったのか。

 コイツの兄はコイツの事を本当に心配してたんだろうな。

 だとしたら兄は自分が勧めたゲームのせいで妹が奪われて……今頃後悔してるんだろうな。


 そして何よりコイツ自身も。


「……本人には口が裂けても言わねえが、俺は妹に危険があるなら命かけるくらいの覚悟はあるぜ」


「……?」


 俺はそう言いながらバルの方を向いて真剣な声を出す。


「だからこの世界からも命がけで出て行ってやる。そうしないと妹のそばで見守れねえしな」


 そしてバルに言い放った。


「だから俺に協力してくれ」


 俺に協力してくれと。


「ぁ……」


「一緒に大魔王を倒してくれ」


 俺と一緒に大魔王を倒してくれと。


「……はい!」


 そうした俺の真剣な頼みに、バルは笑顔でしっかりとそう答えた。


 これでいい。これでいいんだ。


 今の話を聞いたらコイツを危ない目に合わす事には抵抗がある。

 だがそうやって同情されて哀れまれて、安全な場所に非難して大人しく待ってろとか言われたらコイツはどうする?

 ……コイツは怒るだろう。そしてそんな風に扱われる自分を惨めに思うだろう。

 少なくとも俺はそうだった。


 俺とコイツは別に同一人物という訳でもないんだから、もしかしたら安全なところにいろと言われればすんなり受け入れるかもしれない。

 だがコイツはどことなく俺と同じ反応をするだろうと俺は思う。

 コイツは兄の事を慕っている。だからなんとしても元の世界に帰らないといけないと思っているはずだ。兄を心配させたくないがために。俺が陽菜に心配を掛けさせたくないのと同じように。


 それに変な同情をされたらコイツはもう腐っちまうような予感がある。

 自分の為に兄が勧めてくれたゲームの中でも自分はただ守られる事しかできないと変な風に悟ったら、多分コイツは今みたいに自分で自分を変えようとする気力さえ失う。

 だったら多少危険でも、外の世界を戦い抜いて自分の行動に自信を持たせるという事も一つの手だ。

 それに俺が傍にいれば万が一の時にコイツを逃がしてやる事もできるかもしれないしな。


 ……妹以外で命張ろうなんて思えたのは友也以来だな。


「何だったら俺をリュウにぃって呼んでくれても良いぜ?」


「……ぅええ!? えと……その……か、考えておきます……」


 俺がそう言うとバルは再び俯いてしまった。

 まあ俺じゃあコイツの兄代わりにはなれないか……。


 そんなこんなで俺らはメシを食い終わった。


 今日のバルはちゃんと宿の方に泊まっている。

 俺と同じく8人部屋で俺と同室だ。

 いや、だからといって何かあるわけじゃないが。寝る時は敷居の板を置けるしな。

 ちなみにレイナは8人部屋でバルが寝ることに物凄い勢いで反対し、自分の部屋にバルを引き込もうとしていた。そんなにバルと添い寝してえのかよ、レイナ。

 つかバルは寝る時も兜被ってるんだよな。レイナの部屋で寝てた時も兜着けていて寝巻きとミスマッチを起こしてたし。まあその方が大部屋では安全か? とりあえずあんまし気にしないでおこう。


 俺はベットに潜り込んで明日の予定を組み上げつつ夢の世界に旅立った。

 なんにせよ、大魔王倒す前に誘拐犯を先に捕まえないとな。











 そして目が覚めるとバルの姿は消えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ