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987:本の蟲

公園で休んだ後、今度はちゃんとしたお土産を買うために本屋に立ち寄った。

この時代の本は新本に関してはペーパーナイフを使って仕上げ裁ちとよばれる作業工程が行われていない状態で流通しているのが主流であり、それこそ高い値段で販売されていたものの、逆に新品であるという証明にもなっていたため、20世紀中期ごろまで流通していたアンカット本と呼ばれている種類の本でもある。

パリに関しては、そういったアンカット本が多く流通しており、特に主体的に取り組んでいるとされている。なので、ペーパーナイフが王族や貴族にとって必需品であったのも、手紙の開封だけでなくこうしたアンカット本を開封して読むことができるためであったともされている。


「最近の書店は随分と賑やかになったものだねぇ……」

「色々な内容の本が多く出回っているそうですからね……貴族の方々が読んでいた本なども、古本として再利用されておりますし、古本コーナーも多くの人で賑わっていますわね」

「主に顧客層は学生や労働者向けの娯楽小説も多く出版されているようだからね。戦時下とはいえ活字を使った娯楽が増える事は良い事だと思うよ」

「娯楽小説……」

「そう、例えば一般大衆向けでは冒険物の小説が人気のようだな、シャルルマーニュ伝説などをオマージュした小説などが流通しているようだし、中には大人向けの作品などもあるようだな……少し刺激が強い表紙が特徴的だし、これを買う人間は必ず人目に付かないようにカバーを掛けてもらっているようだ」

「そのような小説も出回っているのですね……」

「人間はそういった成年向け描写の作品が好きだからね。日本でもそういった専門の本が流通しているみたいだし、古今東西そういった話を好む層は存在するから、理にかなっている内容だと思うよ」


書店で多くの人が購入していたのは娯楽小説であり、これは現代で例えるならライトノベルのような小説である。科学的な専門雑誌も存在するが、こちらは物理学や化学などを学んでいる学生や専門家が購入しているようで、今回立ち寄った書店には『パリ大学の学生や専門学校生は定価より5%値引き致します』と書かれた札が置かれている。


専門雑誌やそういった本などは需要が限られていることもあってか、買う人が少ないようだ。

いくつかの本を眺めていると、ジョゼフが好きそうな本が置かれていた。

本のタイトルは『1900年のフランス』と題された本である。

著者は科学雑誌などに寄稿している学者などが連名で書かれているようで、科学的な視点から今から100年後に当たる1900年はどんな世界なのか想像して描いているようだ。

立ち読みしたいが、アンカット本でもあるので立ち読みには不向きだ。

これは俺も読みたいので2冊買っておこう。


「何か気になる本はあったかい?」

「そうですね……空想小説になりますが、こちらが気になっております」

「どれどれ……『黒薔薇の都』というタイトルなのか……」

「改革派でも話題になっていた小説ですの。何でもあらすじではパリでペストが大流行してしまった場合を想定した小説らしいのですが、ベルリンでの戦いの後に発生したペストをモチーフに書かれているそうです」

「なる程、パニック系の作品か……所謂終末系作品と呼ばれているやつだね。これも良さそうだね……」

「ええ、長編小説として有名だそうで、よく売れているとのことです」

「ふむ……これも2冊買っておくか、ジョゼフは本が好きだから喜ぶだろう」

「そうですわね。これも買っておきましょうか」


黒薔薇の都……気になったので調べると、どうやら本当にベルリンの戦い後に流行したペストをモチーフに、パリで同時多発的にペストが大流行してしまったら……という事を想定して書かれた小説のようだ。

パニック系作品としては俺もこういった小説が大好きであり、前世では日本や世界を舞台にした感染パニック系作品に関しては多く見てきた。

……が、実際に新型感染症が世界的な流行になった際には、そういった感染パニック系作品は現実とリンクしすぎてしまうという理由で放送を差し替えになったり、逆に先見の明があるという理由でオンラインストアで上位になるといった具合に心理的に見てみたくなるものだ。


この黒薔薇の都という小説のあらすじが書かれた宣伝用の紙に書かれていた内容としては、清潔を保っていたパリ市内の貧民窟で集団感染が起こり、さらにそこから人伝えにペストが感染拡大してパリが軍隊によって完全に封鎖されてしまうという内容だ。


毒性の強い新型ペストして作中で描写されており、消毒などの効果が薄くマスクなどを被っている者でも容赦なく気の緩みで接触した手から感染するというものだ。

感染に次ぐ感染によってパリ市内が大混乱し、逃げようとする人々に対して軍隊が周囲を封鎖し、食糧の受け渡しなども地区ごとに区切られた日を作って感染拡大を防ぎ、感染者が亡くなった場合には一か所に集めて火葬し、毒を拡散させないために石灰などで固めてしまうといった方法が取られるという。


(話を聞いた限りでは具体的な発生源なども決めてどんな状況でペストが大流行してしまうのかを想定して書いているようだな……流石黒死病として中世ヨーロッパの総人口の三割近くを消し飛ばした恐るべき病だけあってか、人々にとって他人事ではないというわけだ)


強毒性のペストが流行するという内容も凄まじいが、何よりもこの世界ではプロイセン王国との戦い後のベルリンで大流行したことで、多くの命が失われているという点にも注目が集まっている。

どうやら作者はベルリンの戦いに従軍した兵士であり、その兵士がもし同様のことがパリで起こったらどうなるかを想定して描き上げたそうだ。

ある意味、戦場となったベルリン市内で起こった出来事を克明に記録したものを再現しているというわけだ。


現実でも、新型ペストが流行してしまった街を舞台にした小説が第二次世界大戦直後に発表されているが、今回の場合はこの時代の人達がどのような行動をするのか?というのをシミュレーションして描いているそうなので、これは研究目的も含めてみておくべき作品なのかもしれない。


(これはすごそうな小説だな……うむ、やはり本屋に足を運んでみるのが一番いいな)


こうして本屋を見渡せば多くの人が本を選んで買っている。

そして、本の内容も様々であり出版社産業も大いに賑わっているそうだ。

学習の機会が増えたことにより、一般人でも識字率が大きく向上したことで文字を読んで活字を楽しむことが増えているというのは良い事でもある。

プラスの面でこういった形で反映されるのは喜ばしいことでもあり、同時にフランスだけでなくヨーロッパ諸国でも識字率を上げて読み書き能力を向上することができれば、フランスの出版社も大いに拡大していくことができるだろう。

これからが大いに期待することができる産業を視察できてよかった……。

ついでに本は合計6冊も買ってしまった。


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― 新着の感想 ―
 黒薔薇……最近出てこない奴を思い出すな。北米の脆弱さが顕にはなってるけど、推定ラスボスだけに不安が尽きない
黒薔薇とな……よもや北米複合産業共同体のプロパガンダとかじゃあるまいな?
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